第2話 誘惑人格大学生

(あれだ…しっかり勉強してるのにノー勉を主張するタイプの…)

蒼斗は税法の時間、冬美香の変わりように唖然としつつ、ふと高校時代のクラスメイトを思い出した。「必勝」というハチマキをしたまま登校してきては、試験当日に一切の試験勉強をしていない旨の主張をしていた愚かなクラスメイトを。

(冬美香も、そっち側の人間なのか…?)


「キリが良いので今日は早めに終わります。早く追われて良かったですねー、これで皆さんはアトランティス一番乗りじゃないですか?」

教授はお腹を押さえている。早く追われて良かったのは教授の方かなのもしれない。


「良かったらアトランティスで昼ごはん一緒に食べない?」

「うん、その食堂、私も気になってたんだよね」


二人は、雑談しながら校内食堂アトランティスに向かうための坂道を歩く


「冬美香は寝るのやっぱり遅かったんだね」

「うぅ……その話……海鮮丼思い出しちゃう……」

「海鮮丼?」

「昨日……夜中に海鮮丼食べてたっぽいんだよね……私……海鮮系苦手なのに……特に生は……」

「酔ってたとか?」

「それはないかな、ただ、すごく疲れてた気がする……」

(なるほど……)

(どゆこと?なぜ食べた!?)


二人はアトランティスへ着くと、無事席を確保することができた。

「いただきまーすっ!」

二人は口を揃えて合掌し、香ばしいアトランティスの日替わり定食に食らいつく。


「これは……!隠し味に微量の紹興酒を加えてる……!?五年ものかな……これだけでご飯が止まらない…!他に何を加えてるの!?アトランティスのメニューは研究の余地があるっ……!メニューのレパートリーが増えちゃった……!」


冬美香は目をキラキラと輝かせながら調味料について語り始める。


(妙にテンションが高くなった気がする……料理が好きなのかな?)


温厚な性格の蒼斗は、そんなこと考えながら、はしゃぐ冬美香の話を笑顔を聞き続けた。

実のところ、蒼斗は冬美香に対して平常心を装ってはいるが、正直かなり緊張しているのである。というのも、会食の距離感で美人と向かい合って話す機会が少なかったからである。

とはいえ、結局のところ、話題が盛り上がってしまえば楽しくなるものである。


「へぇ~、蒼斗くんは格闘技してたんだね、だから少し筋肉質なんだぁ。よく見たら拳にタコがあるね。たくさんパンチしてるとこうなるの?」

「硬いもの叩いたり、グーで地面に拳つけて腕立て伏せしてるとタコができちゃうんだよ。触ってみる?」

「うわっ、コリコリする!これは……パンチされたら痛そう……」

「大丈夫大丈夫、今後パンチする機会はないし、使い道は無いかな……」

「神田教授のお腹の調子を治せるかも」

「すごいこと言うなぁ……」


などと談笑しているうち、すっかり三限目の出席カードの受付時間になっていた。


「冬美香は三限目に講義入れてる?」

「権田教授の特別講義を取ってるよ」

「ほんと!?俺も取ってるよ」

「あ、一緒に受けられるね」

「うん、それじゃあ俺が食器返してくるよ」


蒼斗は、自身の食器と冬美香の食器を持ち上げようとした。


「あっ!自分の私の分まで申し訳ないよ……!」


そう言って冬美香が立ち上がった瞬間、大きくつまずき蒼斗を引っ張るような形で互いに転倒した。


冬美香は仰向けに倒れ、蒼斗は冬美香を潰すまいと地面に手を出した結果、いわゆる床ドンのような体制になってしまったのだが、問題はそこではない。

蒼斗は、うっかり右手で冬美香の豊満な胸を掴むように触ってしまったのである。突然の出来事でお互い赤面になり、思考停止状態に陥っていたのだが、直後、冬美香の態度は一変し、誘っているかのような照れ笑いの表情で蒼斗を見つめる。


「大胆なんだね……良いよ……続けても」


冬美香はそう言うと、自身の左胸に触れたままでいる蒼斗の右腕を、撫でるかのように握りしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る