第6話

 五月の空は水色だな。

 オレはボーっと空を見ていた。

 もっと濃い青になり、白い雲が目立つようになると夏だ。

 総合桜川女学院の東校舎の屋上である。

 誰もいない独り占めの場所だ。大の字で転がり、空も独占して、取り留めも無いことを考えていた。

 少し意識をずらすと、先週のシミュレーションの失態が思い浮かんでしまう。

 失態――といっても自分のではない。

 チームメンバーのだ。

 オレは低スペックながらミス無く、役目を全うしたつもりだ。

 まずヌエノ・コマチ。こいつは諦めが早すぎた。《スフィア》一体も落とせず、早々とリタイアした。

 作戦は好感持てたが、バトルがヘタ過ぎたフタガネ・イロハ。残弾十五発を一気に撃ち果たしてしまった。

 長射程だろうと中射程だろうと、近接バトルが展開できないわけではない。

 射程外からの戦いに慣れて、楽をしすぎなのだ。

 一人でも戦える力――それがチームの最低条件だ。

 イロハに関しては《スフィア》二体を相手にしていたということもあるから、それを考慮すれば、ギリギリ及第点かもしれない。

 一番の問題はサエジマ・ハナだ。

 彼女が作戦通りに動いていれば結果は違ったかもしれない。イロハとコマチのサポートのはずが、なぜか模擬戦が始まるとオレの側にいた。

 ナツと戦いながら、戻るように言ったが、頑固に留まり《トリックシード》を乱射した。

 ナツはまずハナを潰した。

 助けようとしたが、三体の《スフィア》に阻まれた。

 一人になると実力不足は否めない。ナツと三体の《スフィア》を相手に、徐々にHPを減らされ、ナツに止めを刺された。

 何より、ナツに敗けたのが一番悔しかった。

「結局、思い出しちまった」

 意識だけを空へ向けた――

 視界が影で覆われた。

 逆光でありながら、大きな目はその存在感を大きく主張していた。

「何を見てるの?」

「……今はテルコしか見えてない」

「いやらしい」

 影――テルコが戻っていったから、オレも身体を起こした。

 頭があったすぐ側で、テルコは四つんばいになっている。

「いやらしい――の意味が分かんないよ」

 その意味が分からないと言わんばかりに、小首を傾げた。

 大きい目は真っ直ぐにオレを見つめている。

 真円の黒い瞳から目を逸らし、話題も逸らしてみた。

「今日は一人なのか?」

「イナギと二人」

「そうだけど――」

 会話が成り立ってるんだか、いないんだか。

「オレはイナギじゃないよ」

「記憶がバカになったの?」

「オレがかよ――」

「お兄様とわたしと三人でよく遊んだでしょ」

「――お兄さんがいるのか?」

「いないわよ」

 テルコの声が冷やりとした響きを伴った。

「え?」

「いない――。いるわ。……今は? え? どこに?」

「テルコ?」

 目の輝きが薄れていく。意識が深淵の底に沈んだように焦点が合っていない。

 オレはテルコの名を呼びながら両肩を抑えた。細く小さい肩が手に収まる。

 その時、がっと手を外された。

 人影がテルコを抱き寄せた。

 ナツだ。

「おい。大丈夫なのか?」

「記憶が――混乱しているだけだ。君には関係ない」

「関係ないわけないだろ!」

「……君はもうテルコさんに近付くな」

「そんなこと言われても」

 ナツは無言で昇降口へ身体を向けた。

 腕の中のテルコは目を瞑っているようだった。

「ナツ!」

 オレはナツの足を止めさせた。

「もし――隠していることがあるなら全部さらけ出せ。協力出来ることも出来なくなるぞ」

 ナツはどこか逡巡して見えたが、

「隠してることなんかない」

 と、言い切り、テルコを連れて歩み去った。

 それを見送るように立ちつくした。

「あいつ、嘘つきネ」

 いつの間にかシレルが右後ろに立っていた。

「また、勝手に出てきて――」

「嬉しいくせにネ」

「どういう意味だよ」

 右腕にくっついてきたシレルを、無理矢理引き剥がしながら訊いた。

「キリはシレルを好きネ」

「いや、嬉しい理由じゃなくて、その前の――」

「嘘つき……ネ」

 シレルは翠色の瞳を、ナツが消えた方へ向けた。

「ナツが大事なことを隠しているのはオレでも分かる。でもそれは嘘つきとは違うだろ」

「あいつは、全てが嘘ネ」

「全て――?」

「キリはそんなことを考えなくても良いネ」

 シレルがまた引っ付いてきた。たわわなマシュマロが右肘を幸せにした。こんな素晴らしいものが世界にあるのかと、魔の手に落ちそうになった。

 頭を強く振って、シレルを引き剥がしにかかった。

「何でオレは考えなくて良いんだよ」

「そんな謀はキリに向かないネ」

「そうかもしれないけど――」

 ネ――と、シレルが嬉しそうに笑った。

「シレルと楽しく暮らしていけば良いネ」

「それは飛躍しすぎだ」

 唇を前に尖らせ近付く顔を抑えていると、視界の端に息を呑む気配を感じた。

 そうっと視線を動かすと、顔を真っ赤にしたハナが立っていた。

「……おす」

「あ……、え――と、キリくんが届いたから荷物を呼んで来いと――先輩が言われて――いや、先輩が言われて――」

「全然言い直せてないぞ」

「ごめんなさい――」

 ハナは海老茶の髪を大きく揺らせて頭を下げた。

「いや、誤解を解いておくと――」

 ハナは頭を下げたまま、踵を返した。慌てるように昇降口へ。二度躓き、挙句は自分で開けたドアに頭をぶつけるという特殊芸当を見せた。

「何だ――?」

「嫌われたネ」

「なんでまた」

「とにかく、ライバルは少ない方が良いネ」

 何のライバルだか……。

 大きくため息をついて歩き出す。

「どこへ?」

「荷物が届いたから、ハナが呼びに来たんだろ」

 今日部活に来た理由は、先週の屈辱を晴らす機会が与えられたわけではない。

 ナツの新しい《ゴッドピースメイル》が届くのであった。

 『クモ』との戦いで失われた鎧を新調――といいつつ、前と同じ仕様の『ホワイトスター』が開発部から送られてくるのだ。その調整を兼ねたシミュレーションを戦術チームJが担当するのだ。

「あの娘の言葉は、キリは来なくていいよって伝言ネ」

「そんなことは言ってない。それに行かないと後が怖いよ」

「つまんないネ」

「遊ぶのはまた今度だな」

 本気で残念に思っている自分が意外であった。

 苦笑いが頬に浮かぶ。

 昇降口へ向かおうとした足が二歩進んだ所で止まった。

 というより止められた。

 シレルが腕に絡んだまま動かなかったのだ。

「どうした?」

 彼女の視線の先に合わせる。

 同じ敷地内の体育館の屋根に人影があった。

「ヒューマノイド――?」

 純白の透き通る身体で、頭部が長く後方へ垂れている。

 イカ?

 オレからでは全身は見えないが、腰アーマーから垂れ下がる数本の飾りが烏賊の足に見える。手には刃の部分がねじくれた槍を持っている。

 ふと気付くと、シレルがいつになくまじめな顔つきをしていた。

 『イカ』に対して何らかの因縁があるのか――オレはそれを言葉にし損なった。

 槍の穂先で『イカ』が別の校舎を指したのだ。

 何かを知らせているようだ。

 『イカ』が指した校舎のL字の先には……都市伝説調査部の部室がある。

 悲鳴だ。近い!

 再び視線を戻した時には『イカ』の姿はなかった。

 シレルも消えていた。

 自分だけ蚊帳の外のような疎外感が心から拭えない。

 だが、今はそれどころじゃない。

 オレは昇降口から中に戻ると、一階まで一気に駆け下りた。廊下には騒然と女子たちが立ち尽くしている。その間をすり抜けていると、肌を違和感が撫でていった。

 《エレメンタルテリトリー》?

 駆けながら、右腕のブレスレットのクリスタルに触れた。

「着装!」

 クリスタルから発せられた光がオレを包む。両腕、両足、左肩、そして頭に装着感が伝わる。

 同時に、さっき通り過ぎた薄膜を突き抜けた。

 ざわめきが凍結したかのように、一瞬で静寂へと変わる。

 空洞のような廊下にオレの足音だけが響く。

 L字を折れると、廊下の端に人影二つ――一人はハナだ。相手はヒューマノイド。

 『イカ』ではなかった。腕の代わりに翼がある。

 鳥……いや、『コウモリ』か。

 ハナが《トリックシード》を撃ち込んだ。天井へ二本。既にかなりの数を消費しているようだ。撃ちこんだ跡が星座のようにバイザー内で表示されている。

 距離を詰める。

 『コウモリ』が翼を広げた。二メートル以上ある翼は、廊下の幅では広がりきらない。翼が奥の窓を塞ぎ、視界の暗さが増した。

 硬質な音を立てて床を蹴り、『コウモリ』は宙へと舞った。

 広がりきっていない翼だが、一扇ぎでハナの横を通り過ぎた――だけではない。

 足がハナの肩を掴んでいた。翼をたたみ、身体を小さく丸めて回転した。その勢いに乗せてハナを投げ飛ばす。

 ハナが短い悲鳴をもらす。

 追いついた。

 飛んできたハナを受け止める。声を掛ける暇はない。

 『コウモリ』がハナを投げた後、再び着地したのが見えたからだ。

 抱き止めたのと、『コウモリ』が床を蹴ったのが同時であった。

 何かを言いかけたハナを横へ追いやり、オレは前へ出た。

 正面に『コウモリ』が迫る。

 右足を蹴り上げ、真っ直ぐ飛んできた『コウモリ』の肩をその足で止める。

 しかし止まらない。

 飛行アビリティが相当高い。

 両手でハナを抱えたまま、支えの左脚一本で廊下を滑っていく。

「この!」

 オレは支えの足を宙に浮かせた。飛んでいる『コウモリ』の腹を振り上げて蹴る。

 『コウモリ』は天井へぶつかった。

 で、オレは床へと落ち――上にハナが乗ってきた。

 ぐふ――と、重みで肺から空気が漏れた。

 ダメージ判定でHPも減る。

 しかし気にしている暇はない。

 ハナも何かを言いかけたが、その相手をしている余裕もない。

 飛び起きると、天井から落ちてきた『コウモリ』の首を掴んだ。

 襟でなくとも首で充分!

 身体を捻って『コウモリ』を投げつけた。

 床にひびが走り、『コウモリ』の身体がバウンドした。

 勢いは止まらず滑っていく。

「キリくん――」

 後ろからハナが声を掛けてきた。

「コマチとイロハは?」

「いますわよ」

 バイザーを通してコマチの声がした。

「先輩は保健室の中です」

「保健室――?」

 バイザーの表示を追う。

 正面に赤の【Enemy】――『コウモリ』だ。

 すぐ背後に【ハナ】、その後ろに【コマチ】がいる。

 同じ位置に緑色の【Irregular】。

「これはテルコか――」

 振り向いてバイザーの表示と実際の位置を照合する。左側の奥から一つ目が保健室だ。テルコは屋上から保健室に運ばれ、ヒューマノイド――『コウモリ』の襲撃を受けた。

 全て憶測だが、全く的外れというわけではないだろう。

 だからコマチが中を固めているということか。

 イロハはどこに――?

 バイザーに灰色の三角で【Unknown】が表示されているのに気が付いた。

「シャロン? 二階で何をしてるんだ?」

 意識を【Unknown】に向けると表示が立体になった。どうやら二階――都市伝説調査部の部室にいるらしい。

「シャロンって誰ですか?」

 ハナが訊いてきた。

「カエルのヒューマノイドだ」

「敵ですか」

「いや。この前も助けてくれたから敵じゃない――と思うんだけど、知らないのか?」

「味方のヒューマノイドがいるという情報はないです」

「そうなのか? 確かにシャロンはヒューマノイドとは少し違う気がするな――」

 ――あれはシレルの仲間じゃないネ。

 急に声が聞こえた。

「そうなのか?」

「誰と話してるんです?」

 ハナが不思議そうな表情を浮かべている。彼女にしては珍しく、話していても逃げない。

「シレルだ」

「誰ですか、その人」

「……ハナには聞こえないのか?」

 ――シレルはキリのものだから、キリにしか声は届かないネ。

 そんなものか。

 もしかすると、他の皆にはシャロンの表示も、テルコの表示さえ出ていないかもしれない。

 ――それよりも、来るネ。

「キリくん!」

 ハナとシレルの注意勧告が同時であった。

 更に『コウモリ』による衝撃も同時であった。

 翼を広げて体当たりを仕掛けてきた。オレだけではなく、後ろのハナも巻き込まれていた。

 咄嗟に両腕でガードしたが、ダメージ判定は揺るがず、HPが削られた。

 足を後ろへ引き、床で踏ん張った。

 『コウモリ』は止まらない。

 ハナもストッパーになるべく両足を床へ着けた。

 それに対し、『コウモリ』が身体を捻る。

 力の向きが変わった。オレは左の部屋へ投げ出された。元々左側にいたハナに激突した。

 オレは廊下にかろうじて踏みとどまったが、ハナは扉を突き破って中へ。

「ハナ!」

 突き破って尚、ハナが転がっていく。弓を携えたコマチが立っていた。その奥に衝立があり、緑の三角がその向こうを指し示す。

 テルコだ。

 ここが保健室なのだ。

「《トリックシード》!」

 振り向きながら投げようとしたが、『コウモリ』が間合いを詰めていた。

 蹴りが迫る。屈んでやり過ごした。

 『コウモリ』の足がぴた――と止まり、急角度で戻ってきた。

 左の踵が左側頭部を打った。

 一瞬目の前が暗くなった。

 しまった!

 悔恨の念の中でブラックアウトしかけたが、名を呼ぶ声がそれを押し留めた。

「アカシアくん、無事か?」

 通信システムからだ。

 半ば遮断されている感覚を押し広げるように、何とか返事をした。

「……イロハか。どこへ行ってた?」

「遊んでたわけじゃない。それよりも急げ、サエジマさんが危ない!」

「ハナが?」

 飛び起きた。廊下の壁に倒れこんでいた。

 HPは半分を切っているが、まだ撤退するほどではない。

 【イロハ】の三角が速度を上げて接近している。

 『コウモリ』は後ろだ

 振り向いた視界に入ってきたのは、『コウモリ』と組み合うハナの姿であった。翼を掴んで保健室への進入を防いでいる。

 『コウモリ』の膝蹴りやローキックがハナのHPを徐々に減らしている。もう三分の一しか残っていない。

「ハナ、離れろ!」

「入らせるわけには――」

「コマチ、何をしている!」

「一人で何とかできるわけないですわ!」

「出来なくてどうする!」

「ヌエノさん、アカシアくん、五秒で射出する。アカシアくんはセットコール、サエジマさんは離脱を。――カウントスタート」

 五秒――イロハが駆けてくる音が聞こえた。

 四秒――オレは《トリックシード》を構えた。

 三秒――『コウモリ』が意図に気付いた。

 二秒――翼を広げようとする『コウモリ』を、必死でハナが抑えている。

 一秒――ハナのHPのゲージが四分の一を割り込んだ。

「シュート!」

 イロハの声が、バイザーとリアルで重なって聞こえた。

 保健室から曲線を描き、浮き上がるように廊下の壁へ。

 鋭角な破裂音を上げ、オレの横を過ぎて一直線に柱へ。

 オレはその二点を結ぶ最小の面となる一点を見つけた。

「ハナ、どけ!」

 投げる動作の一歩手前で動きを止めた。

 ハナが動かない。

 《コウモリ》に抱きつくように頭を押し付けているが、力の込め方が一貫的であった。気を失っているのだ。

 どうする――?

 迷いは一瞬。

「アカシアくん、作戦は中止だ!」

 イロハの指示を無視した。イロハのリーダーシップを軽視したわけでも、ハナを諦めたわけでもない。

 一つの賭けだ。

 《トリックシード》を目当ての箇所へ投げつけた。小気味良い音と共に床へ突き立った。

「シャロン! 頼む!」

「あたいに頼るな!」

 奥の窓から入ってきた影――シャロンが叫んだ。

 灰色の三角が【Unknown】と表示された。

 指が一点目――二点目――を繋ぐ。

 シャロンはハナに飛びかかり、『コウモリ』から引き剥がした。

 同時に三点目を結ぶ。

 『コウモリ』が逃げ出そうと屈んだが、オレの方が速い。

 セット――ライトマゼンタの三角面が『コウモリ』を捉えた。

「やりましたわ!」

 保健室から声が上がった。

「まだだ! あれではHPはゼロにできない」

 言いながらハナへ駆け寄った。支えきれずに下敷きになっていたシャロンを助け出す。

「大丈夫か?」

「あたいはいい。あいつを倒せ――」

 ハナのHPを確かめた。かろうじて残っている。

「イロハ、二撃目の準備を!」

 即答はなかった。イロハとコマチの疑念の目がシャロンに向いていた。

「アカシアくん、そいつ――」

「こいつは味方だ! 先に『コウモリ』を――」

「何で味方と言えるか、分かりませんわ!」

 目の端でシャロンが伏せ目を逸らした。

「イロハ! コマチ!」

 二人に動きが見えない。

 『コウモリ』を捉えている三角面が消える――

 オレは《トリックシード》を出した。

 ハナの残した点を利用するしか手はないが、点在しすぎて描画の最後の一点が決められない。点が近い、もしくは延長上に数点あると、制点した時に誤認し、別の三角面を作りかねない。あまりに広い面では拘束力も弱まってしまう。

 一番近い箇所で三角を作るしかない。

 しかし、《トリックシード》を投げたのと、ライトマゼンタの三角面が消えたのが同時であった。

 三点を選択する間の分、今度はオレの方が遅かった。

 『コウモリ』が床を鳴らし、翼をたたんでぶつかってきた。

「アカシア!」

 シャロンの声が響く。

 肩から当たってきた『コウモリ』を、オレは両脚を上げて受けた。踏ん張らずにやりすごすことで、背中で床へ着地できた。遠くにも飛ばされず、ダメージも少ない。

 しかも間合いはまだオレのものだ。

 ヘッドスプリングで起き上がった。

 ハナを抱えたシャロンを威嚇するように睨む『コウモリ』――二歩分の距離だ。

 その場で床を蹴った。

 幅跳びのように身体を反らせ距離を稼ぐ。

 『コウモリ』がシャロンを狙い、蹴りを繰り出した。

 その時には、オレが射程圏内に入っていた。反らせた身体を戻す力で突き出した両足は、『コウモリ』の胸へ突き刺さった。

 片足だった『コウモリ』は簡単に窓まで吹っ飛んだ。

 シャロンを狙っていた蹴りは大きく空振ったが、オレは背中から落ちた。

 再びダメージ判定。オレの残りHPも三分の一を切った。

 だが、傍からはそう見せない。すぐ起き上がると指先をぴんと伸ばして点を結ぶ。

 二点を結んだ時点で、『コウモリ』が立ち上がった。

 翼を広げ、天井を突き破り二階へ。更に天井を破壊して三階へ行った――ようだ。

 破壊された瓦礫がどさりと落ち、遅れて埃がふわりと開いた穴から降ってきた。

 そこでようやく大きく息を吐き、座り込んだ。

 最後の制点はハッタリであった。

 実は三点目が無かった。

 逃亡させることでバトルを終了させるためであった。

 あのままでは全滅も有りえたのだ。

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