朝の夢
「起きて−−−−ねえ起きてってば純くん」
「もう、確かに昨日寝るのは遅かったけど、ちゃんと朝は早く起きなくちゃ!」
「む……いい加減起きないと、せっかく作った朝ごはんが冷めちゃうよ?」
「もう〜純くん!」
「むぅ……いいもん。そのまま起きないんだったら、私も一緒のベットに入っちゃうもん」
「……うふふ。……あったかい、純くん」
声が聞こえていた。
その声は、いつも僕に最高の癒しと極上の気分を味わせてくれる。こんなダメダメで情けない僕に対しても、いつも彼女は優しい微笑みをくれる。幸せだ、朝起こしに来てくれる人がいるなんて。
隣から、スヤスヤと寝息が聞こえてきた。
ああ……至福のひとときだ。落ち着く温もりが僕を包んでいる。それはベットの魔力だけではなくて、絶対にもう一つの理由がなきゃ成し得ないまさに至福の温もり。
僕はその幸せを堪能するため、彼女が静かになったタイミングでチラッと目を開ける。
そう、僕にくっついているその温もりの正体を
−−−−七草ゆららの寝顔を、しっかりと目に焼き付けるために。
ゴリラだった。
比喩でもなんでもない。ゆららちゃんだと思ったいた存在は、ゴリラだった。
目を開けたら、枕に頭をのせ、こっちを見ているぱっちり目を見開いたゴリラがいた。
「あ、純くん起きたんだね。うふふ〜」
至近距離でゴリラがしゃべった。その野生の風貌と高く可愛らしい声のギャップが絶望を誘う。っておい……あ、や、やめろ……そんなにこやかに顔を近づけるな両手で僕の顔をロックするなぁぁぁ
あ、ああちょ、マジでやめろ近づくなあああああああああああああああああああああああああ!
「うふふ……ウホホ––––純くんダァいすきぃィィィ!!!」
「ヒィィィヤァあああああぁぁあぁぁああああああああああああ!!!!!!!!」
「んやぁあぁぁあああああ! ……はぁ……はぁ」
ベッドから跳ね起きると外から、鳥の鳴く声が聞こえた。背中には冷や汗があった。温もりの残りと、背中の冷えのコントラストが僕が覚醒したことを実感させる。カーテンからは太陽の光が漏れていて、お腹が減っていることを腹の虫が教えてくれた。
あ、あれ……あ、そうか。夢だったんだ。
––––よかった。本当によかった。
それにしても、途中までは素晴らしい夢だったのに最後はなんだったんだアレ。
「あら起きたのね」
「え––––っな、んなぁ⁉︎」
「……なんで……私でもそんなビビり方するのよ」
ベットから跳ね起きていた僕の下。僕に添い寝していたのは昨日の自称姉だ。
とすると、昨日のアレは夢じゃなかったってことか? いや、これももしかしたら夢なんじゃ……
というところまで考えて、僕はそれ以上の思考を止める。
な、なんか––––この人、めっちゃ機嫌悪い? 唇を尖らせ目はジトッとしている。
「それにしても朝から全くお幸せな夢を見ていたものね。ミヒャエルが帰ってやっと二人きりになれると思ってウキウキしながらせっかく人が朝ごはんを作って起こしに来てあげたというのにまさか全く同じシチュエーションで違う女が夢に出演しているなんて驚いたわ。おかげで私も微力ながらもっと面白い夢になるように細工させてもらったの。楽しんでくれたみたいで嬉しいわ」
ベットに横になりながら、めっちゃ早口で睨みながら僕を見上げている。
なんか、ちょ〜こえぇ。
とりあえずなんか怖いので、僕は話題を変えることにした。
「えっと……あんたがいるってことは、やっぱり昨日のことは夢じゃないってこと?」
「ええ。全て現実よ。説明が終わってから寝落ちしたあなたを一体誰がここに寝かしたと思っているのかしら」
「ああ。なんか、ごめんなさい」
そうだ。あれからミヒャエルさんとこの人の説明を聞いてたんだっけ。地球の危機とか災害がどうのって……。
つーかこの人ものすごく機嫌が悪そうだ。今も彼女は目元に皺を寄せてこっちを睨んでくる。
「呼び方、あんたっていうのやめて」
「え、呼び方?」
「ええ。まさか、あなたこの期に及んでまだ私が姉だって認めてないの?」
口調は不機嫌のままだった。だけど、その目には少し……いや、だいぶ悲しみが見える。目が潤んでいくのがすぐ分かった。
「いや、信じるよ! 信じる! 疑ってなんかないから!」
朝から姉とはいえ女の子を泣かせる趣味はない。それ以上に、なんかすごい……可哀想というか、罪悪感を感じた。
それにまあ––––本当に、嘘じゃないって気がするから。
「−−−−じゃあ、私の呼び方考えて。あんたじゃなくて」
「え、えっと……」
いきなりの要望にどうしたものかと狼狽する僕。それを見て拒否されていると感じたのだろうか、また彼女の目には、カーテンから漏れる太陽の光に反射してキラリと光るものが。
って、うぇえ⁉︎ 泣き虫かこの人⁉︎
え、えええええっとっ……確か、この人名前は
「ああもうっ––––宇宙(そら)ねえ!! これでどう⁉︎」
「……………………」
「え、えっと……ど、どうしたんだよ」
止まった。彼女はベットに寝そべったまま、僕の目を見たままで口を開けてポカンとしている。とりあえず目元の皺は消えてくれた。
「…………………………………………もぅ……いっかぃ」
ほんっとうに小さく、真顔でそんな声を出した。あまりの呆けっぷりに心配になる。
「え、えっと…………宇宙ねえ? どうしたんだよ」
「……………………………………………………ぇへ」
「ちょ、ちょ、ええ⁉︎ 宇宙ねえ! ねえったら!」
宇宙ねえは体から力が抜けたように、ニヤニヤしながらコテッと首を力なく枕に落とした。
地震雷火事姉ちゃん! shushusf @s_7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。地震雷火事姉ちゃん!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます