第3話 女神との出会い②

 オーダーを注文してから約15分。

 注文した料理を持って来たのは先程の女神様であった。


「お待たせしましたっ。マルゲリータピザのお客様。」

「はーい。うわ〜美味そう。」


 ウェイトレスは手を挙げた陸の前にピザを置く。


「こちらはアラビアータです。ここのアラビアータ美味しいんですよ?私のオススメなんです。」

「そうなんですか?ありがとうございます。美味しそうです。」


 悠の目の前に料理を置きながら、笑顔を向けるウェイトレス。

 気づけば悠はその笑顔に釘付けになっていた。

 悠がお礼を言うと、ウェイトレスの可愛い顔を見るとお互い目が合う。

 眼福である。


「では、ごゆっくりどうぞ。」


 ウェイトレスはぺこりとお辞儀をしてから、厨房の方に戻って行く。


「あの子、綾瀬さんって言うんだな。」


 悠はウェイトレスの左胸についた名札を見て無意識に呟いていた。


「悠〜あの子の胸見てたんでしょ?」

「お、おい。人聞きの悪いこというなって。名札見ただけだろ。」

「あの綾瀬さんって子、悠にだけおすすめとか言って笑顔見せてたよね?向こうも意識してたりして?」


 悠は陸の言葉を聞き、リップサービスだろうとあしらい料理を食べ始めた。

 綾瀬さんの言う通り、ここのアラビアータは最高に美味しかった。

 その後2人は料理を食べながら、仕事の話や陸の惚気話しなどをしていた。


「久々に美味いもん食べたな。あの子のオススメというのは本当だったな。」

「確かに美味しかったね。今度は香奈と一緒に来ようかな。」


 左手のスマートウォッチを確認すると時刻は午後7時半を回っていた。


「そろそろ帰るか。」

「もういいの?綾瀬さん観察しないで」

「観察って…お前、俺がストーカーみたいな言い方すんなよ。」

「冗談だって。じゃ、行こうか。」


 そんなこんなで食事を終えた2人は席を立つ。

 伝票を持った悠は会計を済ませるためにレジへ向かう。


「悠、今日はごちそうさま。やっぱ持つべきは良い上司ですな〜。」

「まぁ楽しかったし、たまにはいいんだけどな。それに…良い出会いもあった訳だし…」

「あれ?珍しい。いつもなら、同期のくせにこう言う時だけーとか小言を言うのに。それが女神効果ってやつか〜」

「うるせえ。素直に感謝しとけ。」


 悠はポケットから財布を取り出して、レジにある呼び鈴を鳴らす。


「はーい。今お伺いします。」


 聞き覚えのある声で厨房から出て来たのは、綾瀬さん。


「お会計はご一緒ですか?別々ですか?」

「一緒でお願いします。カードで払います。」


 悠は財布からカードを取り出し、綾瀬に渡す。


「今日は上司様の奢りなんですよ〜」


 陸がいつもの調子でレジを操作する綾瀬に向かって話しかける。


「え?上司さんなんですか?てっきりお友達同士なのかと思いました。って上司さんに失礼ですよね。申し訳ありません、お若く見えたので。」

「いやいや。全く気にしていませんので頭を上げてください。こいつとは同期なので友達同士というのも間違ってはいませんから。」


 申し訳なさそうに頭を下げる綾瀬に、悠は笑いながらフォローを入れる。


「そうなんですよ〜。同期なんですけど、悠は最速で昇進したので役職上は上司という訳です。」

「お若く見えるのに凄いですっ。良い上司さんで良いお友達でもあるんですね。」


 綾瀬は悠の顔を見ながら微笑む。

 これはそうだ。うん。やはり女神だ。

 綾瀬は会計の処理を終えてレシートを出すとカードと一緒に悠に渡す。


「お待たせしました。カードとレシートのお返しになります。またお越し下さいね?」

「ごちそうさまでした。アラビアータ美味しかったです。また来ます。」

「はいっ!ありがとうございました。」


 綾瀬が雪のように白い頬を一瞬だけ桜色に染めたように見えたが気のせいだろう。

 店を出た悠と陸は車に向かう。


「悠、今日はマジでとごちそうさま。」

「色々ってなんだよ…」


 陸は含みを持った言葉で礼を言う。


「またこの店来ようね。悠の奢りで。」

「もうお前とは来ないから。」


 悠は、今度は1人で絶対また来ようと心の中で誓い、陸と別れて車で自宅に帰る。


*   *   *   *   *   *


 時刻は午後9時を過ぎたあたり。

 イタリアンレストランでは仕事を終えた綾瀬が更衣室で帰る準備をしていた。


「はぁ…今日来たお客さん…一条さんだっけ…かっこよかったなぁ。」


 待合席の案内板に書かれた名前を綾瀬は覚えていた。

 そして、連れの人がその彼を"ゆう"と呼んでいたことを思い出す。


「一条ゆうさんかぁ…またお店に来てくれないかな。」


 その顔は白く綺麗な頬が赤く染まって熱を帯びていた。


「な、何を考えているのかしら。早く帰らないと。」


 着替えを終えた綾瀬は深く深呼吸を1回。

 平然を取り戻し、更衣室を出る。


「店長、お疲れ様でした。お先に失礼します。」

澪桜みおちゃん、お疲れ様。あれ?何か良いことでもあった?」


 先程考えていたことが顔に出ていたのだろう。

 澪桜は急に恥ずかしくなってくる。


「い、いえ。何も無いですよ?どうしてですか?」

「だって何だか顔が緩んでるわよ?そんな顔の澪桜ちゃん初めて見たから。」

「そ、そんなことないですっ!じゃあ帰りますので。」


 澪桜は恥ずかしそうに急ぎ足でお店を出る。


「気をつけて帰るのよ〜。」


 店長はそんな澪桜を目で追い、店から出るところまで見届けた。


「若いっていいわねぇ〜」


 店長は澪桜の顔を見てなんとなく事情を察したのであった。

 

「も〜店長に恥ずかしいところ見られちゃったよぉ…でもゆうさんまた来てくれたら嬉しいなぁ…」


 澪桜はいつもの帰り道を歩きながら、悠のことを考えていた。

 そして帰り道は普段よりも足取りが軽く感じた澪桜であった。


*   *   *   *   *   *


 悠は家に着いてからも、ずっとレストランで出会ったあの女神様…綾瀬のことを考えていた。


「こんなことは初めてだ。あんな子いるんだなぁ。また同じ曜日にお店行けば会えるだろうか…」


 そんなことを考えながら、来週の金曜日にまたレストランに行こうと決心するのであった。

 

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