デート日、当日

 そして割とあっという間にデートの日がやってきた。

 なぜかいつも起きがけにいるはずのあいつの姿が見えない、どこへ行ったのだろうか。


 そんなことは頭の片隅に追いやり俺はただひたすらにひたむきにデートという単語と格闘をしていた。


 なぜか心臓がドキドキしてる。なんでだろう緊張しているのか?

 デートってなんだ? デートってなにするんだ? いやまぁデートをするんだけど、あれ、デートってどうすることをいうんだ


「あ、あ、あ、えっと九時に公園前……だっけか」


 えっと服を着て……朝を食べて……そうやって頭の中で今日一日やることを復唱しながら起きてからずっと家の中ですべきことをしていた。


 いつも通り通学路を通って学校へ通うような俺の当たり前の日常の朝の部分を切り取って、いつもと違う心臓のドキドキと付き合って。


「あ、じゃあ母さん、俺ちょっと出てくるから」

「はいはい、気をつけてね」

「ねぇ光、いつ頃帰ってくるわけ?」


 いつもなら俺がどこへ行こうかなんて無視して興味なさげなのにこんな時だけなぜか明は読んでいる雑誌をめくり俺の方を一切見ずに突っかかってくる

「いつ……だろ? まぁ適当に」

「ふーん、誰とどこで遊ぶの?」


「……言う必要ある?」

「弟の貞操を守ることは姉としての義務だからね」


 なぜ姉に俺の貞操を管理されなければならないのかわからなかった。


 てか明は俺が女子となんかするってわかっているのかと

 心臓の鼓動が少し早まる


「い、いやいや気にしなくてもそんなじゃないから」

「気になるものを気にするなって言われても無理。人間が持ってる強い行動力を伴う感情は性欲と好奇心だから」


 こっちを一切見ずファッション雑誌を見つめているのになぜか全身を舐め回すように見られているような圧迫感を明から感じ取っていた。


「はいはい、そんな顔して性欲だなんだ言わないでくださいよお姉ちゃん。俺と違って適当に雑誌をめくるだけで華になるんだから難しいこと考えんなよ」


「そんな話はしてないの、で? どうなの?」

「荒戸と遊ぶだけだから、これでいいだろ? もう行くから」


 無理やり明を制して俺は家を飛び出す。


 俺は遅刻しないように急いで公園まで歩いていく。今日はマジで覚悟だ。


 知り合いに会わないようにも注意してきた。今日は荒戸は生徒会、青葉たちは新歓で看板の製作のため学校から出ることはない。つまり幽霊と話していても独り言のやばいやつって知り合いに噂されることはないわけだ。


 そして待ち合わせ場所の時計台前、とは言ったもののただのでかい時計ある棒の前だ。それに今あいつはどこにいるかもわからないから 早めに行くのがデートでは吉だろう。


 しかしながら


「早すぎた……」


 時計の前で俺は呆然と立ち尽くす。八時……時間を確認せずあかりから逃げるように急いで家を出てしまったために一時間も早くついてしまう。


 俺はそわそわとしながら周りをチラチラキョロキョロ確認しながら何も考えられずに待ち続ける。

 いつもすぐ驚かしにくるあの幽霊が出てこないことがすごい不安でいっぱいだった。


「あいつ、いつになったらくるんだよ。ったく」


 四十分、いや五十分ほどたっただろうか、いつまでたっても姿を表すつもりのない幽霊にそろそろ嫌気がさすというか、すこし苛立ちまで感じていた。


 さらに待ち続けていると


「おっはよ! 待った?」


 そういいながら後ろから肩を叩いてきた。あいつがいつも通りの制服を着て


「遅い! 何してたんだよ!」

「あっ! そういうこと言うんだ。そっちが勝手に早かっただけじゃん! バカみたいに早くきちゃって」


「む、まぁそうなんだけど」


「待った? って聞かれたらいいや今きたとこって答えないと青葉ちゃんにも嫌われちゃうよ?」


「わかったよ。てかバカみたいに早く来たって……お前なんで知ってるんだ?」

「そりゃあ君のそばにいたからね。ムードが大事だから黙ってたけど」


 知らなかった。やっぱりこいつは存在感が曖昧すぎる。


「ねぇねぇ今日はさ、お前って言うのは今日はやめない? せっかくのデートなんだからさ。怜って名前で呼んでよ。あたしも光って呼ぶから」


「はぁ? ま、まぁいいけど」

「よし決定! 光! へへへ、光! 光!」


 俺の名前を何度もそう呼びながらウキウキと俺の周りを歩き回るそいつに俺はどきどきしていた。陸奥以外の女子に名前で呼ばれるなんてこと 滅多になかったから赤面する。恥ずかしい。


 今までそいつとか幽霊とかお前とか言ってたから今更名前で呼ぶなんてこそばゆくてしょうがない。


「じゃあ行くか、もう九時過ぎてるし」

「んー? それ誰に言ってるのかな?」


 俺の前に立ち、下から上目遣いでニヤニヤと彼女は見つめる。


「それはお前に……」

「だーかーら、お前って誰かな?」


 こういうのを小悪魔系女子って言うのか、いや幽霊だから小悪霊系?

 どちらにしてもそうニヤニヤしながら言う彼女の手のひらの上で弄ばれてる感覚がすごい。


 ただ彼女のまっすぐ切りそろえられた髪の毛、それに似合った整った顔を見てるとなぜか悪くないと思う。

 青葉に似て俺も面食いになったのだろうか。


 にしても、目の前の美少女を名前で呼ぶのはやっぱり心が振動する。


「れ、怜……」

「あっはっは! 顔真っ赤! はははは!」

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