新歓当日

 そして時は進み、五月の連休初日。ついに新歓当日となった。


 特にいつも通り何もなく、カプコンをガチでやると決めた日から当たり前でいつも通りな怜といる非日常的な日常を過ごしてきた。


 それに陸奥とも和解できたから話もできるようになった。


 前日には応援してるとメッセがくる。気合いを入れて、思いを伝えるんだ。

 ただそんな固めた決意をよそに俺は新歓の朝に金縛りにあっている。


 決意とともに体が固まり全く動かない。 最初怜の仕業かと疑ったが金縛りは脳が目覚めきってないから起きる現象なのだから多分違う。


「あれ……?」


 なぜだ目が開く、でも体が動かない。

 重い、俺はいつもこんな体を動かしているのか。

 でも腕が動くことに気づく、金縛りってこんな風に解けるものだったっけ


「おっもい、てかなんか、重いもの……がっ?」


 前言撤回だ。俺を金縛ってたものの正体が分かった。

 俺の顔の前にそれはあった。


「んん? えっと、あた……しっ?」


 怜と目があってしまった。


「あ、あははは、お、俺主人公になれたかも、こんなギャルゲー見たことが」

「きゃああああああああああああああ!!」


 その悲鳴と共に俺の頬に強烈な一撃が飛んできた。

 俺は悪くない悪くないのだ。


 久しぶりに怜の絶叫を聞いた。正直絶叫したいのはこっちなのだが。


 夜這いも何もした覚えは俺には全く記憶にございません。


「な、何すんだお前!」

「えっとあっと、うんと……ええっと……ふん!」


 もう一発逆の頬にヒットした。痛いけれどもそれ以上にとんでもない

  あんな近くで怜の顔、しかも寝顔を見た。男子高校生には刺激が強すぎる。


「あーあー、マジで絶叫したな。またなんか明に言われるぞ」


 息を必死で整え、ドキドキと頬を抑えながらいつも通りの冷静なふりをしてそう怜にシニカルに言う。


「ご、ごめん、びっくりしちゃってさ」

「まぁしゃあねえか、だいたい何してたんだよ」


「え? あ、いや! 何も?」


 焦って机の上を隠すように立つ怜。ペンと紙……何か書いてたのか? 

 まぁもう気にするだけ無駄だし俺はそれに触れないで起き上がる。


 怜を追い返して机の上を全く気にせず着替え、がたりがたりと階段を降りていくと、リビングのドアを開けて母親が顔を出した。


「光、なんか女の子の悲鳴聞こえたけど」

「あ、あれはあか……」


「あたしじゃないよ。変なこと言わないで」


 明は俺の言いたいことを先読みして封じてくる。


「う、マジか、あれはあの、ビデオだよ。お化け屋敷を出し物で出す班もあるからさ、予習しなくちゃ」

「あんたそんなのばっか見てたら悪霊とか妖怪とか呼んじゃうわよ」


 呼んだ後に悲鳴が出たんで状況がテレコですよお母様にお姉様。そう言いかけて飲み込む


「わかったよ」


 別にそんなビデオ見てなくても幽霊はもう俺のそばにいるけどな。

 心の中で少し言い返す。


「行ってきます」


 そうやって俺は半ば駆け足で家を飛び出した


 いつもどおりの裏道を使って周りから見えてない怜と共に学校へ、最初は隠れて幽霊には必要のない朝食を渡してということをやっていた。


 最初は見つからないか不安だったかもう小慣れたものになってしまった。

 そう言う細かいことから怜と過ごした時間の長さを感じさせられる。


 そんなことを怜と話していた。怜はずっと楽しみにしてたからかうきうきしながら楽しみなのが顔から漏れるようにニヤニヤしていた。


「いいか? 今日はとりあえず開会宣言を九時にやって、十時に一般開場だ。だから十時に校門に行くからいい感じにしてくれな」


「開会宣言とかは見ていいんだよね?」

「他の人に見られないようにするならな」


「やった! 楽しみだなぁいっぱい色々準備してたもんね! お好み焼き!」


 嬉しそうにする彼女は歩幅が大きくなる。

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