第26話 エアコン

 先日のプール開きとともに静かに解禁していたのがエアコン。この学校は全ての教室に最新のエアコンが取り付けられており、一年中快適な学校生活を送れるようになっている。


 ***


 プール開きから昨日までの数日間は、気温がそこまで上がらなかったためエアコンは起動されなかった。

 しかし、今日は朝から気温が高めなので、5年3組では今年度初のが開かれた。


「よーし、出欠確認も終わったし、アレやっちゃいますか!」


 担任の島田は朝から元気だ。


「ん?」

「何やるって?」

「先生、アレってなんですか?」


 児童たちは「アレ」が分からないらしい。


「アレといえばアレだよ。毎年この時期になったらやるだろ?」

「……席替え?」

「毎年この時期なの? それクラスによらない?」

「確かに……」

「なんだろ……お祭りとか?」

「朝から?(笑)」

「おいおい、全然違うぞ! アレといえばそう、エアコン起動式だろ!」


 島田の口から予想外の答えが出たため、児童たちは困惑している。


「エアコン起動式?」

「何その意味不な式」

「エアコンけるだけってこと?」

「そうじゃない? 起動式って言ってるし」

「発想がおじさんだな」


 児童たちのコソコソ話は島田の耳には届かなかった。


「よーし、じゃあ点けるぞ。ポチッとな」


 ピー。


「いやー、今の時代は快適でいいなー。知ってるか? 先生の時代は扇風機だけだったんだぞ?」

「えー!?」

「マジっすか?」

「夏やばくないですかそれ」

「ああ、やばかったぞー。しかも両サイドに1台ずつの計2台だけだったから、とにかくやばかった(笑)」

「キツ!」

「教室でサウナできるwww」

「絶対熱中症になるじゃん」

「この時代に生まれて良かったー」

「そうだなー。本当に今の時代の子たちは恵まれてるよ」


 島田の発言が少し気になったのか、黙っていた拓真が口を開いた。


「本当にそうですかね」


 教室にある目は一斉に拓真を見た。


「どうしたんだよクマちゃん」

「そうだぞ間瀬。いきなりどうしたんだ?」

「確かに快適に生活できるっていう面では恵まれてるかもしれないですけど、常に危険にさらされている状態でもあるなーって思っただけです」

「どういうことだ?」

「このエアコンって最新のですよね?」

「おー、よく分かったな! いわゆるIoT家電ってやつだ」

「それ学校で使わないほうが良くないですか? 例えばこの学校にうらみがある人が、エアコンをハッキングして温度設定をデタラメにしたら……」

「ストップストップ! 考えすぎだって! 学校のセキュリティ対策は万全だぞ!」

「それをくぐり抜けるのが悪質なハッカーですよ。このネット時代に安全なところなんてないと思います」


 島田と児童たちは唖然あぜんとしている。


「技術が進歩すればするほど生活は快適になっていくと思いますが、新たな危険も生まれてくると思うので、本当に恵まれているかは怪しいところですよね」

「……そっ、そうだな」

「ちょっと怖くなってきた……」

「え、エアコン止めたほうがいいんじゃない?」


 拓真の発言に教室内がザワザワしている。


「まぁ今のは例えばの話なので気にしないでください(笑)」

「いや気にするだろ!」

「めっちゃ怖くなったじゃん!」

「ホラーの季節はもう少し先だろ!」

「間瀬君ってたまに怖いこと言うわよねー」

「しかもリアリティーがあるからより怖いわよ!」


 児童たちの顔からは緊張がなくなっていたが、島田は少し硬い表情をしている。


「先生どうしたんですかー?」

「もしかして今のが怖かったとか?」

「すまん、ちょっと考えごとしてた。気にするな」

「えー、なんか逃げた感あるー」

「確かにー」

「やっぱ怖かったんだよ。先生意外に苦手そうだし」

「そんなわけないだろ(笑) もう1時間目始まるから準備しろー!」


 児童たちが準備している中、島田はエアコンを操作する専用スマホをじっと見ていた。

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