第14話 校内清掃

 ほとんどの学校で毎日行われているであろう校内清掃。この学校も例外ではなく、その日の最後の授業後、班ごとに分かれて掃除をする。

 場所によって当たり外れはあるものの、担当は毎週変更されるため、児童による暴動ぼうどうが起きたことは一度もない。


 ***


 6時間目の授業が終わり掃除が始まった。拓真の班は教室を担当する。他とは違い、教室は二班ふたはんが担当することになっていて、もう1つは美紀の班だ。

 学級委員長である美紀は、みんなをまとめようと全員に指示した。


「私たちの班は真ん中から廊下側をやるから、そっちの班は真ん中からベランダ側をお願いね」


 みんなは素直すなおに掃除を始めたが、途中から男子がほうきと雑巾ぞうきんで野球をし始めた。


「ピッチャー達也選手……りかぶって……投げた!」

「オラァァ!」

「おーっと! 豪太ごうた選手、豪快な空振り!」

「豪太、まだまだだな!」

「フッ、調子に乗るなよ?」


 野球をする男子たちに気付いた美紀が声を張り上げた。


「ちょっと男子! ふざけてないで掃除して!」

「今いいところなんだから邪魔じゃますんな!」

「あと2球で仕留しとめるからちょっと待ってて!」

「待たない! さっさと掃除しないと怒るわよ!」

「もう怒ってるだろ」

「うるさい!」

「こわ」

「……クマちゃんはこっちの味方だよな?」


 ほうきで床をいていた拓真は美紀のすような視線を感じたが、元々この野球には参加していなかったので気にせず答えた。


「敵でも味方でもない」

「なんでだよ!」

「元々参加してないし」

薄情はくじょうなやつだな!」


 拓真はため息をついてから言い放った。


「そんなことしたって掃除が長引くだけだろ。さっさと終わらせて放課後に校庭でやろうぜ」


 野球をしていたメンバー全員が顔を見合わせた。


「……クマちゃんの言うとおりだな。さっさと掃除終わらせますか!」

「そうだな」

「俺雑巾洗ってくるわ」

「俺もー」


 拓真の発言後、掃除はスムーズに進んだ。

 そして机を元の位置に戻した後、美紀が拓真に話しかけた。


「さすがね」

「何が?」

「簡単にやめさせたじゃない!」

「あー、別に特別なことはしてないけどね」

「私の言うことは聞けないってこと?」

「それはないだろ。最初に指示した時は素直にしたがってたし」

「そうね……ならなんでよ」

「もう少し優しく言えば良かったんじゃない?」

「ふざけてるほうが悪いのに?」

「強く言われると反発したくなる年頃としごろだろ? 小5って」

「……また大人目線? あなた本当に何歳よ(笑)」

紫陽花アジサイ

「・・・・・・」

「あれ?」


 美紀は皮肉めいた顔で拓真を見続け、無言で席に戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る