第3話 見た目

 ある日の休み時間、5年3組では「見た目と中身どっちが一番大事か」というテーマで盛り上がっていた。と言っても規模は小さく、会話に入っているのは女子6人だけ。そして6人全員が同じ意見を持っていた。


「見た目と中身どっちが一番大事だと思う? ちなみに私は中身」

「中身かな」

「うちもー! やっぱり中身がダメだとないわーってなるし」

「それな(笑) 見た目良くても中身が悪かったら一気に冷めるよねー」

「分かるー」


 中でも一番主張していたのは学級委員長の木藤きとう美紀みきだった。


「絶対中身! やっぱり人は見た目じゃ判断できないと思う。話してみないと本当のことなんて分からないし」


 髪はロングで、ややつり目だが大きい瞳が特徴的。口調が強いせいか、男子には怖がられている。黙っていれば絶対モテるとよく言われているが、美紀の耳には入らないらしい。


 近くの席にいた拓真には話が丸聞こえだったが特に反応はしなかった。しかし、男子の意見が欲しかったのか、美紀が拓真に話しかけた。


「間瀬君は見た目と中身どっちが一番大事だと思う?」


 拓真は内心、面倒なことになりそうだと思いながら答えた。


「見た目」

「えっ、なんで?」

「誰だって見た目から入るだろ」

「そんなことない! 中身が大事って人はここに6人いるのよ?」

「じゃあ聞くけど、もし好きな人のタイプがショートヘアーだったら髪切ろうかなってちょっとは思うだろ?」

「うっ、確かに……」

「それって見た目で判断してもらおうとしてるよね」

「じゃ、じゃあ見た目は全くタイプじゃないけど話してみたら中身良かったってなったら? これは絶対中身でしょ!」

「全くタイプじゃない人にそもそも木藤さんから話しかける?」

「話しかけないけど……」

「だろ? そういう場合は話しかけられて気付いたってのがほとんど。興味を持ったかどうかで話す話さないが決まるなら、それは見た目で判断してるよ」

「うーん……じゃあ人は中身よりも見た目が大事だってこと?」

「もちろん中身も大事だよ。見た目が良くても中身が悪かったらダメってのは当然だし」

「だったらなんでよ」

「そうだな……じゃあ怖い顔の人と可愛い顔の人、どっちが話しかけやすい?」

「それは可愛いほうでしょ」

「なんで?」

「だって怖い顔の人はやばそうじゃん!」

「ほら、見た目で判断してる」

「あっ……」

「怖い顔の人が優しくて、可愛い顔の人がやばいかもしれないだろ? でもそんなの見ただけじゃ分からない」

「確かに……」

「中身が分からないから自然に見た目で判断してしまう。それが人間なんだよ」

「そういうものなのかなー」

「まぁ別にどっちでもいいんじゃない?」

「ここまで話しといて!?」

「女の勘は当たるって言うだろ? なら思うままにすれば?」

「何よそれ……てか、間瀬君ってなんか大人だよね」

「ただの小学5年生だよ」

「どっかで聞いたようなセリフね(笑)」

「だろうね(笑)」


 2人の会話に圧倒された5人は息をするのを忘れていた。全員が呼吸を整えて一斉に口に出したのは「2人とも気が合うんじゃない?」だった。


「「合わない」」


 2人は同時にそう言った。


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