第6話 女神との再会②

 綾瀬が仕事を終えて出て来るのを待つこと5分。

 悠はベンチに座り、スマホで小説を読んで時間を潰していたところ、お店のドアが開きカランとベルの音が鳴る。


「あっ、お待たせしてすみませんでした。寒かったですよね?」

「い、いえ!このとおり、コートもありますので寒くないです。それより…私服もその…似合ってますね…」

「えっ?あ、ありがとうございます。一条さんのスーツ姿もとても素敵…です。」


 綾瀬は淡い水色のニットトップスに白色のロングスカートを身に纏っており、その姿はウェイトレスの時の制服とは違った魅力を醸し出していた。

 なんというか、身体のラインが強調されるような。

 

「あの…お名前、なんとお呼びすれば良いですか?」

「あ、そうでした。紹介が遅れて申し訳ありません。私は綾瀬澪桜あやせみおと申します。

えっと…一条さんですよね?」

「ゆうです。一条悠と言います。呼びやすいように呼んでください。」

「はい。それでは悠さんと呼ばせて頂きますね。」

「よろしくお願いします。綾さん。」


 2人して赤い顔をしてお店の出入口前でペコペコしている。

 店内から2人の様子を伺っていた店長は、やれやれと綾瀬にRINEを送る。

 "イチャつくのは違う場所でお願いね?他のお客さんが困ってしまうわ"

 綾瀬はRINEの着信に気づくと、内容を見て顔をみるみる赤くする。


「ゆ、悠さん。どこ行きましょうか?ここだとお客さんの迷惑になってしまうので…」

「確かにそうですね。気がきかず申し訳ないです。近くに喫茶店があるので移動しましょうか。私の車で大丈夫ですか?」

「は、はい。もちろんです。ありがとうございます。」


 悠は車まで案内して助手席を開けてあげる。


「わぁ…すごい車乗っているんですね!」

「いえいえ。これくらいしか使い所が無くてというか…」


 悠は澪桜を助手席に乗せ、近くの喫茶店に入る。


「ここなら結構空いているので人も少ないし、ゆっくり話せるかと思いまして。」

「はい。色々とありがとうございます。」


 悠はコーヒーを、澪桜は夕飯を食べていないということで軽食と紅茶を頼む。


「今日は本当にありがとうございます。」

「俺こそ。綾瀬さんとお話しできて嬉しいですから。澪桜さんはおいくつなんですか?」

「私は26歳です。実家で両親の仕事を手伝いながらレストランはたまにパートで入っています。実家での手伝いはほとんどが家事なんですけどね。」


 澪桜は悠よりも2つ年下のようだ。しかし、見た目だけでなく、所作や言葉を取っても丁寧であるところを見ると良い教育を受け、大切に育てられたのだろう。


「俺は28歳で、仕事はT社に勤めていて、家はここの近くのマンションで一人暮らししています。」

「私よりも2歳年上だったのですね!悠さんは一人暮らしですか。私は実家なので少し羨ましいです。」

「1人だと寂しいですよ?仕事終わって帰っても誰もいないですし。」

「確かにそれはあるかも知れませんが、何となく自立した大人な気がします。」


 綾瀬は実家暮らしだというし、こんなに可愛い娘なのだから親が厳しいのだろうか?門限とか。


「親御さんが厳しいとか?門限決まってたり?」

「いえいえ。全然そういうのではないですよ。もうこんな歳ですから、早く彼氏作って家出なさいとまで言われてるくらいで。」

「あの…ということは綾瀬さんは、彼氏いないんですね?」

「えっ?は、はい。お恥ずかしいですが今まで、彼氏さんとか出来たこと無くて…」


 澪桜から信じられない言葉を聞き、悠は驚愕する。


「え!?そんなに可愛いのに今まで一度も?」

「ちょっと…可愛いなんて…恥ずかしいです…こんな歳まで男性との経験ないなんて変ですよね。」

「いえ。別に変じゃないと思いますよ!それだけ純粋ということですよね?俺個人的にはそっちの方がいいというか。」


 綾瀬は悠の言葉を聞き、安心したように表情が柔らかくなる。


「あの、悠さんはその…彼女さんいたりするんですか?」

「彼女はいないです。もし彼女いたらここに来ていないですって。昔ほんの少しだけ付き合ったことがありますが、情けないことにすぐ振られてしまいました。」


 悠は自嘲気味に笑う。


「すみません。嫌なこと思い出させてしまって…」

「いえいえ。もう全く気にしていませんので大丈夫ですよ。昔の話です。」


 その後、悠と澪桜は普段何をしているのか、休みの日はどのように過ごしているのかなどを夢中になって話していた。

 笑顔で話す澪桜の可愛いくも少し鼻にかかった声か整った顔、仕草全てが眩しい。

 話に夢中になり、気づけば時刻は午後9時手前。


「随分話し込んでしまいましたね。お時間は大丈夫ですか?」

「はい。明日はお休みですし、特に予定もありませんので全然大丈夫です。」

「あの、もし良かったらRINE交換しませんか?また綾瀬さんとお話ししたいなと思いまして。」

「も、もちろんです。私なんかで良ければまたお話しして欲しいです。」


 2人はお互いにRINEのIDを交換した。


「あまり遅いと両親が心配するでしょう。私が家まで送りますので。」

「ふふ、ありがとうございます。悠さんは優しいのですね。」


 悠は"少しお手洗いに"と席を立ち、先に会計を済ませておく。


「その辺は気を使わせないように立ち回らないとな。」


 澪桜は、悠が戻るまでずっと外の景色を眺めていた。

 街は様々な色の光が輝き、夜を明るく照らす。


「夜の景色って、こんなに綺麗だったんですね。楽しい時間はすぐに終わってしまいます…」


 澪桜は、この楽しい時間が終わってしまうことに寂しさを感じていた。


「お待たせしました。澪桜さん、そろそろ行きますか。」

「はい…名残惜しいですが、そろそろ…」


 2人は名残惜しさに後ろ髪を引かれながら、お店を出る。


「え?悠さん、お会計は…?」

「あぁ、もう払っておきましたので。今日は奢ります。今日のお礼です。」

「お礼だなんて!私がお誘いしたのに。お金払いますので。おいくらでしたか?」

「いいんです。俺も楽しかったし。こんな時くらい格好つけさせて下さい。」

「じ、じゃあお言葉に甘えます。ご馳走様でした。」


 澪桜は、ペコリと頭を下げてから右手で前髪を流しながらニコリと笑う。 

 はい、絶景。

 その笑顔は反則級の可愛いである。

 2人は車に戻り、澪桜を助手席に乗せる。

 

「あ、あの悠さん明日って何か予定ありますか?」

「土日は特に予定ありませんよ?」

「それなら、もし良かったら一緒にお出かけしませんか?」


 急遽、週末デートが決まった。

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