第7話 デート前夜

 金曜の夜9時30分頃、所は悠のマンションである。

 先程まで綾瀬さんと喫茶店で話をしていた。

 綾瀬さんを家まで送ってから自宅に帰ってきたのだ。

 そして、帰りの車の中で綾瀬さんからデートのお声が掛かったのだ。


「それなら、もし良かったら一緒にお出かけしませんか?」 


 悠は澪桜の言葉を思い出して、年甲斐もなくドキドキしていた。


「デート誘われたらだけでこんな緊張して、俺は高校生かって…」


 自分に呆れている悠であるが、気になる女性からデートに誘われるなんて嬉しくない訳が無い。

 久々のデートに、着ていく服やプランなど考えることが盛り沢山である。


「とりあえず、明日の10時に待ち合わせとのことだが…」


 1人で色々と考えていると、RINEの着信音が鳴る。

 RINEには、綾瀬さんから、「今日はありがとうございました♪明日のデート楽しみです!」と新着メッセージが来ており、メッセージの後にはパンダとハートのスタンプも送られていた。

 思わず顔が綻ぶ。


「はぁー。マジで癒される。ハート付きのスタンプを送って来る女の子とRINEするなんて過去にあっただろうか。」


 画面の向こうで澪桜がご機嫌にRINEを打っているのだろうと妄想し、悠は顔が緩む。「こちらこそありがとうございました!では明日の10時、よろしくお願いします。車は出しますので行きたいところがあれば教えて下さい。」と飾り気のない返信を送ると、すぐに既読がつく。


「何か事務的過ぎたかな…もう少し絵文字とか使って…そっけないと思われんだろうか。」


 会社の人が今の悠を見たら、誰?この人?となるに違いない。

 悠がこんなにころころと表情を変えることはまずないからだ。

 まるで恋する乙女のようにスマホ画面を眺めていると新規メッセージの着信音が鳴る。

「車良いんですか?ありがとうございます。明日までに考えておきますね♪悠さんとならどこに行っても楽しそうです♡なんて…。ではまた明日。おやすみなさい。」


 カハっ…「悠さんとならどこに行っても楽しそうです♡なんて…。」だと…?


「なぜ、RINEの文面までもが可愛く見えるんだ…、俺はとうとう壊れたのか?いや、久々の女性とのデートを前に浮かれているだけだ。とりあえず、今日の風呂は念入りに…いや、決してそようなやましいことを考えている訳では…」

 

 普段クールでベラベラ話す方でない悠は悶えていた。

 そして馬鹿になっていた。

 悠は澪桜にRINEを返信する。

「俺も明日はとても楽しみです。では綾瀬さん、おやすみなさい。」とまたしても文字だけの定型文を送信する。

 悠にとってRINEやメールは仕事でしか使うことがなく、ましてや女性相手とデートの約束などほぼ経験のない。

 故に悠にはこのような送信が限界であった。


「明日は遅れられんからな。服は…こんなもんでいいか。」


 外行き用の私服を用意してから、風呂を済ませてから家事などやることを終わらせる。


「さぁ、早く寝なければ明日に響くからな。」


 悠は昔感じた、遠足前の高揚に似たなんとも言えない興奮を感じながら眠りについた。


 

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