第4話 ゲーム主人公への嫌がらせを中止しますの その4

「計画を直ちに中止せよと仰るのですか。もう手はずを整えてしまいましたが」


 セバスティアンは困っているような、咎めているような口調で言い放つ。


「その通りよ。今すぐ取りやめさせて」

「しかし、彼らが納得するかどうか……」

「対価は当初の約束通り支払って構わないわ」


(寧ろ多めに金を積んでも撤退してもらいたいレベルよ)


 もしヨハナがゲームの主人公と同一人物だとしたら、そして今回私が命じた暗殺とゲームのイベントが一致するとしたら。


 彼女は睡眠薬を飲まされそうになるも、仲間のおかげで飲まずにすむが、敵をおびき出すために倒れたフリをする。高笑いするマルガレーテが現れたところで仲間と共に周りの実行犯達を殲滅。「串刺しにされるか、ミンチにされるか、それともハチノスになるか選べ」と凄んだところで恐れをなした令嬢は逃げだしていく。確か、選択肢によってはそのまま死ぬルートもあった。


 丁度その時、主人公を助けようとして後をつけてきた王子と出会い、彼が「元婚約者がすまないことをした。お詫びをさせて欲しい」と言ったところ、すかさずヨハナは「ならば私を婚約者にして欲しい」と迫るのだ。もちろん、王妃になって国を裏から操ることで革命を起こす、という野望を秘めて。


(そこが痺れるほど格好いいのよねえ)


 などと、浮かれていてはいけない。ヨハナが正式な婚約者になってしまったら、反逆者としてお父様は爵位を剥奪され、家族共々良くて国外追放、悪くて処刑されてしまうのだ。誰のルートでもそれは変わらなかった気がする。


(つまり、彼女に危害を加えようとした時点で襲撃者たちは全員死ぬ。そして私の人生は詰む。折角貴族の娘として、大好きなゲームの世界に生まれ変わったのに早々死ぬなんて嫌すぎるわ。しかもお父様やお母様、お兄様を巻き込むなんて。とにかく襲撃は無かったことにして、王子とよりを戻さないと)


「セバスティアン、計画はどのようなものだったの?」

「それは、お嬢様のお耳に入れる程のものでは」

「良いから早く教えて」

「では、申し上げます。対象者を一目のつかないところまで呼び出し、お茶と称して睡眠薬を飲ませます。もし飲まなかったら無理矢理飲ませます。対象者が眠ったところで学園内の倉庫まで連れて行き、手足を縛って幽閉。そこでお嬢様の命令次第では殺害を行う予定でした」


(驚く程ゲームと一致しているわ。ますます異世界転生説が濃厚になってきた。ってことは、わたくしの詰みも確実になっているってことじゃない)


 セバスティアンはすぐに使いを出して、計画の中止を命じてくれた。しかし、本当にそれが成し遂げられたかどうかは、確かめるまで分からない。ここでもしものことがあったら、第二の人生は終わる。


「馬車を出して、急ぎ学園の倉庫に向かうわ」

「いけません、計画は中止されるとはいえ、あまりにも危険です」

「お願い、自分の目で確かめたいの。いざとなったら、守ってくれるでしょう?」


(あの主人公とその仲間を相手にできるかどうかは、分からないけれど)


 渾身の上目遣いで訴えてみる。執事はやれやれと首を振り、馬車を手配してくれた。


「お嬢様、少々活発になっておられますな。まるで人が変わったように。実はまだ体調がすぐれないのではありませんか?」


「平気よ。痛みは引いたもの」

「しかし、無理は禁物ですよ」


(今は無理をするべき局面なの。家族の、そしてわたくしの運命が掛かっているのだから)

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