第8話

「あー……それは、ただ単に……」


 そう翼は疾風から視線を外すと、


「あ、いや……あー……可愛い顔とは裏腹に……Sというのか……あー……まぁ……んー……」

「ふーん……そういうこと。 ま、確かに可愛い顔なのかもしれないけどー。 ま、僕はSだけどねぇ。 他人からしてみたら、僕は可愛いのかもしれないけどさ、だから、逆がいいっていうのかな?」

「ギャップがあるというのか……あ、ま、色々と、見た目によらず、凄いとことか?」

「へぇー、お兄ちゃんって、僕のことそう思っていたってことなんだねぇ。 ま、確かにそうなんだけど。 でも、それは、多分、お兄ちゃんの前だけー。 ま、外でも見た目と裏腹にって感じだと思うけどね。 だって、今日も痴漢に合ったんだけど、僕が痴漢だと分かった瞬間には犯人の手を握って、次の駅で下ろしさ。 だって、男が痴漢に合ったからって、そのまま放っておく訳ないじゃん! だって、そのままずっと同じことされるんなら、そこで捕まえた方がいいでしょー! それに、男だって、痴漢に合うんだって、周りの人間にも分からせてやりたいじゃん!」


 確かに見た目が可愛い疾風が『痴漢に合いました』と電車の中で言えば何となく説得力がありそうだが、翼が電車の中で痴漢に合ったとして疾風のように「痴漢に合いました!」と言っても説得力があるか? と言ったら信じてもらえるか分からない所なのかもしれない。


「まぁ、そうだよな……」


 と疾風の言葉には一応納得する。 それに疾風はもう何回も痴漢に合っていて、駅員さんも分かっている事でもあるからなのかもしれない。 だから疾風は自信をもって痴漢を捕まえることが出来るという事だ。


「ごちそうさま!」


 疾風は先に挨拶をすると、


「僕は先にお風呂に入って来るねぇ」


 そう元気よく言うと、疾風はお風呂へと向かう。


 それに溜め息を吐く翼。


 そうやって無邪気な姿を見せて見たり可愛い顔して、そういう時はカッコいい雰囲気を醸し出してみたり痴漢を捕まえてみたり、本当に疾風は見た目とは違い正反対な性格や態度なのかもしれないと改めて思っている事だろう。


 疾風が作ってくれたカレーを食べ終えると、疾風がお風呂から出て来るまで翼はテレビを見ていた。

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