開会式
学校に着いてみると大きな看板が立っている。
『赤羽学園新入生歓迎会』大きな文字が会長の描いたと思われるへんちくりんなイラストと共に書かれていた。
中庭の出店スペースを通るといろいろな出店がある。我がお好み焼き屋台もある。俺はあんま関与してないが出店の完成度は高い。
ただこの時間になると電源だ材料だなんだとてんてこ舞いだ。
「あ、比山くん」
「青葉、なんでこんなとこに」
「初めて歓迎する側だからね。一年生楽しんでくれるといいなー」
看板を眺めながら俺は青葉とこれまでの苦労を振り返って満足感に浸る。
「楽しんでくれるさ」
「そうかなぁ、そういえば後夜祭? も面白いことやるんだよね。カップルコンテストだっけ。みんなの想いが届くといいね」
笑顔で俺にそう言う。一度俺に対して拒否の言葉を投げた青葉がそういうことを言うのは残酷だと思うのだが彼女はそんなことを覚えてないんだろう。
それに詳細が伝わってないということは今回の後夜祭で告白するんだ。
やらせなし。本気で想いを伝える。
「あ、あぁそうだな」
「比山くんも告白されちゃったりして」
この子は全く……その逆なのだが。
「ま、まぁどうあれ、会長の考えたことだ。適当でいいんじゃねえかな」?「そうだね。真剣に適当にやろう!」
真剣に適当に、相反してるけどわりと的を射た表現だ。
ただこうやって話すのも今日で最後かもしれない。
俺は今日で粉末になるのだ。
「えー本日は、お集まりいただきありがとうございます。本日はおひがらも」
「会長、これ校内放送ですよ、一般客もまだ入ってないのにその挨拶は」
「いーの! 荒戸くんこれは伝統行事なのよ。入りからいかないと」
「それマイクに乗ってますから!」
荒戸、お前の声もバリバリ乗ってるぞ。
なんで朝からそんな身内ノリ全開の漫才を聞かされてるんだ。
演目か? 前座の演目なのか? そんなくだらないことを考えてる間に会長から開会宣言のために体育館に集まるよう指示が出た。
体育館に並ぶ、背の順の真ん中で舞台を見上げると生徒会が準備を行っている中、校長が事前挨拶として長々と話を続けている。
生徒会が忙しいということは荒戸も同様だ。そんな風にぼうっと見てると後ろから足を小突かれた。
なんだと思って後ろをみると 陸奥が下から顔を覗かせていた。
「な、なんだよ。お前ここじゃないだろ前へ行け」
「いいじゃん、聞きたいことがあるだけ」
俺の方が身長が高い分自然と陸奥は上目遣いになり俺の顔を見つめる。
なんか嘘はつきづらい雰囲気。
「あんたさ、カプコン本当に出るの?」
「あ、あぁ……俺はなんたってトリらしいぞ」
「え!? ちょっとそれ本当!? 光あんたよくそんなの了承したわね」
小さい声で張り上げないように驚いてみせる陸奥
「あぁ、だから俺も当たって砕けるんだよ。メンタルのケアはお前も頼むぞ」
「……? ま、まぁ、いいけどさ。お前『も』って?」
陸奥の目つきが変わる。怜を念頭に置いてるせいで出た違和感に引っかかった陸奥はまるで浮気を疑う昼ドラの修羅場にいる奥さんのようだ。
「え? あ、あぁ? 荒戸にも伝えてあるから」
「なんだ、びっくりした」
ギロリと獲物を狙う目から女子高生のような目に戻る。
陸奥の旦那には苦労することだろう。鳩場宗光とかいう名前のくせしてその眼光は 鳩ではなく鷹か鷲だ、猛禽類だ。
「はーい! みなさーん! おまんたせいたしましたー!」
校長の話が終わったのか会長がマイクをスタンドから勢いよく取り外し手を広げてマイクで語りかけた。ライブのMCのように大声でスピーカーがピリピリと言ってる。
「あ、ちょっとうるさかったね。ごめんよ。まぁそんなんどうでもいい、諸君! 本日は……」
「会長、すこし」
そう後ろで周りの生徒会のメンツが会長に耳打ちをする。
「え!? 嘘! もう開場!? あたしもっと話したいことあったのにー。まぁいっか、それじゃ一年生は全力で楽しむこと! 上級生は全力で楽しませて楽しむこと! 後夜祭もあるから途中で帰っちゃだめよー!」
そうやっと話し終えると熱狂に包まれた。
一年二年三年全員いえーいと盛り上がる。
楽しませる側の上級生も楽しむ気満々って感じだ
会長はそう言いながら物足りなさそうな顔をしてステージ横にはけていく。カリスマ性ってこういうところに出るんだな。
俺がやったら何もわかないだろうな。逆にめんどくさいとかで帰る生徒が出てくるだろう。
「会長宣言は!? えーとりあえず! 開会ということで、お願いします!」
お前が開会宣言するのか、荒戸が後を引き継ぎ、赤羽学園新入生歓迎会は始まった。
最初は一年生が純粋が楽しめるように一時間準備も兼ねて一般開放せずに始まる。俺は別に裏方で前日準備をやってたから後は現場に任せるだけで特にすることはない。
この新歓を楽しみにこの高校に入った人が多い一年生は乗り気で会長に乗せられながらあちこち回ったりしていた。
そのため学校は生徒の活気にあふれていた。
改めて考えるとやっぱり文化祭が二回あるっていいな。秋にはもっと規模の大きい本格的な文化祭が行われる。怜もきっと喜ぶ。
まぁそんな活気を横目に俺はずっとぼーっと十時まで教室にいた。よくいるだろう? クラスの影みたいにどこにいるかわかんないやつ。
あんな感じにとりあえず十時まではぼけっとしていた。
怜がすぐ近くにいるのに俺だけ満喫するのも申し訳ない気がしたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます