第10話 初デート③

 カフェでケーキよりも甘い体験をした澪桜は悠との幸せな時間を過ごしていた。

 2人はケーキを食べながら、楽しく歓談してからカフェを出る。


「美味しいお店でしたね。澪桜さん他にも何か見たいお店とかありますか?」

「あの…悠さん。ちょっとだけ別行動しても良いでしょうか?」

「え…?別々にですか…。何かありましたか?」


 悠は、何か気に触ることをしてしまったのだろうかと不安になる。


「い、いえ…。その、ランジェリーショップを見たいのですが、さすがに少し恥ずかしいので…。」

「そ、そういうことでしたか!ごめんなさい気づかなくて!どうぞ、行ってきて下さい。またどこかで待ち合わせしましょう。」


 悠と澪桜は、噴水がある広場で別れて別行動することにした。

 実はこれは澪桜の作戦だった。

 澪桜は、悠に今日のお礼にと何かプレゼントをしたかったのだ。

 ランジェリーショップと言えば、悠と別行動出来ると考えていたが、まさにその通りになった。


 澪桜は、何か良い物はないかとショッピングモール内のお店を見てまわると、スーツなどが売っているセレクトショップが目に入る。

 お店に入ると、様々な素材と色のハンカチが並ぶコーナーで立ち止まる。


「悠さんが毎日のお仕事で使える物がいいですね。」


 澪桜は悠にハンカチをプレゼントすることにした。


 商品棚から悠に似合いそうなハンカチを選ぶ。

 毎日使う物だし、値段もそこまでしないので、悠も遠慮せず受け取ってくれるだろう。


「悠さん、喜んでくれるかしら♪」


 澪桜は選んだハンカチをラッピングしてもらい、カバンにしまう。


「そろそろ合流の時間ね。戻りましょうか。」


 澪桜は、先ほど悠と別れた噴水がある広場へと向かった。


*   *   *   *   *   *


 澪桜と別れた悠は、合流までの時間どうしようか考えていた。


「初デートだし、何か思い出に残るプレゼントでも渡せたらなぁ。」


 案の定、悠は澪桜と同じことを考えていた。

 パンダのお皿を買ってあげたが、ちゃんとしたサプライズのプレゼントを渡したかったのだ。


「でも、初めてのデートで高い物はさすがになぁ…。」


 悠は歩きながら、何が良いだろうと考える。

 澪桜さんは甘いものが好きと言っていたし…

 途中、見つけたのは洋菓子店。

 店に入ると、色々なお菓子が売られている。

 悠は店内を見てまわり、選んだのは、マカロン。

 カラフルな色のマカロンがいくつも箱に詰められている。


「これなら、家に帰ってから食べれるし、見た目も可愛い。それに甘いもの好きな澪桜さんにピッタリだな。帰りにでも渡そう。」


 悠は購入したマカロンをカバンにそっとしまって噴水のある広場に戻った。


 約束した時間になり、広場で2人は合流した。

 悠は、澪桜がランジェリーショップで下着を買ったと思っているため、少し気まずそうに、そして恥ずかしそうに声をかける。


「あ、あの…時間は足りましたか?」


 澪桜は何だか様子のおかしい悠の顔を見て、あることに気づく。「あ…。悠さん私が下着を買ったと思っているのよね。はぅぅ…恥ずかしい…。」


「は、はいっ。大丈夫です…。ありがとうございました。」


 澪桜はこの後、プレゼントを渡すことを考えて、この恥ずかしさに必死で耐えた。

 悠もこれ以上深くは詮索すまいと話題を変える。


「そ、それじゃあ、最後の場所行きましょうか。」

「あ、まだ行き先が残っているのでしたね?悠さんが内緒と言っていたのでとても気になります。」


 2人は車に戻り、悠は本日最後の目的地に向かった。

 ショッピングモールを出て1時間程だろうか。

 悠達の住む街から少し離れた山の中腹まで車を走らせると車を止める。

 その場所は、高台のようになっており、街全体を一望出来るようになっていた。

 ちょうど夕暮れ時ということもあって、高台からは見事な夕焼けと灯り始めた街の光がとても幻想的に見える。


「ここが俺が最後に来たかった場所です。あまり人に知られていないおすすめのスポットなんですよ!」

「とても綺麗…。」


 澪桜は街の景色を見ながら目を輝かせる。

 悠は、夕日に照らされる澪桜の顔を見て"あなたの方が綺麗だ"と心の中で呟いた。

 そんなキザなセリフを本人に直接は言えない。


「もう少しして日が暮れると、もっと綺麗に夜景が見えるんです。夜景が見える時間に来ましょう?」

「また連れて来てくれるのですか…?私と2人で…」


 澪桜は悠に熱っぽい視線を送る。

 悠はこんなに感情を動かされる女性に会うのは初めてだ。

 他の人には取られたくない。

 ずっと一緒に居たい。

 そう思うと自然と声が出ていた。


「あ、あのっ!澪桜さん!」

「は、はいっ!」

「まだ出会って数日しか経っていないし、初めてのデートでこんなことを言うのは自分でもどうかとは思いますが、あなたのことが好きです。もし良かったらその…俺と付き合って頂けませんか?」


 悠は澪桜に告白をしていた。

 普段の冷静な悠ならこんな衝動的に動いたりはしないだろう。

 しかし、それ程に澪桜を他の誰にも渡したくなかった。

 

「ぐすっ…。嬉しいです…。あの、私も悠さんを一目見た時から好きでした…。こんな私で良ければお付き合いして下さい。」


 澪桜は人生初の好きな人からの告白に涙を浮かべながら微笑む。

 そして悠に抱きつく。

 悠も飛び込んでくる澪桜を受け止め、優しく抱きしめる。

 悠は澪桜が帯びる熱を身体全身で感じていた。


「悠さんの言う通り、確かに私たちはまだ出会って数日しか経っていませんし、今回が初めてのデートです…。でも私は運命という言葉を信じています。あなたと出会った瞬間からこうなることは運命だったのだと思います。」

「そうですね…。俺は澪桜さんを初めて見た時から好きになっていました。それも運命だったのかもしれない。恋愛には色々な形がありますから、俺達の恋愛はこんな感じで良いんじゃないですかね?」


 2人は抱き合いながら笑い合う。


「澪桜さん。こんな俺ですけど、これからもよろしくお願いします。」

「こちらこそ。至らないこともあると思いますが、これからもよろしくお願いします。大切にして下さいね?」

「当たり前です。澪桜さんは俺にとって一番大切な宝物ですから。」


 こうして1組のカップルが生まれた。

 悠は、これまでの人生で一番の喜びに満ち溢れていた。

 そしてこれからどんなことがあっても澪桜を世界で一番幸せにすると心に誓った。


「私もです…。私はこれから先、悠さんだけに尽くしていきます。支えていきます。ですので覚悟して下さいね?」


 澪桜もまた悠のことを世界で一番幸せにすると誓ったのであった。


 しばらくの間2人は抱きしめ合い、お互いの体温を感じながら幸せに浸っていた。

 気づくと日は暮れており、夜が訪れていた。

 再び街を見ると、美しい夜景が広がっている。

 まるで2人の関係を祝福してくれているかのようにキラキラと輝く光。


「夜景…とても、とても綺麗です…。」

 

 澪桜は夜景を眺めながら、悠手を握る。


「ふふっ…。夜景も今日見れてしまいましたね?」

「はい。澪桜さんに夢中で夜になっていることに気づきませんでした。」

「もぉ〜夢中だなんて…。恥ずかしいです…」

「………」

「………」


 2人は無言のまま距離を近づける。

 悠は澪桜の頬にそっと手を添え、澪桜は少し背伸びをしながら目を閉じる。

 夜景をバックにこの日2人は初めてキスをした。

 その後、2人は思う存分夜景を堪能し、車に乗り帰路につく。


「帰りは家の前まで送りますよ。」

「はい。ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きますね♪」


 こうして、しばらく車を走らせて澪桜の家の前まで到着した。

 悠は運転席から降りて、助手席のドアを外から開ける。


「足元気をつけて降りて下さいね?」

「ふふ。悠さんは優しいです。」


 澪桜は車を降りると悠の前に立ち、カバンからラッピングされたプレゼントを取り出す。


「悠さんっ、今日は本当に楽しい時間をありがとうございました。これ今日のお礼です。良かったら受け取って下さい。」

「えっ!良いんですか?ありがとうございます!開けてみてもいいですか?」

「もちろんです。まさか告白されるとは思っていなかったのであくまで今日のお礼にと買ったものですが許して下さい。ちゃんとしたプレゼントはいつかお渡ししますので!」


 悠は喜びに震えながら、ラッピングを丁寧に剥がして中を見てみると、お洒落なハンカチが入っていた。


「おお!素敵なハンカチですね。ありがとうございます。仕事の時も使わせて頂きますね!」

「是非使って下さい。そのハンカチを見て私のことを思い出して…。ね?」


 彼女になった澪桜さんも相変わらず可愛い。

 

「あの、俺からもプレゼントがあって。澪桜さんから貰ったものと比べたら全然大したものじゃないんですけど、甘いものが好きってことなのでこれ…。」


 悠は可愛い箱に入ったマカロンを渡す。


「マカロンなんですけど、家で食べて下さい。」 

「わぁ…可愛い。ありがとうございます!マカロン大好きなんです。大切にいただきますね♪」


 澪桜はとても嬉しそうに悠からのプレゼントを受け取った。


「それでは、今日は本当に楽しかったです。それに…俺達の特別な日になりました。これからも沢山思い出作っていきましょう。」

「はい…。今日が終わってしまうのは少し寂しいですけど、私にとって今日は一生忘れることのない日です。本当にありがとうございました。」


 名残惜しさを感じながらも悠は車に乗り込む。


「悠さん。寝る前にRINEしますね♪気をつけて帰って下さい。」


 そう言い澪桜は手を振って悠を送り出す。

 悠は幸せを噛み締めながら澪桜のもとを後にした。


*   *   *   *   *   *


 家に着いた悠は一通りの家事を終えてからベッドに寝転んで今日一日の出来事を思い出していた。


「俺にあんな可愛い彼女が出来るなんて…。昨日の自分なら信じないだろうな。」


 ピロン♪

 悠のスマホに着信が入る。

 スマホを開くと澪桜からRINEの新着メッセージが来た。

「悠さんこんばんは。今日はありがとうございました。マカロン美味しく頂いてます。悠さんを思い出しちゃいます♡」

 

 メッセージが可愛い…。

 絵文字の♡が可愛い…。

 彼女補正でもかかっているのだろうか、否!

 本当に可愛いのだ。


 悠は、「こんばんは。こちらこそありがとうございました。早速明日からハンカチ使わせて貰います!」と返信した。


 すぐに返信が来る。


「嬉しいですっ♪そのハンカチを使う度に私のことを思い出して下さいね♡他の女性に目移りしちゃダメですからね?」


 するわけない。

 こんな可愛い彼女がいるのに目移りなんて。


「もちろんです。俺は一途ですから!澪桜さん以外の人に興味ないので安心して下さい。」

 

「分かっています。意地悪言ってしまってすみません。でも悠さんかっこいいので少し心配だったんです。」


 悠は澪桜から心配とメッセージが来たのを見てもっと彼女を安心させられるようにしていかなければいけないと思った。


「こんな俺にそこまで想ってくれるなんて、本当やな幸せ者だな…。」


 それから、悠と澪桜は時間を忘れて日付が変わるまでRINEでやり取りをしていた。

 

 

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