第4話 メスガキをわからせよう!

「これでおじさんの人生終了だね♡ ざぁ~~~こ♡♡♡」


 姫勇者リリアナはそう言って、そのすべすべした足でエイタの顔面を踏みつけた。


「もが……もがもが、もががっ!」

「何言ってるかわかんな~い♡ あ、もしかしてぇ~、アタシがおじさんに犯されそうになったって嘘ついて牢屋にぶち込んだこと、怒ってるんだぁ♡♡」

「もがが、もがっ、もが~っ!」

「でもさ、おじさんが悪いんだよ? せっかくリリィが宿代を奢らせてあげるって言ってるのに断るんだもん。勇者を邪魔する悪者は、リリィが成敗しないとね♡♡」

「むがぁ、もがっ、むぐぁっ」

「てかさぁ~♡ ……さっきから生足舐めてんなよ、きっもちわるいなぁ!!」


 突如としてリリアナが足を振り上げ、エイタの顔面に向けて思い切り蹴り抜いた。牢に鎖でつながれたエイタは逃げることも出来ず、その蹴りはもろに頬を直撃する。


「がはぁっ!! ……舐めてない! 俺が喋ろうとするたびに、お前が足を口に突っ込んで邪魔してきてたんだろうが!」

「あれ? そうだっけ~♡♡ でもしょうがないじゃん。おじさんが喋るたびにくっさい息がこっちに掛かるんだもん♡」

「……くそ、ほんとに生意気なメスガキだな。俺はおじさんって歳じゃないし、息も臭くない」

「はいはい♡ 自分じゃ気付かないよね~♡」

「……ほんとに臭くないよな?」


 若干動揺しつつ、エイタはため息をついた。


「つーかなんなんだ、この国。なんでこのメスガキがこんなに崇められてんだよ」

「そりゃあ、リリィは姫勇者だもん」

「姫勇者?」

「そ♡ 強いこと、美しいこと、処女であること。この3つを満たした女の子に、教国のはじまりの姫であるエミリーヌ様の加護が与えられる。姫勇者は国を守る英雄だから、何をしても許されるの♡」

「何をしても……ね。無実の男を投獄しても、そいつをいたぶって遊ぶためだけに牢屋に立ち入っても、か?」

「わかってんじゃ~ん♡ ねえねえ、おじさんまあまあかっこいいし、リリィのお気に入りのおもちゃにしてあげてもいいよ♡ 一生リリィに服従するなら、ここから出してあげる♡♡♡」

「やだよ。つーかあんた、さっさとここから離れた方がいいぞ」

「は?♡ なんで?♡」

「ベルベッドがそろそろ戻ってくるから」


 エイタとベルベッドは、お目当ての山奥に向かうための経由点としてこの教国に入っていた。そしてベルベッドは、教国から目的地までの安全なルートを確保しするために、数日間エイタと離れていた。


「こんな場面がベルベッドに見付かったら、あんた殺されるぞ。あいつは自分のことでは大して怒らないけど、俺が貶められるとブチ切れるからな」

「……へぇ、大事にされてんだぁ♡」

「ああ、まあな! あいつは俺にはもったいないほど……」

「よくわかんないけどさぁ、その人す~っごいバカだよね♡」


 リリアナは口角を上げて笑う。相手の大事なもの――弱点を見付けたことへの、昏い喜びがこもった笑いだった。


「だってそうじゃん! おじさんみたいな雑魚を選ぶなんてさぁ♡ きっと人を見る目のない、雑魚で、低脳で、淫乱で……」


 がしゃん。


「……は? おじさん、手に付いてた鎖、どうやって外したの?」

創造クリエイトで鍵を作った」


 いつの間にか拘束を解除していたエイタが立ち上がる。立ち上がると大人の男の上背はリリアナよりはるかに高くて、リリアナはぺたんと尻餅をついた。


「な……なに? お、おじさんなんて怖くないんだけど♡♡ 言っとくけど、リリィは強いんだからね!!」

「……好き放題言ってくれたな、あんた。大人の怖さってやつをたっぷり教えてやるよ」

「……!! ……ふぅん、そういうこと♡♡ リリィを体で『わからせ』ようってんだ♡♡ いいよ、やってみれば?♡」

「………」

「っで、でもね! そうやってリリィを『わからせ』ようとした男は何人もいたけど、全員返り討ちにしてやったよ♡♡ 大人なんてみ~んな口だけだもんね♡♡」

「うん? ……その口ぶり。姫勇者ってやつは処女じゃなきゃいけないんじゃなかったか?」

「処女? そんなわけないじゃ~~ん♡♡ あははっ、バレなきゃい~の♡♡」

「そうか。とことん腐ってるな」


 そう言うとエイタは近くに置いてあったを拾い上げ、創造クリエイトで鍵を作り出して牢を出た。


「なんか勘違いしてるみたいだけどな、リリアナ。大人の怖さってのはそういうことじゃねえ」

「え?」

「付いてこいよ。ちょっと面白いものを見せてやるから」





「……ねえ、なんなわけ?♡ こんな広場まで案内させてさぁ♡」

「このくらい人がいれば十分か」


 エイタはリリアナを脅して、自分を牢獄から連れ出させていた。リリアナの権力は凄まじく、囚人であるエイタを牢獄から勝手に連れ出しても誰も止めようとしなかった。


「なに、何がしたいの?♡ てかさぁ、気になってたんだけど、ずっと牢の床に転がってたその箱みたいなのはなに?♡」

「これはビデオカメラだ。俺の創造クリエイトは便利でな。この世界には存在しないものであっても、俺の前世にあったものなら作り出すことが出来る」

「はぁ?♡」

「で、これがモニターだ」


 エイタの創造クリエイトによって、突如として広場に巨大なモニターが現われた。広場にざわめきが広がり、人々の視線がそのモニターに集中する。

 そしてエイタは、そのモニターにビデオカメラを接続した。


『これでおじさんの人生終了だね♡ ざぁ~~~こ♡♡♡』

「……は?」

『何言ってるかわかんな~い♡ あ、もしかしてぇ~、アタシがおじさんに犯されそうになったって嘘ついて牢屋にぶち込んだこと、怒ってるんだぁ♡♡』

「ちょ……ちょっと、なによこれ!♡」

「何って……録画を再生してるだけだが?」


 慌てるリリアナをよそに、広場のざわめきは徐々に大きくなっていく。画面に映し出されるリリアナの暴虐。


「おいおい、なんだよあれ。いくら姫勇者っつってもやりすぎじゃ……」

「最近ちょっとわがままになってきたとは思ってたけど、ここまでとは……」

「つーか見ろよあれ、リリアナ様ご本人があそこにいるぞ」

「くっ……」


 慌てたリリアナがエイタを突き飛ばし、広場に集まった人々の前に飛び出す。


「今リリィの悪口言ったやつ、出てきなさい! リリィはこの歳で国の防備なんてさせられてるんだから、ちょっとくらいわがまま言ってもいいの!♡ リリィがいなくなったらどうなるか、みんな分かってんの?」

「ぐ……それは」

「リリィほど姫勇者に向いてる子なんて、そうそう見付からないよ? リリィほど強くて可愛くて処女な子なんて、この国のどこを探しても……」

『処女? そんなわけないじゃ~~ん♡♡』


 広場の空気が凍り付いた。


『あははっ、バレなきゃい~の♡♡』

「……リリアナ様?」

「いや、これは、ちがっ」

「……俺たちを騙してやがったのか」

「条件を満たしていない場合、エミリーヌ様の加護は完全に発揮されない。そんな状態でちゃんと国が守れてたとは思えねえな」

「こいつ、自分がちやほやされるために国全体を危険にさらしてたのか!!」

「……ふっざけやがってえええええええ!!!!」


 広場に怒号が飛び交い、怒り狂った人々がリリアナに詰め寄る。


「ち、ちがうのっ! リリィほんとは経験なんてないし! きゅ、急におじさんが立ち上がってきて怖かったから、そうやって経験豊富なふりでびびらせようと思っただけでっ!」

「今さら言い逃れようってか、このメスガキが!」

「みんな眼が怖いってば! ね、ねえおじさん、どこ行ったの? 助けてよ! リリィ怖いんだけど!」


「……エイタ様。なんですか、この騒ぎは?」

「あ、ベルベッド。大したことじゃないよ。ベルベッドを馬鹿にした奴がいたから、ちょっと懲らしめてやっただけ」

「おや。……まったくもう。エイタ様は自分のことでは大して怒らないのに、私が貶められると抑えが利きませんね」

「え、そうかなぁ。当然の報いを受けさせてやっただけだと思うんだけど」

「ふふ。私としてはちょっと嬉しいですけれど。怒ってくださってありがとうございます、エイタ様」


 広場の喧噪をよそにいちゃつく2人。


「さて、それはさておき。教国をスムーズに出られるルートが見付かりました。差し支えなければ、すぐにでも出発しましょう」

「うん、オッケー。こんな国、さっさと出よう」

「ねえおじさん!♡ いやおにいさん!♡ お願い、戻ってきてリリィを助けて! お礼になんでもしてあげるからさぁ!♡♡♡」

「……なあ、ところでベルベッド。俺の息、臭くないよな?」


 響き渡る姫勇者の声を無視して、エイタとベルベッドは歩き出した。

 2人の旅は、まだまだ続く。


―――――――――――――――――――――――


 はい、今週も無事ざまぁできましたね!

 それでは、また次回もお楽しみに!! シーユーネクストざまぁ!!

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