女々しい脇役の比山くん
「ふふふ、女々しいなぁ。名前と一緒で女の子みたいだよ」?
「へ?」
青葉に笑われてる。
確かに女々しいこと言ってたし仕方ない。情けない声まで出てしまう。
「あ、女々しいってそういうことじゃないよ! 間違えた」
慌てた様子で目を見開いて口に手のひらを当ててそう言うと、うんと一回咳払いをして言葉を続けた。
「女の子みたいで、それでいっつも暗くて、自分についてのことはあんまり話さない。何をするにも『俺は脇役だから』だしね。だから今の比山くんの話にびっくりしちゃった。だってさ、比山くんっていっつも冷静で本質を見てるみたいな感じで話すじゃない? だからそんな感情任せでいろいろブワーって言われても私にはよくわかんない。でも、でもだよ? なんだかわからないけど、すごい嬉しい。なんだろう、私もこの気持ちを言葉にできない。比山くんが言葉にできないような感情なんだから、私で出来るわけないんだけどね」
「あ、あの……それってまさかばかにされてます?」
要領を得ない、どっちだ? 青葉は今、どっちの感情に揺れている?
会場は笑っていたが、ただ俺だけは笑ってるか分からない歪んだ表情で青葉を見つめる。
「そんなことないよ。やっぱりあなたって本物の比山くんなんだね。偽物とか疑っちゃった。比山くんって本当に回りくどい人だよね。脇役なのにいっぱい喋るしさ。そうやって側から本質を見てるつもりでも比山くんはやるべきことが見えてないよ。 はー、中学の入学式で初めて会ったから比山くんとは四年ちょいの付き合いだけどさ、なんとなくわかるようになっちゃったよ。私も気づかないうちに比山くんをずっと見てたのかもね。こうやってなんとなくわかった気がする」
ニッコリと笑う青葉を、俺は棒立ちで見つめる。
「そんな俺、回りくどかった、かな」
「回りくどいよ。あんだけ色々言ってくれたのに、私が待ってる言葉を忘れちゃってるんだもん」
彼女は話し方があたふたしているように俺は感じた。
「……え? それは……なんだ? 俺なんでも言うよ! なんて言って……」
「私も、比山くんが好き。この気持ち、比山くんに言われるまで全く気づかなかったよ。多分私あまり察しがいい方じゃないから言われなかったらずっと気づかなかったと思う。ありがとう、そう言ってもらえて……本当に嬉しい、比山くんじゃなかったらきっとここまで嬉しくないよ。自分で女々しいって言ってたけど今の比山くん、すごいかっこいい」
青葉の目に涙が浮かぶ。なぜ泣くんだ青葉
泣きたいのは俺の方なのに、俺はもうなんか一杯で、なにも言えない。
「ありがとう。比山くんが好きって言ってくれて私、本当に嬉しい。あのね?比山くんが言わないから私が言うよ? 比山くん、私もあなたが好きです。あなたに多分、負けないくらい。だから、私と付き合ってください。あなたのヒロインになりたい」
付き合ってほしい、それをはっきりと伝えてなかったことを思い出した。
「比山くんがはっきり言わないから私から、そういうことは男の子から言ってほしいのにさ。それで、付き合ってくれますか?」
全身に鳥肌が走る。電流が脳に刺さる感覚がする。
目の前の光景、言葉を受け止めるしかできなかった俺の脳は動き出す。
「はい、ごめんなさい」
「それじゃあどっちかわかんないよ」
「じ、じゃあ俺から! 僕と、付き合ってください!」
俺は手を差し出す。
「こちらこそ、おねがいします」
そうやって俺の恋はまさかの形で、成就することになった。
いまだに信じられない。拍手で会場中があの憧れの青葉がそういう風に、いや違う、あぁなんて表現したらいいんだ。
青葉と付き合えるなんて夢にも見ないとはまさにこのことだ。
こんな舞台がなければこんなことになることはなかったかもしれない。
期間限定ボーナスでもなんでも俺は青葉と恋人になれたのだ
この舞台を作った会長にもガチでやるよう伝えてくれた怜にも感謝しなければならないな。そんな立役者の怜は今どうしているだろう、全く想像のつかない、リアクションが気になって会場に目を降ろす。
彼女は笑顔で周りと一緒に拍手をしている。
けど、彼女の存在は少しづつ薄くなていき、俺の視界からすーっと消えていった。そして 俺がずっとこの一ヶ月わずかながらにも感じていた人ではない何かの存在感を感じなくなった。
そしてカプコンが終わり、ほどなくして後夜祭はお開きとなった。
だから俺は怜に言われた通り開かずの踏切まで急いで駆ける。
なにか嫌な予感がしたんだ。俺はとにかく急いだ。
青葉に急いでいるからと一言告げ向かっていった。陸奥は文句を言っていたが青葉は何かを察してくれたみたいで、いってらっしゃいと笑顔で俺を送り出してくれた。
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