お好み焼きの味

 まぁそんなことを考えてる間に活気は衰えず十時を迎え一般開放の時間になった。窓から校門をみると得体の知れない熊やカエルのような着ぐるみが生徒の家族を迎え入れる。近所の人もお祭り感覚で来てるみたいだ。


 まぁ校風を知ってもらうっていう名目なら関係ない近所の人もありなのかなとかなんとか思いながら俺は校門に向かう。開会宣言の時までいた怜もいつの間にか姿を消している。また臨場感とか雰囲気とかで隠れているんだろう。


 そして校門に着いた瞬間に思いっきり肩を叩かれた。


 もう叩いた人が誰かはいうまでもない。

 怜が驚かして俺がビビる。お約束だ。


「うわっ!? はぁもう……」

「どう? 驚いた?」


「驚くだろ勢いよく肩叩きやがって」

「あははは! ごめんごめん、舞い上がっちゃってさー」


 学校来てからジズかだった怜は普段の倍明るい笑顔を見せていた。


「ほらじゃあ行くか」

「うん! あたしお好み焼きがいいなー光が作ったやつ」

「俺は焼かない。まぁでもとりあえずそこから行くか」


 そう言ってウキウキでスキップする怜とともに門からすぐ近くの中庭の出店エリアまで歩いていく


「ひとつ」

「二百円です。あ」

「あ」


 陸奥がいた。陸奥が焼いていた。


 クラスで作った法被を着てポニーテールの髪を蓄え、まるで屋台仕切ってるおっさんの一人娘さながらの手つきでお好み焼きを焼いている。


「てか……陸奥結構焼くの美味いのな」

「そりゃあまあ練習したからねー。んでその子……従姉妹、なんだっけ」

「え!? あ、えーと」


 そういえば怜の設定が俺の従姉妹だったことを忘れてた。

 母の兄の……どうしようかと思わず口ごもると怜が笑顔で


「そうなんです! 岩清水怜です! お話聞いてますよ、陸奥さん!」

「へぇ、結構しっかりしてるじゃん。いくつ? 見た感じ若いけど」


「えっと確か……」


 五年前に死んでしまって今十五歳だから


「二じゅ……っ!」


 がつんの足の甲になにか衝撃?


「あ!? がっ!」

「十五歳です」


 怜は笑顔で思いっきり俺の足の甲を踏みつけ話す。

 女の子のローファーは少し靴のかかとがヒールのように少し厚くできているからか、痛みは質量のないはずの幽霊のそれではなかった。


「へー、結構見学って感じか。はいお好み焼き」

「うわあこれが学祭のお好み焼きかぁ。いただきまーす」


 わざとらしくそう言って笑顔でパックに入ったお好み焼きをつついて笑う。

 今までの喜怒疑驚哀楽のどれでも見たことのない笑顔だ。


 幸せってなんだろうって今こいつに聞いたらまさしく美味しいお好み焼きを食べた時って言うだろうな。


「美味しい! これ美味しいなぁ。陸奥さん! これ美味しい!」

「そ、そう? いやそんなふうに言われると照れちゃうなぁ。あ、あとあたしは呼び捨てでいいよ」


「えーじゃあ陸奥ちゃんで! いやーいい仕事するなぁ」


「へへへ、どうよ。まぁ練習したからね」


 褒められて陸奥は得意げにお好み焼きを焼く。


「あ、そうだ陸奥、どんくらい人はきたんだ?」


  早速売上が気になる。別に利益が俺たちのポケットマネーになるわけじゃないがやっぱり気になる。


 そのへんが気になってしまう俺はやっぱり裏方気質なのかもしれない


「え、まだ始まったばかりだよ? まぁでも普通じゃないかな」

「まぁそうか」


 辺りを見回すと制服と私服が半々、十分人も来ている。

 そんな感じなら発注した材料は使い切れそうだな。


「あーーーーーーーーっ!!」


 次から次へと人が往来するところ貫いてでっかい声を聞こえた。もう何度も聞いた大声だ。誰かもわかる。


「光くんっ! 彼女作っちゃったわけ!?」


 会長だ。腕に生徒会長と書かれた腕章をつけている。その後ろには荒戸もいる。腕章に雑用と書かれていた。せめて庶務にしてあげてお願いだから。


「いや彼女じゃなくてこれは従姉妹ですから」


 言い訳のようにそれを繰り返す。


「えーでも従姉妹ってことは光くんの血が何滴かは入ってるんでしょ? うーん怪しいなぁ。光くんの血が混ざってるにしては可愛すぎるわよこの子」


「んぐ、それは……」


 怪しんでることに言葉が詰まるのか、それかもう一つの俺への悪口にも食らってしまったのか。


 まぁそれは俺にもわからない。


「うーんどうなんでしょうね。でも従姉妹なので」

  パァッとした明るい笑顔で怜に顔を近づけた会長に間近で語りかける。


「……可愛いなぁ。ねぇうちの従姉妹にならない?」


 会長はぐっと顔を近づける。このまま食べるんじゃないかと思うほどに


「え、あの」


  会長のこのぐいぐいっぷりは近くで見ていたはずだが、それを実際に体感すると怜ですらむぐぐと口を結んで開いてなんと言ったらいいか言葉に困っている


「ほら会長、バカみたいなこと言ってないで行きますよ」


 そんな様子の会長に荒戸も呆れて肩を叩いた。


「うるさい雑用ねー」

「はいはい、てかっ! 俺雑用じゃなくて庶務ですから!」


 そう言いながらいつもとは違い荒戸が会長を連れていく。まぁ学園の顔である会長は忙しいんだろう。連れて行かれたり連れて行ったり大変だ。


「ほら、次どっか行きたいだろ? 陸奥、それじゃ頼んだよ」

「あ、うん! ありがとう陸奥ちゃん」


「あいよー」


 そう言いながらお好み焼き屋を去るとあちらこちらに連れまわされた。


 テンションがやはり高いままで上げっぱなしだった怜は疲れることなくあちこちの出店や、教室を使った縁日とかお化け屋敷とかのアトラクションに次々と挑んでいった。


 もちろん俺を巻き込んで。まぁ自分がお化けのくせにお化け屋敷で引くほど怖がってたのはさすがに俺もちょっとビビった。


 休む事なく時間も忘れて遊んだ。


 表情を見ればわかる。楽しんでもらえたようでよかった。

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