第17話 飲み会の日
悠が澪桜から飲み会のお許しをもらってから数日が経ち、今は金曜日の17時15分。
悠と陸はいつも悠が使う喫煙所の向かい側にある休憩スペースで飲み会の主催者を待っていた。
「ねぇ悠。経理部の人達って何人くらいくるの?」
「それが、詳しい話は聞いてなくてな。ただ来いとだけ言われたんで何人来るとかは分からんな。」
「そっか〜。まあ、うちら以外に他の部署の人達も来るだろうけど。」
2人が話していると、例の二人組がやってくる。
「お待たせしました。一条さん。そちらの方が誘っていただいたご友人ですか?」
「はい。俺の同期で同じ係で仕事してます。」
「初めまして。中野陸と言います。今日はよろしくお願いします。」
陸は普段通りゆるーく挨拶する。
「こちらこそよろしくお願いします。私は経理部の東雲美月と申します。隣の子は同僚の高野詩織です。」
「どうも。よろしくお願いします。」
「他には何人くらい来るんですか?」
悠は美月に尋ねる。
「後、男女4人ずつ参加予定になっています。総務部と営業部の方が2人ずつで。既にお店に向かっていますよ。」
当のお店は会社から歩くとそこそこ時間がかかる。
場所的には悠の家から歩いたほうが全然近いくらいだ。
今日はお酒を飲むので、電車で通勤していたので足がない。
4人はタクシーを拾ってお店に向かう。
「あの、隣失礼しますね?」
「ええ。どうぞ?真ん中で狭くてすみません。」
タクシーの配置は、陸が助手席に座り、後部座席に悠、美月、詩織の順で座っている。
悠は身体が一番小さな詩織が真ん中の方が良いのではないかと思ったが、まぁ本人達がいいなら口を出すことではないだろう。
詩織は悠に見えないように、美月にサムズアップしていた。
ナイスよ詩織!これなら合法的に一条さんの隣に座れるわね。
それにしても、こんなに一条さんの近くに寄るのは初めてだけど、何だか女性が使うシャンプーの匂いがするのよね。
これ、彼女さんの使ってるやつを兼用しているのかしら…?
などとモヤモヤしながら色々なことを考えているとあっという間にお店に到着していた。
4人は割り勘で支払いを済ませてタクシーを降りる。
「…美月、ヘタレすぎ…。隣で密着して座っていたのに何も話さないとか…」
詩織がジト目で美月を睨みつける。
「な、何よ!そんなのいきなり過ぎて何話せばいいか分からないわよ…!」
2人は何やら言い合っていた。
「悠。東雲さんも高野さんもなかなかの美人さんだね?まっ、今の悠には関係ないかっ」
陸はにやにやしている。
「美人なのは認めるが、澪桜に敵う人はこの世にいないからなぁ…」
「おぉー。言うねぇ。まぁ、あそこまで尽くされたらそうなるよね〜。」
いつまでも店の外で無駄話をしても仕方がない。
4人は、店に入ると貸切用の広い部屋に掘りごたつがあしらわれた和室に通される。
そこには例の総務部と営業部の人と思われる4人が先に席に着いていた。
後から合流した4人は簡単に挨拶を交わしてから幹事である詩織の合図で飲み会が始まった。
最初の乾杯が終わると各々自由に席を行き来する。
総務部と営業部の男達は、彼女がいないのか、その目は何だかギラギラしていた。
今日の飲み会のメンツは女性陣のレベルが高い。
それは側から見ても明らかだろう。
悠と陸以外の男達は、経理部の二人(美月と詩織)を完全にマークしていた。
陸は詩織と営業部の女性と酒を飲みながら楽しそうに話している。
「はぁ〜。澪桜は何してるかなぁ…。」
悠の心はここにあらずであった。
「一条さん。なあにつまらなそうな顔してるのかしら?」
美月は隙ありと言わんばかりに、悠の隣に座る。
「いえ。別につまらなくなんかないですよ?初対面の人と積極的に話すのが得意ではないだけです。」
「もぉ、そんな嘘すぐにバレるわよ?監査であれだけイケイケの人がそんなわけないでしょ。」
この人も無駄なところで鋭いよなぁ。
陸にそっくりだ…。
「そんな顔してないで、飲みなさいよ。」
美月は悠のグラスにビールを注ぐ。
他の女性陣はそれを恨めしそうに見ていた。
美月は、他の女性も悠を狙っていることは分かっていた。
他の男を見る目と視線が違うから。
しかし、一条さんには彼女がいる。
そのことを彼女達は知らない。
私はそれを承知で彼を追う。
いつかあるかもしれないチャンスを待つように。
「あなた達にその覚悟はあるのかしら…?」
「え?なんだって?」
「い、いえ!こっちの話よ。」
悠は美月のお酌に礼を言い、ちびちび飲み始めた。
「悪いね。東雲さん。ほら、グラス出して?」
「あ、ありがと…。」
美月はほんのり頬を赤くしながらグラスを悠の方に傾ける。
頬が赤いのは酔っているからか、それとも他の理由か。
分かるのは本人だけだ。
悠は美月のグラスにビールを注ぐと、無意識にタバコに手が伸びる。
「おっと。つい癖で…。」
悠は禁煙者のことも考え、喫煙所に出ようと席を立つ。
美月はそんな悠を見逃さなかった。
「ちょっと煙草吸ってくるわ。」
「あ、私も行くわ。」
美月は悠と一緒に席を立とうとすると、他の女性陣が静止に入る。
「別に、禁煙席じゃないし大丈夫ですよ?私達は気にしませんのでここで吸って下さい。」
2人きりで出て行こうとするのを他の女性陣が阻止した。
ちっ…。余計なことを…。
美月は悔しそうに奥歯を噛む。
「なんか気を使わせてしまってすみません。嫌だったら言ってくださいね?」
悠は申し訳なさそうに謝る。
「全然大丈夫ですっ!むしろ私煙草吸ってる男性の姿好きというか…。」
その子はもじもじしながら悠に言う。
お言葉に甘えた悠は煙草に火をつけた。
女性陣は物思いにふけるように煙草を吸う悠を見てうっとりしていた。
「一条主任やっぱりかっこいいよねぇ〜。絶対連絡先聞いてやるんだから。」
「えっ!抜け駆けしないでよね。」
そんなやりとりは悠には全く聴こえていなかった。
考えていることは澪桜…以下省略。
美月は悠に見惚れながらも、負けられないと気合いを入れる。
「悠はモテるねぇ〜。これじゃあ彼女さんも心配するんじゃないかな?」
陸はそんな様子を見て笑いながら詩織に言う。
「あんなにイケメンで仕事も出来て、それを鼻にかけることもしない。モテて当たり前だと思うけど?」
「へぇ?見る目があるね〜。何?悠に惚れちゃった?」
「興味ない。それに私なんかがおこがましいわ。ああいう人は美月みたいな美人な女が相応しいと思うの。」
詩織は自嘲気味に笑いながらもしっかりと美月にフォローを入れた。
「高野さんだっけ?君、いい女性だね。」
詩織が悠に興味がないのは本当だろう。まぁイケメンであるとは思っているだろうが。
「私を口説いているの?」
「いやいや、俺も彼女いるからさっ。それに…高野さんにはそのうち良い男が出来ると思うよ。」
「それはありがと。あなたも良い男よ。」
陸と詩織は酒をあおりながら言葉を交わす。
「あの東雲さんって美人さん。悠に惚れてるでしょ?」
陸は美月を見ながら確信をつく。
「何でそう思うのかしら?」
詩織はポーカーフェイスで質問を返す。
「そんなの見てれば分かるよ。悠を見る目が他の男を見る目と違うもん。」
「へぇ。考え過ぎじゃないかしら?それに美月は一条さんに彼女がいることを知っているのよ?」
「それは気の毒だね。タッチの差で出会うのが遅かったのかも。あんだけ美人でスタイルも良いし、これで人も良ければ綾瀬さんよりも先に出会っていたら落とせてたかも。」
陸は全てを悟っているかのように言葉を発する。
「美月ではもう勝ち目がないと…?」
詩織は会社で一番仲の良い同僚が勝ち目はもう無いと言われているようで少しムッとしていた。
陸はそんな詩織の質問にいつもは見せない真面目な顔で答える。
「うん。無理だね。別に東雲さんがダメだと言っているわけじゃないよ?ただ、単に…綾瀬さん、彼女はそこらの女性とは違うよ。あの人から悠を剥がすことは絶対に出来ない。相手が悪すぎるよ。」
詩織はその返答に言葉が出なくなっていた。
陸がハッタリなど言っていないことはすぐに分かったから。
それでも、詩織は美月に幸せになってもらいたかった。
「ずっと続く恋なんて果たしてどれくらいあるのかしらね…?結婚するまでは分からないわ」
「そうだね。確かに長く続く恋愛関係なんて挙げたらそんなにないだろうね。ただあの2人は最後まで行くよ。」
陸には分かる。
悠があんなに女性に想いを寄せることは初めてだったから。
伊達に6年同期やってない。
入社当時から一番の友人であり今は上司になってしまったが。
今もその関係の本質は当時と変わらない。
詩織は完全に黙ってしまった。
陸の言いたいことを悟ってしまったのだろう。
陸は雰囲気を悪くしたことを申し訳ないと思いおどける。
「それに…。悠は巨乳が好きなんだよ?綾瀬さんの胸を超える女性はそうそう居ないと思うけどなぁ。」
陸は笑いながら目線は美月を見ていた。
「中野さん。それ、セクハラよ?」
「ちょ、ちょっと!冗談だって!あ、冗談ではないんだけど〜。んんー難しいなぁ〜」
詩織は陸の心遣いに気づいていた。
だからそれ以上追求はしなかった。
「一条さんは良い友達を持ったわね。でも私は美月が諦めるまでは味方でいるわ。」
「まぁそれで良いんじゃないかな?俺でもそうするだろうし。」
2人はいつの間にか気が合う良い仲になっていた。
お互い友人想いなのだ。
陸と詩織は苦笑しながら酒をあおっていた。
美月は少し不機嫌そうな顔で煙草を吸っていた。
まったく…何なのよ。
もう少しで一条さんと2人きりになれたのに。
美月はせっかくのチャンスを棒に振ったことを嘆いていた。
「あのぉ、一条さんって〜彼女さんとかいるんですか?」
来た〜。自分から地雷を踏みに行ったわね?
そりゃ、交流会と称した合コンチックな飲み会に彼女持ちが来るとは思わないわよね。
ほらっ、一条さんバシッと言ってあげなさい?
「はい。いますよ?」
美月と詩織を除く女性陣は驚きの声をあげていた。
「「え〜〜。彼女いるの〜〜!?」」
「はい。え?何かまずかったですか?」
悠はこの飲み会を純粋に交流会だと思っているのだから、彼女持ちだろうと別に構わないと思っていた。
「い、いや〜。別にまずくはないですけど…こんな飲み会に参加して大丈夫なんですか?彼女さん怒ったり…」
「いえ。ちゃんと許可貰ってますから。楽しんで来るように送り出してくれましたよ?」
悠は事実をありのままに話す。
「ほぇ〜。やっぱり一条さんくらいの男性を相手にするとなると、それくらいの器量は必要なのね。」
「うんうん。じゃなきゃ、こんなイケメン彼氏に外歩かれてたらヒヤヒヤしちゃうもんね。」
2人は何故か勝手に納得していた。
美月は2人が悠から興味が離れたのを見逃さなかった。
所詮この程度の女。
私とは覚悟のレベルが違う。
「いやいや。そんなことないですよ。昨日の夜も浮気したら許さないって笑顔で言われましたし。」
悠は苦笑いしながら言う。
そんな言葉に美月の心はズキっと痛んだ。
自分がやろうとしていることは、そういうこと…。
泥棒と同じだ。
でも、それでもこの想いは止められない。
普通は想い人に彼女がいたら諦めるのだろう。
でも私にはそれは出来ない。
このまま指を咥えて大人しく見ているなんて出来ないの…。
「ほらっ、一条さん飲み足りないわよ?」
美月は悠のグラスに並々とビールを注ぐ。
「全くしょーがないな。」
そんなやりとりを見ていた陸を除く男性陣は恨めしそうに悠を見ていた。
「さっきから東雲さん、一条に付きっきりじゃんか〜」
「はぁ〜やっぱイケメン高スペックに全部持ってかれんだよなぁ。今回は相手が悪かったよ」
2人は泣きべそをかきながら酒を飲み交わしていた。
* * * * * *
所は変わって、悠の自宅。
澪桜は普段なら悠と過ごしている時間に一人で居ることにどことなく寂しさを感じていた。
「はぁ…。お仕事の飲み会だから仕方ないけど、やっぱり寂しい…」
澪桜はリビングのソファーで寝そべりながら悠のことを思い出す。
「悠くんに限って他の女の子について行っちゃうなんてことはないと思うけど…やっぱりちょっとは不安。」
「悠くんかっこいいし。他の女の子だって絶対放って置かないわよね。でもあまり束縛して面倒な女だと思われるのはもっと嫌…」
そんな風にネガティブな考えが思いつくと、ドツボにハマっていく。
そんな澪桜はRINEで悠とのトーク履歴を開いていた。
画面を見ると「今仕事終わったよ。飲み会行ってきます。」が悠の最後の返信だった。
澪桜はあることを思いついた。
そして、悠にメッセージを送る。
澪桜は早く返信が来ないかなとそわそわしながら待っているのであった。
* * * * * *
悠は美月にだいぶ飲まされていたせいもあってか、いつになく酔ってきていた。
「あら、ちょっと飲ませ過ぎたかしら…」
いつもとは違う悠。
赤みを帯びた顔に整った目は少しトロンとしている。
それでも、あれだけ飲んでまだこの程度なら悠はかなり酒に強い方なのだろう。
普通の人なら潰れていてもおかしくない。
「一条さん。ごめんなさい、ちょっとお酒注ぎ過ぎたわね。」
「いやいや、気にしないで下さい。これくらいならまだ大丈夫ですから。」
悠はいつもより少しだけ愛想が良くなっていた。
悠は酔っ払うと愛想が良くなるのであった。
普段は真面目でキリッとした出来る男なのに酔うとよく笑い愛想が良くなる。
美月はこのギャップに堪らなくなっていた。
な、なによもぉ、なんでこんなに可愛い顔で笑うのよ〜。
こんなの良いと思わない女いる訳?
美月はこんな悠を独り占めできる
そんな時、悠の携帯に着信音が鳴る。
悠はスマホを見ると澪桜からの新着メッセージだ。
悠は先程よりも笑顔になり、スマホを触り始めた。
「え〜なになに?彼女さんですか?」
女性陣がキャーキャー騒ぎ始める。
「え、ええ。ちょっと。」
澪桜からは、「飲み会楽しんでますか?今日はどちらで飲んでいるのでしょうか?何時頃終わりますか?」と何気ないメッセージ。
きっと一人で暇をしているのだろう。
悠は、お店と終わる時間を返信してからスマホを机に置く。
その後、澪桜からは返信は来なかったが、悠は酔っていたこともありそこまで気にしていなかった。
さっきのメッセージの意味に。
それからしばらく宴は続く。
終始、悠の隣に張り付いていた美月も程よく酔っていた。
「ねぇ〜。一条さん〜。そんなに彼女さんが好きなんですかぁ?」
いつもより距離が近いのは酔っているからだろうか。
悠もいつもより距離が近い美月に違和感を感じていなかった。
「そりゃ好きですよ。ありがたいことに毎日尽くしてくれています。」
「そりゃあんなお弁当作って貰ってたらね…。って!お惚気は家でしてよね!?」
美月は自ら振った話題で自爆していた。
そんなこんなで時刻は夜の9時。
飲み会終了の時間だ。
詩織は締めの挨拶を終えて、解散を告げる。
「結構楽しめたね。何か一部の人達は次行くみたいだけど。悠は二次会行くの?」
「まぁ楽しかったな。いや、普通に帰る。澪桜が待ってるからな。」
陸は分かりきった答えを聞いて笑う。
「俺も香奈が待ってるし。帰ろっか。」
悠と陸は真っ直ぐ帰ることに。
美月と詩織も今日は次には行かずに帰るらしい。
幹事の詩織が会計を済ませて皆で店を出る。
悠も皆の後に続き外に出ると驚きの光景が。
「ん?あれ…?澪桜?何でここに?」
悠の声に気づいた澪桜は可愛い顔をニコっと笑顔に変え小走りで近づいてくる。
「あ、悠くんっ!終わったんですね?えへへ…お迎えに来ちゃいました。」
あの時の澪桜からのRINEは悠を迎えに行く為のものであった。
悠の家からこの店は歩いて20分程。
澪桜は歩いてきて店の前で悠を待っていた。
「澪桜ー。ごめんなぁ待たせて。ほらっ、一緒に帰ろう。」
悠は酔っていたせいでいつもよりも愛想が良く澪桜は少し驚いていた。
「もぉ〜。悠くん…飲み過ぎですよ?たまにじゃないとダメですからね?毎回は「めっ」ですから。」
澪桜は平常運転で悠を甘やか…嗜める。
そして、二人のやり取りを目の当たりにした陸以外の人たちは驚愕の表情を浮かべていた。
美月は悠にくっつきながら微笑む澪桜を見て戦慄に震えていた。
澪桜は悠の言う通り、自分とは正反対の女の子だった。
背は平均くらい。決してスレンダーでは無いが出るとこは出ていて締まるところ締まっている感じで色白な肌は美月以上。小さな顔、くりっとしたパッチリ二重の大きな目に長いまつ毛、整った小さな鼻、口に可愛い鼻にかかるような声。
そして、視線を少し下げると反則級な大きさの胸が服を押し上げていた。
もう服の上からでも分かるほどの質量。
「な、何なのよ…あの胸。どうやったらああなるの…?」
美月は顔を下げて自分の胸を見る。
見えたのは地面に着く自分の足だった…。
詩織は澪桜の姿を見て、美月に置かれた戦況の厳しさを改めて痛感した。
「これは…確かに中野さんが言っていたことは間違っていないわね…」
陸以外の男性陣は、目から血の涙を流していた。
「チクショー!何だよあの可愛い彼女!?アイドルか?アイドルなのかっ!?」
各々が騒ぎ立てていると、悠と澪桜は彼らが居たことに気づく。
悠は澪桜をみんなの所に連れてきて紹介する。
「えと。この子が彼女の澪桜です。」
「初めまして。いつも悠くんにお世話になっています綾瀬澪桜と申します。悠くんとお付き合いさせて頂いています。どうぞよろしくお願いします。」
澪桜は悠達御一行に丁寧にお辞儀をする。
その動きは洗練されている。
良いところのお嬢様なのだろうと誰もが納得する所作。
それでいて嫌味のない態度。
「ご、ご丁寧にありがとうございます…」
美月達はそう返す他に言葉が出なかった。
「さぁ、悠くん?一緒に帰りましょうね♪」
可愛くそう言い、悠の腕に抱きつく。
澪桜の大きな胸は悠の腕を沈めてその型を変える。
「わ、分かったから引っ張らないでって〜」
悠は腕に絡みつく澪桜に引っ張られる。
「そ、それじゃあ皆んな。今日はお疲れ様でした。また来週職場で。」
悠は皆に挨拶をしながら澪桜に連れて行かれる。
澪桜は早く悠を独り占めしたくていつもよりも少しだけ強引に悠を引っ張るのであった。
その場に取り残された皆の衆。
陸は見せつけてくれるね〜と笑いながら帰宅する。
美月と詩織はお互い立ち尽くしていた。
「詩織、私…あの子に勝てる気がしないんだけど…」
「確かに…あのワガママボディーを堪能してしまったイケメンさんを満足させるのは簡単じゃないわね。」
詩織は顔を左右に振りながら美月の胸を見る。
「し、詩織。あんたどっちの味方なのよっ!ちょっとは慰めなさいよっ!?」
美月は詩織の両肩を掴んでブンブン振り回す。
「あ〜酔いがま〜わ〜る〜。」
詩織は美月の為されるがままになっている。
「まぁ〜そのうち美月のそのスレンダーなモデル体型と綺麗顔の魅力に気づくのかも〜。」
詩織の言葉に美月は動きを止める。
「私はまだ諦めないから。勝つのは無理でもそのうちチャンスがあるかもしれないわ。」
「めげないわね。まぁ美月らしいか。」
二人はタクシーを拾って帰る。
残された四人は二次会に向かって全員が店を離れた。
こうして騒がしくも楽しい飲み会が終わったのだった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
次は飲み会の帰り道から家に帰った後の悠と澪桜の話しになります。
17話も読んでいただいた皆様、ありがとうございました。
蒼い湖
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