第47話 エスカレーター
令和3年10月1日、「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が施行された。
この条例により、エスカレーターは立ち止まった状態で利用しなければならない。そして、管理者はその旨を利用者に対し周知しなければならない。
なお、この条例に違反したとしても現状は罰則がない。
***
お化け屋敷を堪能した拓真、達也、
「颯人は最近なんか変わったことあった?」(達也)
「んー、そういえば隣の部屋に4人家族が引っ越してきたなー」
「4人で挨拶に来たの?」(拓真)
「いや、母親と娘だけで、その時に4人って言ってた」
「ふーん」
「その娘可愛かったか?」(豪太)
「「言い方(笑)」」
「めっちゃ可愛いかった」
「おいおいマジかよ! 俺に紹介しろよ!」
「なんで豪太に紹介しなきゃいけないんだよ。まだ俺も話してないのに」
「じゃあ話したら次は俺な?」
「覚えてたらな」
豪太は嬉しそうな顔でガッツポーズをしている。
「豪太は最近なんかあった?」
「そうだなぁ……あっ、自転車のタイヤがパンクしたわ」
「どうでもいいな」
「おい、お前から聞いたくせに。てか達也はどうなんだよ?」
「うーん……」
達也は少し考えてから最近の出来事を話し始めた。
「そういえば最近
「えっ、なんで?」
「忘れたのか? 埼玉にはエスカレーターの条例があるんだよ。だよな? クマちゃん」
「うん。確か去年の10月1日から」
「あっ、そういえばそんなのあったなぁ」
「あと1ヶ月ちょっとで1年経つんだよ? やばくない?」
「階段使えばいいのに」
「颯人もそう思うよな。ただそのエスカレーターの真横に階段あったのにほとんどの人が使ってなかったんだよ」
「でも確か罰金とかなかったんじゃない? でしょ? 拓真」
「なんでみんな俺に聞くんだよ(笑)」
「だってよく変なこと覚えてるじゃん」
「おい。まぁ一応覚えてるけど」
「で、どうなの?」
「現状、罰則は特になかったはずだよ」
「やっぱり、それがいけないよな〜」
「それな。罰金あったら俺なら絶対止まるよ」
「豪太はそもそも階段派だろ」
「そうだった(笑)」
「でも罰金あったとしても誰がずっと監視して注意するかが問題だよな」
「駅員で良くね?」
「人足らないだろ」
「じゃあ地域の人たち」
「喧嘩になりそう」
「難しいな〜」
「おい、拓真もなんか意見出せよ!」
拓真は苦い顔をしたが、ちょっと考えてから自分の意見を言った。
「まず、罰則がどうこう以前の問題だと思う」
「「「どういうこと?」」」
「考えてもみろよ。エスカレーターは立ち止まって使用しなきゃいけないっていうのは、立ち止まって使用すればいいだけってことだろ?」
「「「そうだな」」」
「こんな簡単な条例も守れないないんだよ? もう考えるだけ無駄だよ」
「出た、クマちゃん節!」
「でもそうだな。ただ止まるだけがなんでそんなに難しいんだか」
「もう考えるのはやめて別の話しよう」
「じゃあ、怖い話でもする?」
「おっ、いいね〜」
「賛成」
「まず誰からやる?」
「じゃあ言い出しっぺの颯人から」
「オッケー。これは夏休み入ってすぐのことなんだけど——」
拓真たちはエスカレーターの話をやめて怖い話をし始めた。
たまたま4人の近くに座っていた大学生たちは、小学生に考えることをやめさせてしまう今の世の中が一番怖いと心の中で思った。
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