デートしよう! デート!

 そして検査の結果は何もなく、帰っていいですよとのこと。

 轢かれたのに淡白だなとは思ったが、幽霊騒動が起きたんだ。

 めんどくさくなる前に早く帰らなきゃ


「うーん青葉ちゃんってあんなふわふわした感じでイケメンが好きなんだね」

「ほじくり返すな」


 ニヤニヤと話しかける幽霊をそう制す

 日が落ちきった帰り道、母さんの迎えもなく俺は幽霊と二人で帰路についていた。


「あと思ったんだけどさ。会長ってなんでカプコンにあんな気合い入れてるの?」


 幽霊が俺の周りをくるくる歩きながら聞いてきた。

 結構前に話した気がするがこいつはペンキに夢中で聞いてなかったか。


「赤羽学園の生徒が二人で仲良くデートしてるところ見たいんだと」

「へー結構変な趣味してるんだね」


 変でもそれを突き通すバイタリティがあるからこそ会長はうちの学校の会長ができているんだ。普通に考えたらイベントを多く仕切ってるのに平気でこなしてるなんてあの人もまた異常だ。


 しかも数多くあるイベントの中で一番力を入れてるのがカップルコンテストで、動機がただうちの生徒がデートしてるのを見たいってだけ。


 恋のキューピッドになりたいという軽すぎる動機でここまで本気になれるのはとてもじゃないけど一般人とは思えない。 


 主人公でも脇役でもなく物語だとキーパーソンの一人って感じだろうな。


「改めて噛み締めてもしょうもないな。デートしてるとこを見て自分の功績として浸りたいってことだろ……ん? デート?」


 自分で言った言葉にまた引っかかる


 あれ? また閃いた? 一回自分で言ったことにまた何か自分で閃いた。


「あのさ、おまえってさ、デートとかしたことある? 彼氏とかと」

「え? 何急に? あたし自慢じゃないけどデートどころか男の子と話したこともないよ」

  胸を張ってえっへんと言わんばかりに幽霊はそう言う。

 おーおー自慢げだこと……って


「えっ!? てか男と話したことないのになんで俺とは話せんだよ」


 意外だった。見た目に関してはこいつは正直悪いことは一切ない。背丈は普通の女子くらいで黒髪ショートをたなびかせ、スタイルも細身で顔もしゅっとしてて可愛かったから。


「死んでいろいろ吹っ切れてどうでもよくなっちゃったんだよねー。前は男の子どころか人と話すのに緊張してたくらい」


「信じられないな」

「まぁ中学までほとんど勉強ばっかしてたし」


「あぁ、ガリ勉だったのか」

「ガリ勉言うな。というか五年も話してないと吹っ切れるよ。 それにあの時は自殺止めるのに必死だったし」


 幽霊は俺に人差し指を突きつける軽く睨みつける。ガリ勉コンプなんだろう?


「いやいや、でもかわ……のに」


 言葉に詰まる。

 幽霊といえど女の子を直接的な言葉で褒めることには慣れてない。


 漫画ではイケメンがよく口にしてるのにこんなに難しいとは思わなんだ。


「へへへ、褒めようとしてる? 嬉しいなぁ〜」


 彼女はこちらの意図を読んだようにニヒヒと笑う


「あたしさー生きてる時は青春とは無縁だって言ったじゃん? あたし本当に暗くてさー、イメチェンしようと思って長かった前髪とかも全部切って高校デビューっていうの? しようと思ってたんだよねー」


 男にも話しかけられないほど暗かったのか、

 少し信じられない。俺とは話してるのに、名前が女みたいだからか??


「それが浮かれすぎでチャリごとかよ」

「ぐ、ま、まぁそれは置いといて、デートがどうしたの?」


「いや、学生っぽいことやってないならさ。デートでもどうかなって、いやデートって名目じゃなくても二人でどっか遊びに行くかなと思ったんだけど」


 そうだ。会長も言ってたじゃないか、デートは青春の一ページって


「行く! デートって名目で!」


 すると彼女はかなり大きい声で食い気味に入ってくる。


 事故にあった帰りだからか知らんが、彼女の声は耳がキンキンするくらいテンションと声のトーンが上がって聞こえる


「あ、あぁそうかい、じゃあ明日ちょうど土曜だし、行くか?」

「うん! うわぁあたしそんなの初めてだよ! 今日はいい日だね! 好きって言われたしデートできる! 楽しみにしてる! エスコートしてね!」


「お、おう」

「じゃあさ、じゃあさ、待ち合わせ決めなきゃだよねー」


 こいつは俺から遠くには行けないから待ち合わせもないと思うんだが、言うなれば当日起きたらそこはもう待ち合わせ場所になるわけで


「九時に公園前にしよう! いい? 遅れちゃダメだよ?」


 そんなことを全く気にしない様子の彼女はガンガンに予定を組む


「もうわーったよ。九時に公園前な」

「うん!」


 俺から言い出して申し訳ないが、この幽霊のテンションがまるで子供の駄々みたいで少しめんどくさくなってきた。


 ただそれに対して幽霊はその帰り、いつも見せているよりも明るい笑顔で彼女はウキウキと歩みを進めていた。


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