第13話 感性

 図画工作。りゃくさず使うのはアナウンサーか文部科学省もんぶかがくしょうの人くらいだと思うので(言いすぎ)ここからは図工と呼ぶことにするが、個性が認められる数少ない授業(言いすぎ?)ということで、この学校では多くの児童に人気となっている。


 ***


 高学年の図工を担当するのは今年で32歳になる深山みやまむつみ。細くて高身長。モジャモジャの天然パーマと茶色っぽい目が特徴的。おさない頃から芸術を愛する男である。



 授業が始まり、深山が説明を始めた。


「今日は紙粘土かみねんどを使います。どんな物を作っても大丈夫です。たとえそれが実在しなくてもかまいません。残り5分になったら片付けるので、それまでに完成させてください。未完成の場合でもそのまま評価するので、そこはご注意を。では始めてください」


 各々おのおの何を作るか決めかねている時、拓真の周りは軽くふざけていた。


「みんなは何作る?」(達也)

「野球ボール」(豪太ごうた

「サッカーボール」(大輝だいき

「それ丸めるだけじゃん!」

「ダンボール」(海誠かいせい

耐久性たいきゅうせいがすごいよね、じゃないんだよ。ふざけてないで早く作ろうぜ」

「てか達也は何作るんだよ」(豪太)

「聞いて驚け……ドラゴンだ!」

「・・・・・・」


 あまりにもぶっ飛んだ発想でみんなが唖然あぜんとする中、拓真はいつも通り話しかけた。


「それ時間内に完成するの?」

「させる!」

「頑張って」

「おい、なんだその顔! 絶対無理だって思ってるだろ?」

「うん」

「まぁ見とけって! てかクマちゃんは何作るの?」

「タンブルウィード」

「……何それ?」

西部劇せいぶげきでよく見る転がってる草」

「あーあれね。なんで名前知ってんの?」

「テレビでやってた」

「へぇ……てかお前も丸めるだけじゃねーか!」

「馬鹿言うな、あれにはロマンが……」

「もういいわ!(笑)」


 *


 ふざけるのをやめて作り始めてから20分が経った。


「よし、俺もうできた」(豪太)

「俺もー」(大輝)

「え? お前ら本当に丸めて終わりじゃん」(達也)

「「残り時間は細かい修正だな」」

「海誠は?」

「あと少しで完成する」

「ふーん、てかそれUFOだろ? もしかして前に見たって言ってたやつ?」

「そう。まぁほとんど想像だけどね」

「あれだけ恥ずかしそうにしてたのに」

「ドラゴンよりはマシだろ」

だまれ(笑) クマちゃんはどう?」


 拓真は「ムズすぎる……」とつぶやきながら気付かずに制作を続けている。


「……ガチじゃん」

「そういう達也はどうなんだよ?」(豪太)

「とりあえず体はどうにかなった。あとは顔と手足をどうするかって感じ」

「ふーん、まぁ頑張って」

「マジで見とけよ!」


 *


 残り時間は1分。ほぼみんな完成して作品を見せ合っていたが、拓真と達也はギリギリまでねばっていた。


「俺のサッカーボールすごくね?」

「いや、俺の野球ボールのほうが上だな」

「2人は丸めただけだろ。見ろよこのUFO。圧倒的存在感!」

「——頭を付けて……完成!!」

「——よし……」

「おっ、2人とも間に合ったな」(大輝)

「見ろこのドラゴン! やばくね!?」

「「「どれどれ……」」」


 深山が終了の合図をしたのと同時に、拓真を除く3人は達也のドラゴンを見てあごが外れるほど驚いた。


「す、すげー!!」

「完成度エグ」

「達也にこんな才能があったなんて……」

「俺だってやる時はやるんだよ! クマちゃんも見ろよ!」


 拓真は疲弊ひへいした顔でドラゴンを見た。


「……天才かよ」

「どうも天才でーす」

「うるさ(笑)」

「クマちゃんのはどう?」

傑作けっさくだと思う」

「……いや、これゾウのうんこじゃん!www」

「やべー、マジだwww」

「あの時間何やってたんだよwww」

「腹痛いwww」


 4人に笑われた拓真は、下を向いて「ふっ」と鼻で笑ってから呟いた。


「俺の感性は君たちに伝わらなかったようだな」

「なにカッコつけてんだよ!」(豪太)

「誰がどう見てもゾウのうんこ」(大輝)

「ロマンばっか追い続けてるからだよ! 現実見ようぜ、クマちゃん」

「ロマン追って何が悪いんだよ。ロマンがなきゃつまらないだろ?」

「……急にかっこいいな」

「だろ?」


 *


 数日後、深山が特に芸術性を感じた作品を図工室のガラスケースにかざったということで、拓真たちは休み時間に見に行った。


 飾られた作品を見た拓真以外の4人はとても驚いたが、拓真だけは納得していた。


 その作品は結愛ゆあの力作だった。

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