1学期

第2話 馬鹿

 転校した日の翌日、書類確認のため拓真は担任の島田と職員室に向かっていた。

 この小学校は3階建て校舎が3つ平行に並んでおり、職員室は第2校舎の1階にある。学年は奇数と偶数で校舎が別になっており、奇数は第1校舎、偶数は第3校舎だ。階は低学年から順になっているので、5年生の教室は3階に位置している。そのため、職員室はやや遠い。

 最短ルートは2つある。1つは、2階にりて渡り廊下を通り、第2校舎に移ってから1階に下りるパターン。もう1つは、1階に下りてから外廊下を通って第2校舎に移るパターンだ。

 2人は1階に下りてから向かうほうを選んだ。


 1階まで下りて外廊下を通っている時、2人の後ろから言い争っている声が聞こえてきた。


「バーカバーカ」

「バカっていうほうがバカなんだよ」


 どうやら1年4組の男子2人が口喧嘩をしているらしい。

 島田は聞こえていないのか、気にする様子もなく歩いている。


「先生、ちょっとここで待っててください」


 拓真は2人の元へ走った。


「うるさい、バーカ」

「バカはおまえだ、バーカ」


 2人に近づいた拓真は突然話しかけた。


「ねぇ君、馬鹿って言うほうが馬鹿って言ってたよな? なら君も馬鹿だよね」

「あっ……」

「いぇーい、だからおまえはバカなんだよ!」

「うーん、でも馬鹿ばっか言ってる君も馬鹿っぽいよな」

「えっ……」

「おっと、いっぱい馬鹿って言ってるから俺のほうが馬鹿だったわ(笑)」


 流れるような拓真の発言に、1年生の2人は唖然あぜんとしていた。


「2人ともごめんな、馬鹿って言っちゃって。じゃあ俺は用事があるから」


 拓真は2人の反応も確かめず、島田の元へと戻った。


「間瀬、どうしたんだ突然。あの2人になんかあったのか?」

「今流行りの馬鹿って言い合うゲームやってました」

「なんだそれ? 面白いのか?」

「ずっとやってると馬鹿らしくなって笑いが絶えないって評判ですよ」

「ふーん、そうなのか。笑えるなら、いいゲームだな」

「今頃あの2人も笑い合ってると思いますよ」


 *


「なんかあのにいちゃん、へんだったな」

「だよな、なんかへんだった」

「「・・・・・・」」

「「ぶっ、はっはっはっはー」」


 拓真が離れてからすぐのこと、2人は笑い合っていた。

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