第9話

 疾風はお風呂から上がると、


「次、お兄ちゃん入って来ていいよ!」

「うん……ああ、そうだなぁ」


 そう言うと翼は立ち上がり、お風呂場へと向かう。


 その間、疾風はベッドの上に上がって疾風お気に入りのクッションを抱き締めるとテレビへと視線を向けるのだ。


 現実ではあり得ないのがドラマだ。 本屋で女性の主人公が本を選んで取ろうとした瞬間、男性がその本を選んで、その女性の手を掴んだりして、そこから恋愛感情が生まれたり、絶対に現実ではあり得ないことが視聴者を楽しませてくれる。


 そんな恋愛に憧れるのが人間なのであろう。


 でも現実は現実で面白い事があったりするから、それはそれで楽しめるという事だ。


 疾風達だって男兄弟でしかも男性同士で付き合っているのだからドラマにはないことなのだから。 この先もテレビでは同性同士の恋愛ドラマなんてものはやらないであろう。


 ちょうど恋愛ドラマが終わった頃に翼がお風呂から出て来た。


「やっぱり、お兄ちゃんってお風呂入るの長い!」

「しょうがねぇだろー、俺は仕事で疲れてるんだよ……だから、お風呂位はゆっくり入りたいの!」

「ま、しかも、今日はイチャイチャとかする訳だし、それに、お兄ちゃんのこと抱くんだし、ま、体は念入りに洗ってきたっていうところかな?」

「ば、馬鹿っ! そ、そういうことじゃねぇよ!」


 そう疾風の言葉に顔を赤くする翼。


「顔を赤くするってことは、そういうことなんでしょ?」

「……まったく、お前はそういうことしか頭にはねぇのかよ」


 と翼は頭を拭きながら、ベッドの縁へと腰掛ける。


 そんな翼の後ろから抱き締める疾風。


「んー! お兄ちゃんの匂い!」

「何だよそれー」

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