第48話 お祭り

 今日と明日の2日間、夕方から校庭で毎年恒例のお祭りがある。

 校庭の真ん中にはやぐらが建てられており、そこから提灯ちょうちんを吊るす紐が四方八方に伸びている。

 射的や金魚すくい、わたあめやチョコバナナなど、校舎側に並んでいる様々な屋台はPTAの底力だ。


 ***


 拓真は達也に誘われてお祭りに来ていた。


「まだ若干明るいのに結構人いるね」

「そういえばクマちゃんは来るの初めてだよな?」

「うん」

「めっちゃ張り切ってるでしょ?」

「想像以上だね」

「毎年PTAの人たちが1週間前から準備してるからな」

「すげー」

「まずどこから行く?」

「どこでもいいよ」

「じゃあピンボールやるか」

「おけ」


 2人はピンボールの屋台に来た。


「らっしゃい! 1回100円ねー。どっちからやる?」

「じゃあ俺が手本を見せるから」

「うん」

「おじさん、まずは俺からやるねー」

「んじゃー、その玉をセットして始めてくれー」


 達也が玉をセットして拓真を見た。


「これはちょっとコツがいるんだよ」

「コツ?」

「まぁ見てなって」

「いけ!」


 押し出された玉が台に打たれた釘に弾かれながら下に転がっていく。


「左いけー!」

「……あれ、右じゃない?」

「あっ……」

「はい、50点ね。これ、カカオシガレット」

「……いやぁこれが欲しかったんだよー」

「本当かよ(笑)」

「んじゃ次はクマちゃんなー」

「てかコツってなんだったの?」

「覇気だよ覇気」

「あーね」

「おい、なんだよその反応!(笑)」

「おじさん、次は俺がやります」

「ほい、これが玉なー」

「おい、無視すんなー」

「よし、俺の力を見せますか」

「あれ? なんか空気変わった?」

「ここだ!」


 玉は先ほどよりも力強く押し出された。


「・・・・・・」

「無言の圧がすごい(笑)」

「・・・・・・」

「あれ、もしかして……」

「はい、50点。カカオシガレットねー」

「うーん、ビギナーズラックも出ないか……恐ろしい屋台だ」

「運任せかよ」

「仕方ない、一服しますか」

「カカオシガレットでカッコつけんな!(笑)」


 2人はお菓子のシガレットで一服した後、他の屋台も見て回った。

 途中で大輝だいき海誠かいせいも加わり、ひと通り楽しんだ頃、櫓から太鼓の音が聞こえてきた。


「おっ、始まるな」

「何が?」

「踊りだよ」

「あー、盆踊り的な?」

「まぁそんな感じ」

「前の学校ではなかったの?」

「そもそも祭りもなかったな」

「へぇー」


 老若男女問わず、太鼓や笛の音に合わせて櫓の周りで踊り始めた。


「あれ、みんなは踊らないの?」

「まぁ……ね」

「ちょっと恥ずいだろ」

「それな。もう小5だし」

「ふーん。じゃあ俺は踊ってくるよ」

「「「えっ……」」」


 3人は同時に固まった。


「こんな大勢で踊るなんて滅多にないだろ? あと少しで夏休みも終わるし、いい思い出になると思わない?」

「んー、確かに」

「クマちゃんの言うとおりだな」

「じゃあ数年ぶりに踊りますか」


 4人は輪に加わり、音色に合わせて踊り始めた。


「ねぇ美紀みき、間瀬君踊ってるよ(笑)」

「本当だ……ってなんで私に言うのよ莉沙りさ!」

「さぁ?」

「あれー、顔赤いぞー?」

結愛ゆあ!」

「冗談だよ(笑)」

「ムキになっちゃって、可愛いなー」

「もう、柚穂ゆずほまで!」

「あははー」

「でも、男子たち楽しそうね」

「だねー」

「……私たちも踊る?」

「踊ろっか!」

「賛成ー!」


 楽しそうに踊る4人を見て、浴衣姿の女子たちはゆっくり動く大きな輪に加わった。そして、それを見た近くの児童たちも一緒に踊り始めた。


 後で聞いた話では、初日は今までで一番盛り上がったそうだ。

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