第15話 小雨

 6月某日ぼうじつ気象庁きしょうちょうが関東の梅雨つゆ入りを発表した。この時期は、雨が多く降ったり湿気しっけが体にまとわりついたりして多くの人が不快ふかいな思いをする。しかもそれが1ヶ月前後続くのだから厄介やっかいだ。


 ***


 今日は一日中雨の予報だが、通勤通学の時間は小雨こさめだった。昨日の朝は土砂降どしゃぶりだったので、今朝けさは楽だと感じた人も多いだろう。

 ただ、戸田とだ颯人はやとは違っていた。


 颯人は美紀と同じ班で、掃除の時間にほうき雑巾野球をやっていた内の1人。その時は実況を担当していたが、実は野球が大の得意。短髪に黒縁メガネがトレードマークだが、密かに縁なしメガネに憧れている。


 朝の会が終わった後、達也と颯人が話していた。


「小雨もいいと思うけど、俺は昨日のほうが良かったわ」

「え、なんで?」

かさすかどうか迷うからどうせなら強めに降って欲しい」

「んーまぁ分からなくはない」

「あとそういう時って大抵たいてい他の人傘差さないんだよな」

「確かに」

「んでそれに合わせるとメガネがれるから嫌なんだよ」

「なら傘差せよ(笑)」

「それじゃ登校班で俺だけ差すことになる」

「……あれ、颯人の登校班って6年が班長?」

「うん」

「じゃあ颯人は副班長?」

「そうだけど、それがなんだよ」

「一番後ろのやつだけ傘差してたらおもろすぎるwww」

「だろ? だから嫌なんだよ」


 2人が話している時に、拓真がって入った。


「そんなの気にするなよ」

「拓真はメガネけてないからそう言えるんだよ」

「関係ないって」

「じゃあどうしてだよ」

「逆に聞くけど、小雨の時に傘差してる人見てなんか思ったことある?」

「いやないけど」

「だろ? 周りも一緒だよ」

「1人の時なら別にいいけど、登校班で1人だけはさすがに恥ずいって」

「周りに流されない感じがしてかっこいいと思うよ」

「そ、そうかなぁ」

「うん、かっこいいかも」

「そもそも傘差すかどうかは周りが決めることじゃないんだから、自分の好きなようにしなよ」

「……なんか達観たっかんしてんな」

「クマちゃんはいつもこんな感じだよ」

「ふーん、ならこれからはパイセンって呼ぶわ」

「なんで?」

「なんか大人感がすごいから」

「やめろよ。俺はまだまだ子どもだぞ」

「いいじゃんパイセン!」

「……まぁいいけど」

「さすがっす」


 新たな呼び名を付けられた拓真だったが、いつか飽きるからまぁいいかと思った。


「てかパイセンは今朝傘差したの?」

「あれぐらいじゃ差さないよ」

「おい、話が違うじゃん!」

「俺は雨好きだからちょっと濡れても気にしないし」

「なんだよ、もうパイセンやめるわ」

「はや(笑)」

「これからは雨男って呼ぶ」

「それは誤解ごかいを生む」

「気にすんなって」

「……まぁいいや」


 数分で呼び名を変えた颯人は後で拓真が晴れ男だと知り、天晴あっぱれマンと呼び始めたのだが、拓真はさすがに嫌がった。

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