あなたが好きだってこと

 俺はカプコンの最後に怜を見た時のあの不気味な感じが何か現実になるようで、なんとも言えないような形容しがたい恐れのような何かが俺の目の前にあった気がしたから、怜に言われたことを最優先で行った。


「怜! どこだよ! まさか消えちゃったりとかしてないよな」


 俺は最初に思ったこと、成仏させてあげようという目的からは逸脱した言葉を口にする。なんでかはわからない。口に出た言葉がそうだったからだ。?


 わっ! えへへ、びっくりした?」


 後ろから急に怜が現れた。肩を触りたまに俺を驚かそうとするのと同じように怜はパッとその身を表した。


 いつも通りのお約束、それに俺はいつも通りびびらされるがなぜか少し安堵の気持ちが俺にはあった。


「うわっ! って……おどかすなよ」


「いっつも驚くね、まぁ仮にも幽霊だし、隠れたり驚かしたりは得意なんだ……ってそれはもう何度も言ったか」


 そう言いながらくるりと回って、怜は踏切の真ん中に立った。


「はぁ……お前がここにいるってことは成仏してないってことだよな。てことはまだまだ未練があるわけか、これ以外にもあるとなると 何かはわかんねーけどまぁじっくりやってくとするか」


「あぁ……それなんだけど、ええっと……まぁカプコンはおめでとう」


 怜の態度に少しを調子を狂わせながらも、祝福されたことに対して俺は照れを隠しながら返答する


「あ、あぁ……ありがとう。怜のおかげだよ」

「いやー、最初に出会った時、光は青葉ちゃんに振られた! もうだめだ! 死ぬ! って言ってたのに今となってはその真逆だね」


「そこまではいってねーよ。まぁ近いけど」

「幸せになれてよかったね……」


 話してていつもと怜の様子がなんか違うとは思っていた。もっと情緒が豊かな怜が今日はなぜか少し物憂げで、でもただそんな大きな変化ではないと俺はずっとタカをくくっっていた。


 確かに友達に彼女ができたりするとそっち優先になったり何かしら関係性に変化が生じる。


 目の前の怜がよそよそしいのも、ただその程度のものだと俺は思っていた。


「これから、楽しいスクールライフってやつが光を待ってるわけだ……」

「なんだよそれ、お前がいるからどうなるかは全くわかんないんだけどな」?「あたしがいる……ねぇ」


「あ、お前まさか自分がいない方がいいとかそんなこと思ってるんじゃないだろうな。別にお前を成仏させることとそれとは全くの別問題だからな」


「いや、でもさ」


 もじもじと怜は恥ずかしそうに言葉に詰まる


「だーかーら。俺と青葉が結ばれようがお前がいる時点でドタバタコメディのようなスクールライフは確定なわけ、一ヶ月近く一緒にいたんだ、もう慣れたよこんな生活」


 そう俺は怜の言葉に食い気味でかぶせる。


「優しいね、やっぱり」

「そんなことはねーって、普通だよ。だから……」

「でも今がいい。話させて」


 言葉を繋げさせてはいけない気がしてこっちの考えてる路線に話を誘導しようとしても、怜はそれを遮りながら神妙な面持ちでこちらに視線を向けながらゆっくりと口を開いた 。


「あのさ、あたし光と出会って一ヶ月くらい経って、思ったことがあるんだ」

「?? 思ったことってなんだよ」


「あなたが好きだってこと」

「は?」


 その言葉に俺は呆然とする。いや正確にはよく聞き取れていなかった。

 よくある難聴系主人公の気持ちがわかる。意味も意図も意味合いも筋合いも、何もわからず俺の頭は真っ白になる。ただ頭の中で怜が大事な話をしようとしているのはわかっていた。


「え、えっと? つまり、なんだ」


「だから! あたしは君が……っ! 光のことが好き、なの」

「え、だ、だか……っっ!」


 最初はカプコンの真似事をしてるのだと思った。けれど彼女の言葉を聞くと俺の目には怜の体が透けて消えていくように見えた。


「あ、やっぱりだ。あはは。やっぱりこれかぁ……」

「なんだよこれ……照れちゃって消えそうとかそういうことか? はは」


 いや違う、カプコンの最後の時みたいなすっとした消え方ではなかった。


 今回はまるでゲームのように、キラキラと消えていく感覚、そんな感覚でしか俺は形容できないが本当にそんな感覚なんだ。

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