第11話 変わり始めた日常

 現在の時間は午前7時30分。

 悠はいつものように自分のデスクで仕事の準備をしながら、朝食のサンドイッチを食べていた。

 ホットコーヒーで一息をつき、資料に目を通す。

 そんな時、悠のスマホに澪桜からRINEが来ていた。

「おはようございます。悠さん今日のお仕事も頑張って下さいね♪」


 悠は自然と笑顔になりながら、返信を返す。


「おはようございます〜。」


 そんなとき陸が出勤する。

 週明け月曜日の朝はとくに眠そうな顔だ。


「おはよう。今週も眠そうだな。」


 悠は一瞬で仕事の時の顔になる。

 しかし、陸は悠が笑いながらスマホを触っているのを見逃さなかった。


「え?なになに?悠なにか良いことあった?」


 ちっ、これだから勘のいいやつは嫌いだ。


「別に何もないって。余計な詮索するな。」

「てことは、やっぱり何かあるんじゃん?もしかして綾瀬さん!?」


 陸は先ほどの眠そうな顔が嘘のようにテンションが上がっている。


「お前には隠してもしょうがないしな…。」


 悠はどうせいつか知られることだし、隠すことでもないだろうと、陸に土曜日の出来事を説明して澪桜と付き合うことになったことを話した。


「マジで!?すごい急展開だね!!初デートで告白するなんて悠やるね〜。でも良かったよ。悠おめでとう。同期の俺としても嬉しいよ。」


 もっと茶化されるかと思ったが、陸は素直に悠に彼女が出来たことを祝福した。

 こいつも案外捨てたもんじゃないな。


「ありがとな。俺もまさか本当に付き合えるとは思わなかったが…。」

「あんな可愛くて、おっぱ…優しそうな彼女が出来て羨ましいですな〜。」


 前言撤回する。

 こいつはそんなやつじゃなかった。


「お前、隠せてないからな?それに人の彼女をそんな目で見るんじゃねーよ。」


 悠は、澪桜を性的な目で見る陸の言葉に少しイラッとしていた。


「冗談だって!そんな怖い顔しないでよ!俺には香奈がいるんだから。まぁ…胸はないけど。」

「お前、今度彼女に会ったら絶対言ってやるからな?」

「なしなし!今の無し!香奈はとっても可愛い子なんだ〜。」

「覆水盆に返らずって言葉知ってるか?」


 そんな馬鹿話をしながら、予定通り今週は陸を容赦なく働かせることを誓う悠であった。

 陸も今日の仕事の資料に目を通し始める。

 悠はいつものルーティンで喫煙所に向かう。


「悠も彼女出来たんだし、煙草やめなって〜。綾瀬さんは知ってるの?」

「あ〜煙草吸ってることは知らないかもな。目の前で吸ったことはないし。まぁ澪桜さんに止めろと言われたらやめるさ。お前に言われてもやめん。」


 そう言い、悠は部屋を出る。

 いつもの喫煙所に着くと、先客がいた。

 先日の監査以来、喫煙所で良く話すようになったモデル系美人の東雲さんである。


「あっ!おはようございます一条さん。」

「おはようございます東雲さん。今日も早いですね?」


 東雲さんはいつも悠より早く喫煙所に来ている。

 出勤も悠より早いのであろう。


「ふふっ。先週もこのくだりやりましたよ?そう言えば、週末は何かしたんですか?前言ってた例の好きな人と…。」

「俺、東雲さんに好きな人いるって言いましたっけ?」

「言葉に出して言ってないですけど、あの反応を見ればねぇ…?」


 この人も陸と同じく勘が良いタイプの人か…。

 まぁ、そこまで親しい訳でもないし、彼女が出来たことまで話す必要はないだろう。


「別に何もありませんよ。東雲さんはどうして俺の週末が気になるんですか?」

「えっ!別に気になるとかじゃないですけど…

そ、そう。女性は恋バナが好きなんですよ!特にイケメンの恋愛事情は!」


 東雲さんは少し焦りながらも弁明する。


「別にイケメンじゃ…。そういう東雲さんは誰か好きな人いないんですか?」

「好きな人ですか?ん〜どうかなぁ…。」


 東雲さんは悠の顔をチラチラ見ながら考えている。のか考えるふりをしているのか。


「教えてくれないんですね?それではフェアじゃないので俺も教えないことにします。」


 悠は笑いながら、2本目の煙草に火をつける。


「あ〜ん。正論の暴力ですよ〜。監査部の人怖いです。そういえば、今度夕食行ってくれると言ってましたよね?」


 東雲さんは嘘泣きの真似事をしながら話題を変える。


「あー…。」


 悠は以前、東雲さんから夕食を誘われたことがあったのだが、まさか本気だとは思わずOKをしてしまっていた。

 澪桜と付き合った今、彼女しののめさんと2人で食事に行ける訳がない。

 悠は東雲さんに正直に話すことにした。


「あの…。あまり広めて欲しくないんですが、実は彼女が出来まして…。」

「え?え、えぇっ?どういうことですか?」

「だから、彼女が出来たんです。だから2人きりで夕食は行けないんです。」


 東雲さんは、驚きすぎて大きな目を見開いている。


「き、聞いてないんですけどーーっ。」

「まぁ、今日初めて言いましたので。」

「ドライ過ぎっ!その…彼女って例の好きな人ってことでいいんですよね?」

「ま、まぁ…。」


 東雲さんの目からはハイライトが消えている。


「そうですよね。イケメンで仕事も出来て高給取りですもんね。彼女出来ないはずないですよね…。」

「褒め過ぎですから。今日は一段と元気ですね?」


 悠、地雷を踏む。


「誰のせいですか〜っ!!だ・れ・のーー!」


 今度は地団駄を踏み始める東雲さん。


「東雲さんって、いつもはクールな美人さんって感じなのに、そうやって駄々こねるじゃないですけど、結構面白い方なんですね?」


 悠は堪えることが出来ず、クスクス笑いながら言う。


「美人さん…って。ホントにタラシね…。」


 東雲さんは聞こえるか聞こえないくらいの小さな声で呟く。


「はい?何か言いましたか?」

「なんでもありません!確かに彼女がいるなら2人で夕食は無理ですね。じゃあ仲の良い友人も交えて複数人なら問題ないですよね?」

「はぁ。まぁそれならいいんじゃないですかね?一応聞いてみますが。会社での飲み会と同じ括りですよね?」

「そ、そういうことです。それなら浮気でも何でもないですし。」

「分かりました。同期にも今度声かけときますよ。」


 澪桜さんに今度相談してみるか。

 彼女が少しでも嫌な反応をすれば、悠は行く気は無い。

 なんなら、澪桜が良いと言っても乗り気ではないのだが。


「それじゃあ、私はこれで。今日も頑張って下さい。」


 東雲さんは喫煙所を出ていく。


「朝から元気な人だなぁ…。」


 悠は朝の一服で既に疲れたのであった。


*   *   *   *   *   *


「も〜。もう彼女が出来たなんて聞いてないわよ〜。」


 美月は自席で突っ伏していた。


「美月?月曜の朝からどうしたのよ?」


 東雲の同僚で隣の席に座る、ショートボブの黒髪、くりっとした目に小ぶりな目鼻、身長も145センチくらいしかない小動物…もとい、高野詩織たかのしおりは机に突っ伏す東雲に声をかける。


「私、まだ諦めてないから〜っ。」

「美月…。答えになってないんだけど…」


 美月は近々の出来事、悠のことを詩織に話す。


「あー。あの監査部のイケメンさんかぁ…あの人は倍率高そうだもんねぇ。」

「喫煙所で良く話すようになってね、食事に誘うまでは良かったの。それなのに…週末が明けたら彼女が出来てるなんて急展開過ぎて聞いてないわよ〜」

「美月が出遅れたってことじゃない?あのイケメンさんと話し始めたの最近からなんでしょ?」

「でも好きな人が出来たのは先週くらいからのはずなの!」


 美月は詩織に力説する。


「何でそんなことあなたが分かるのよ…でもその様子だと諦めた訳じゃないんでしょ?」

「そんな簡単に忘れられる訳ないじゃない!今の彼女と長続きするかなんて分からないんだし…」


 普段はあまり感情を表に出すことのない美月がここまでヤケになっている姿を見て詩織は少し驚く。

 余程あのイケメンを取られたことが悔しいらしい。


「まぁ、彼女なんだし、諦めるのは早いかもね?結婚しちゃったらもう無理だろうけど。」

「け、結婚…。そうよね…。まだ結婚した訳じゃないのよね!」

「立ち直り早っ。美月ってそんなキャラだった?」


 詩織は呆れながら、ため息をつく。

 身長の低い詩織が身長の高い美月を見上げながら諌める状況。

 側から見れば、なかなか面白い構図である。


「今度、飲み会設定するから詩織も参加してくれる?一条さんも友人つれてなら大丈夫って言ってたから。」

「それ、不確定な開催よね…?それにイケメンさんの彼女に悪いと思うけど。」


 詩織は冷静にツッコミを入れるも、美月はこれからもアタックを仕掛けて行くようだ。


「でも、何もしないで指咥えて見てるなんて私には出来ないもの。まぁ駄目だった時は潔く諦めるわ。」

「美月らしいわね。まぁ常識の範囲内で応援はしてあげるけど。」


 詩織はかなりの常識人であった。

 こうして、経理部では悠が知らぬ間に東雲高野ペアが結成されていた。


*   *   *   *   *   *


 その日の午後、悠に彼女が出来たことは監査部ですぐに広まっていた。

 犯人は言わずもがな中野陸である。

 係長からは、「おめでとう〜。これで一層仕事に身が入るね。」と祝福され、他の島の人達からは、「一条主任ってそういう色恋ネタを全く聞かないから女は好きじゃないのかと思ってた。」など言われ放題である。


「はぁ…。俺の話はもういいだろう…」

「いいじゃん。おめでたいことでイジられるくらい。」

「お前…口軽いのな。まぁ隠すことではないが…仕事がやりにくい。」

「一条主任は仕事にのめり込み過ぎなくらいだから丁度良いんじゃないかな?」


 確かに、今まで仕事のことだけを考えてがむしゃらに働いて来たことは事実。

 そこに澪桜という癒しが加わることにより、今までよりも充実した日常になることは確か。


「まぁ、今まで以上に頑張りますよ。」

「本当に頼もしいね。頼むよ一条主任。」

「これ以上悠が頑張ったら俺どうなるの…?」


 結局、悠達は午後8時くらいまで残業をしてから帰宅するのであった。


*   *   *   *   *   *


 悠が自宅まで車を走らせていると、スマホが鳴る。

 車のディスプレイには澪桜からの着信と出ている。

 悠はハンズフリーモードで電話に出る。


「あっ、悠さん。お仕事お疲れ様でした!今お電話大丈夫ですか?」

「はい。今家まで帰っている所です。ハンズフリーで話せるので大丈夫ですよ!」

「ふふっ。良かったです。悠さんの声が聞きたくて電話かけちゃいました…。」


 照れながら笑う澪桜の声を聞いているだけで一日の疲れが吹き飛ぶ。


「その…。俺も澪桜さんの声が聞きたかったです。今日一日ずっと…。」

「もぉ…そんなことを悠さんから言われたら、会いたくなってしまうではないですか…。」


 澪桜はせつない声で悠を求めている。


「それじゃあ、明日うち来ます?なるべく早く仕事切り上げますので、迎え行きますよ?」

「え?いいんですか?でもお仕事疲れているのでは…」

「疲れているときこそ、澪桜さんの顔が見たいですし、直接声が聞きたいです…。」

「明日はレストランの仕事はないので、お伺いすることは出来ますが、本当にお迎えまで良いのですか?」

「もちろんです。会社からの道中ですから。何の問題もありません。」


 悠は澪桜と会えることを考えると明日が待ちきれなくなっていた。

 まだ2日しか空いていないのに。


「それでは、夕食は私が悠さんの家でお作りしますね!お腹空かせて帰ってきて下さい♪」

「本当ですか!?ありがとうございます。彼女の手料理を仕事終わりに食べるの夢だったんです!楽しみにしています。それではまた明日連絡しますね。」


 そんなこんなで、明日は仕事終わり澪桜が家に来ることになった。


「帰ったら部屋の掃除するか…。」


 帰宅した悠は、いつもより念入りに部屋の掃除に取り掛かっていた。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 初めてのあとがきになります。


 こんな稚拙な文を読んで下さる方々。

 本当にありがとうございます。


 本作の内容は本当に思いつきで書いてますので、展開も文の書き方も素人丸出しですし、読みにくいところも多々あると思いますがそこは申し訳ない限りです。誤字とか多くてすみません。今後も精進して行きます。

 そして何より楽しくかけていますし、読んで下さり、応援を頂けたのを見ると、とても励みになります。


 このストーリーはここがスタートだと考えています。

 カップルになった2人の甘々の関係を書いていきたいと思っていますので。

 悠と澪桜の関係はこれからさらに深いものになりますし、まだまだ書きたいこともあるので

もうしばらく続けていきます。

 仕事をしながら、空き時間で執筆しているので更新まで長く時間が空いてしまうことがあるかもしれませんが、飽きずに最後までお付き合い頂けたらと思います。


 今後もどうぞよろしくお願い致します。


 次回は、澪桜が仕事終わりの悠にご飯を作ってあげたり、初めての悠宅でイケナイ雰囲気になったりとイチャイチャ多めでお届け出来たらと思います。

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る