第37話 釣り
夏休みに入って2回目の土曜日、拓真は父親である
冬馬は
*
「拓真、この川はアジがよく釣れるらしい」
「へぇー、珍しい」
「知ってるか? アジは身が白っぽいから白身魚と思われがちだが、本当は赤身魚なんだ」
「ふーん、そうなんだ」
拓真は軽く聞き流しながら浮きを見つめている。
——ポチャ。
「あ、きたかも」
「
「悪役みたいな言い方だな」
拓真はリールを巻きながら近づく魚を凝視している。
「今だ!」
針に上手く引っかかっていなかったのか、魚は一度顔を見せたがそのまま逃げてしまった。
「早かったかー」
「まだまだだな」
「……そういう父さんは釣れたの?」
「いや」
「じゃあ一歩リードってことで」
「小さい一歩だな(笑)」
「初めてなんだから上出来でしょ」
「まぁな」
その後2人の浮きには数十分以上反応がなかった。
「全然釣れないね」
「そうだな」
「そろそろ場所変えたほうがいいんじゃない?」
「もう少しここにいよう」
「……分かった」
その会話の後も特に変化は見られなかった。
「ここ本当にアジよく釣れるの?」
「おかしいな。そう聞いたんだが」
「誰に?」
「由麻だよ」
「え、母さん!?」
「ご近所さんから聞いたんだと」
「……それ確かな情報なの?」
「さぁ?」
「・・・・・・」
「まぁいいじゃないか。釣れないなら釣れないで」
「適当だなー」
「はっはっはー」
拓真は呆れていたが、川の音や
「まぁでも、自然に触れながらぼーっとする時間もいいもんだね」
「それが釣りの
「いつもゲームばかりだからたまにはこういうのもありかも」
「んじゃ、来週また来るか?」
「……いや遠慮しとく」
「どっちだよ(笑)」
それから1時間経ったが、結局2人の
*
家に帰った2人は由麻にアジのことを聞いてみた。
「アジ? なんの話?」
「昨日の夜言ってたじゃないか。あそこの川はアジがよく釣れるって」
「私そんなこと言ってないわよ。味がいい魚とは言ったけど」
「味がいい……」
「父さんが聞き間違えたんだね」
「そうか……まぁそんな時もあるさ! はっはっはー」
「もう、あなたったらうっかりさんなんだから! うふふ」
「はぁ」
拓真は小さなため息とともに「似たもの夫婦だな」と思った。
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