第2話 幼馴染みを断罪せよ
「貴方との婚約は、破棄させていただきますわ!!」
絢爛たる舞踏会の中心で、ヴィヴィアナ・ルーベクシアはそう宣言した。
「な……なんだ!? ヴィヴィアナ様は今なんと仰った!?」
「こ、婚約破棄……? まさかエイタ殿に対して、婚約破棄をすると仰ったのか……!?」
「エイタ殿といえば、最近『ザ・レイダーズ』を追放されたという話ですが……」
周囲のギャラリーからどよめきが漏れる。みな一様に、ヴィヴィアナの突然の宣言に戸惑いを隠せない様子だ。
ヴィヴィアナの目の前には、困惑するエイタとそのメイドが立っている。言葉を発せないエイタに変わって、まずはメイドが抗議の声をあげた。
「失礼ながら、ヴィヴィアナ様。わたくしには発言の意図を図りかねます。いったいどういうおつもりですか?」
「どういうつもりもこういうつもりもありませんわっ! 聞きましたわよ。『ザ・レイダーズ』を追放されたそうですわね!」
「あ……ああ、まあな。昨日追放された。もう俺の能力はあいつらに必要ないんだとさ。でもそれと今の話は関係ないと思うんだが」
「関係大ありですわっ!」
びしぃ、とヴィヴィアナは人差し指をエイタに突きつける。
「高貴で美しい私が貴方ごときと婚約していたのは、あなたがあのS級パーティ『ザ・レイダーズ』の一員だったから! いくら幼馴染みだからといって、『ザ・レイダーズ』でない貴方と私が結婚するなんてあり得ませんわっ!!」
エイタ・クーリとヴィヴィアナ・ルーベクシアは幼馴染みだ。それぞれの邸宅が近かったこともあって、2人はよく一緒の時間を過ごしていた。
……と聞くと微笑ましい話だが、その実態はエイタにとってあまり好ましい話ではなかった。ルーベクシア家は王国随一の名家であり、貧乏貴族のクーリ家とは家の格が違う。それを笠に着たヴィヴィアナはエイタを侍従のように扱い、毎日こき使っていたのだ。
もし彼女を怒らせてルーベクシア家に睨まれれば、クーリ家全体の立場が危うくなる。それを理解していたエイタは、ヴィヴィアナの理不尽な扱いに耐えることしか出来なかった。成長したエイタが貴族社会を出て冒険者になったのは、ヴィヴィアナと距離を置きたかったからでもあるくらいだ。
もっともヴィヴィアナはそのあたりをさっぱり理解していないらしく、何でも言うことを聞くエイタは自分に心底惚れているのだと思っていたらしいが。
「……ご自分が何を言っているのか理解されていないようですね。ヴィヴィアナ様、本件についてはクーリ家からルーベクシア家に、後日正式に抗議させていただきます」
「メイド風情が口を挟まないでいただけるかしら! ふんっ、貧乏貴族のクーリ家が何を言っても無駄ですわよ」
「な、無礼な……!」
「……ふふ」
意味深な笑みを浮かべ、ヴィヴィアナが呆然とするエイタの耳元に口を近付ける。
「悪いですわね、エイタ。こうするしかなかったのですわ。『ザ・レイダーズ』を追放された貴方ごときと婚約しているとなったら、私の格も下がることになりますもの」
「は……はぁ」
「ま、ご安心なさい。私だって貴方のことはそれなりに気に入っていますのよ。だから貴方は、私の愛人にしてあげますわ」
「えーっと……だな」
あまりの事態に頭を抑えながら、エイタは答える。
「あの。まずはっきりさせておきたいんだが、俺とあなたは別に婚約してないよな」
「え? ……いや、何を言ってますの? 子供の頃何度も言っていたじゃありませんの。大きくなったら私と結婚するって」
「そりゃあそう言えってヴィヴィアナに強制されたからで。子供の頃の話だし、とっくに無効だと思ってたけど」
「は……。いやでもだって、『ザ・レイダーズ』のメンバーと正式に婚約が決まったって前にお父様が」
「それたぶんブレイブだな。そういえば名家の令嬢と婚約が決まったって言ってたわ」
しばらく口をぱくぱくさせていたヴィヴィアナだったが、すぐに立ち直ったらしい。自信満々の顔で、エイタに再び指を突きつける。
「おーっほっほっほ! 婚約破棄されたことを受け入れられなくて虚言に走るなんて、見苦しいですわよ! エイタが私以外と結婚するはずありませんもの! 下らない意地を張っていないで……」
「てか俺、結婚してるけど」
ヴィヴィアナは今度こそ完全に硬直した。
「ちなみに妻はわたくしですわ」
「は? ……い、いやあなた、メイドじゃありませんの」
「メイドと結婚したんだ。たまにプレイの一環で、恋人同士だった頃の格好で舞踏会に来る。今日みたいにな」
「な……な……」
「ちなみに当然ですが、他の方々は皆さまご存知のことです」
慌ててヴィヴィアナが周囲を見回すと、ギャラリーの面々はみな頷いていた。
「だからこそ本当にわけが分からなくて戸惑ったんだよなぁ。既婚者に対して婚約破棄って意味分からないもん」
「まさか子供の頃の約束を真に受けて婚約しているつもりだったとは……ぷくくっ、ヴィヴィアナ様もなかなかおかわいいことですな」
「くくくっ……。おい、失礼だぞ。ぷふっ」
ようやくすべてを悟ったヴィヴィアナは一瞬うつろな顔で天を見上げ、
「きえええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!」
奇声を発しながら、舞踏会から走り去った。
―――――――――――――――――――――――
はい。
いやぁ、今週も無事ざまぁできましたね! 字数も2000字ほどでちょうどいい。
さてと、それじゃあ1話でいただいた応援コメントでも見てみますか。
>1話でザマァ完結、面白い事考えられましたね。
>ウジウジイライラ無くて良いですが、もう1000文字加えて、読み応え欲しいかな?
>我が儘かも知れませんが。
………………。なるほど。
というわけで、ボーナストラックに続きまーす。
―――――――――――――――――――――――
「お父様お父様お父様ぁっ!!!!!!」
ヴィヴィアナは、号泣しながらルーベクシア邸を走っていた。
まさかエイタが自分のものにならないなんて、考えたこともなかった。結婚したという話は聞いたことがあったのだが、どう考えても誤報だと笑い飛ばしていたくらいだ。
何度もドレスの裾を踏んで転びながら、ヴィヴィアナは父の私室にたどり着いた。転がり込むように部屋に入ったヴィヴィアナを見て、驚いた父親が立ち上がる。
「な、なんだヴィヴィアナ、騒々しい! 来客中だぞ! いったいどうしたと言うんだ!」
「お父様ぁ~! ひ、ひどいですわっ! 『ザ・レイダーズ』のメンバーと婚約を取り付けたなんて言うから、私てっきりエイタのことかと! ブレイブなんて人と、私結婚したくありませんわっ!! お願い、婚約破棄してくださいましっ!」
「お……おいおいヴィヴィアナ、急に何を言い出すんだ」
ヴィヴィアナの父親は困り顔で頭を掻いた。
「今さら婚約破棄なんて、出来るはずがないだろう。……それにヴィヴィアナ、お前の結婚相手は、そのブレイブという男でもないぞ」
「……えっ」
「ちょうどいい。偶然だが、お前の婚約者がちょうど来ているんだ。いずれ夫婦になるんだから、ここで顔を合わせておくのもいいだろう」
ぎぎぎ、と。恐怖に顔を引きつらせながら、ヴィヴィアナは視線を来客の方に向けた。
ヴィヴィアナの本当の婚約者はにこやかな表情(だと思われるもの)を作り、その触手を1本上げて陽気に挨拶してみせた。
「ビビビビビ ダバマチナピピ ヌキギビミピチ(『お会いできて光栄だ、我が婚約者よ』と言っている)」
「いやああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
ルーベクシア家の巨大な邸宅に、ヴィヴィアナの悲鳴が響き渡った。
―――――――――――――――――――――――
ひどいなぁ。1000字伸ばしたおかげで、ヴィヴィアナさんがより可哀想なことになっちゃったじゃないですか。
ともあれ、そんなわけで今後は1章につき3000字前後になります。
今回に限らず応援コメントは可能な限り本編に反映するので、みんなどんどん要望を送ってくれよな! 当作品はカクヨム最高峰のリーダーフレンドリーを目指しております。
それでは、また次回もお楽しみに!! シーユーネクストざまぁ!!
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