第27話 影響

 梅雨の晴れ間は例年より少なく、本日の天気も雨。放課後になっても止むことはなく、校庭はぐちゃぐちゃになっている。


「あー、いつになったら梅雨終わるんだよー」


 第1校舎の昇降口前で大輝だいきが嘆いている。

 拓真は綿谷わたやの手伝いのため、帰りの会の後は図書室にいたが、それが終わって今は下駄箱付近にいた。


(早く帰ってゲームやろう)


 拓真がそう思いながら昇降口を出た時、大輝が気付いて声を掛けた。


「あれ、拓真じゃん。まだ帰ってなかったの?」

「ちょっと手伝いしてた。大輝こそ何してんの?」

「ぐちゃぐちゃになる校庭を見てた」

「……悟りでも開いた?」

「違うわ!」

「じゃあ変態か」

「なんでそうなるんだよ」

「ぐちゃぐちゃになる校庭を見てるなんてそれくらいしかないだろ」

「雨止んだらすぐサッカーできるかなって思ってただけだよ!」

「いつもサッカーのことしか考えてないんだな」

「悪いか」

「いや別に」


 少しの沈黙の後、拓真は傘を開いた。


「じゃあ帰るわ。早くゲームやりたいし」

「ちょっと待てよ。もう少し話そうぜ」

「えーーー」

「そんな嫌な顔すんなよ」

「少しだけだぞ?」

「分かってるって」

「てかなんか話すことあるの?」

「んー、ないな」

「帰る」

「冗談だよ!」


 拓真は面倒そうな顔をして大輝を見たが、大輝は気にせず質問した。


「前から聞きたかったんだけど、拓真ってなんでサッカー始めたの?」

「面白そうだったから」

「シンプルでいいな!」

「大輝はなんでサッカー始めたの?」

「まぁ……あれだよ。兄貴がサッカーやってて……その影響だよ」

「なんか嘘っぽいな」

「……ごめん嘘」

「やっぱり」

「もちろん兄貴の影響も少しはある。けど本当はアニメの影響が一番大きい」

「へー」

「アニメの影響ってなんか恥ずかしいだろ? だから言おうか迷ってさ」

「恥ずかしい?」

「なんか子どもっぽいじゃん」

「子どもなんだからいいだろ」

「いやなんかこーさ、カッコつかないというか……分からない?」

「うん、分からない」

「えーーー」


 大輝は肩を落としたが、そんな大輝を見て拓真が思いを口にする。


「人によって感じ方は違うんだから何に影響を受けるかだって違うだろ? だからそんなの気にするなよ」

「まぁそうだけど……なんかさー」

「この先何かに影響を受ける度に周りの目を気にしてたら、いつか自分を見失うぞ」

「え?」

「素直になれってことだよ」

「……素直かー」


 大輝は雨粒が弾ける水溜まりに目を移しながらそう呟くと、決心したような顔で拓真に気持ちをぶつけた。


「よし、決めた! もう俺はこのことで嘘つかない! 自分の感じたことに素直になるぜ!」

「その意気だよ。じゃあ帰るわ」

「お、おい! 俺も行くから待てー!」


 さっさと帰る拓真の後を、笑顔の大輝が追っていった。

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