カプコン、出る気ない?

 今日一日はいろいろあった。いや今日一日いろいろあった。


 明とは話をしていない。ついに遅く来た厨二病かなんかかと思われ俺は家族会議にかけられなんの罪かはわからないが裁かれるんじゃないかという不安とも戦っていた。


 今からでも枕に顔を埋めてバタバタしたいくらい恥ずかしい


「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」


 自分の部屋で枕に顔を埋める寸前で幽霊は話しかけてくる


「なんだ、ねえどんな気持ちとかは答えられないぞ恥ずかしいからな」

「君たちがお昼に話してたカプコンって何? ゲーム?」


「え? まぁ、ゲームっちゃゲームなのかもっていうか」


 ピンッピポポポパポパン

 会話の途中でスマホの無料通話アプリ特有の電話着信が鳴る。会長からだ。

 何か嫌な予感がよぎっているせいか心臓の鼓動が早くなる?


「は、はい。比山ですけど」


 出ないという意志より出なければという義務感の方が強かった。


「やっほー元気? あたしよあたし」

「わかってますよ。なんですか、急に電話なんてよこして」


 電話越しからでも会長のバイタリティは伝わってきて嫌な予感がする


「いやー今日の生徒会でとりあえず決まったというか決めたことなんだけど、カプコンのエントリーが明日から始まるのね」


「あぁはい、そうなんですか。でも俺は」

「そこでもう会長権限で、光くんエントリーしちゃった」


「は?」


 おいおいなんの冗談だい、そんなこと俺は聞いてもないよ。聞いてないのにエントリーとは一体どういうことになってるんだい。


 海外のTVショッピングのような陽気な口調でそんな言葉を頭で再生する。


「いや、やらないって言いましたよね!」

「いやだって今日の光くんみたら応援したくなっちゃったんだもん」


 まぁ諦めんなよ! って言いたくなる気持ちはわからないでもない。


 恋愛で諦めの気持ちを見せたらどっかのテニスプレイヤーじゃなくても諦めんなよって言葉は出てくるしかけると思う。


「カプコン? 出るの? やったーおめでとう! 頑張ってね!」


 電話に耳をあてて会話を聞いていた幽霊がすごい喜んではしゃいでいる。


「ん? 誰かいるの?」


 聞こえちゃってるじゃねえか。なにも知らずに大きな声を出して……?

 すると幽霊は会話を聞きたくなったのか、スマホに耳を近づけた。

 幽霊の色白の肌と死人のよう澄んだ黒い瞳が近い。


「……っ! ちょっ!」


 あまりに幽霊の顔が近過ぎて俺は思わず顔を話してスマホのマイクの周りを手で覆いこそこそと電話を続ける。


「いや、あの、ビデオですよ。あと出ませんから」

「うーんやっぱそうくるかぁ」


「いやそうくるかぁじゃなくて、出ませんって元々言ってますよね」


 そうだ俺は出ないぞ。そんな平穏を脅かすイベントなんぞに


「えー出ないの? 出ようよーねーねー」


 そう口うるさく幽霊は騒ぎ出す


「出ようよー勿体無いじゃんさーこんな面白そうなこと出ないと損だよー」

「ちょっと待ってろって、それどころじゃ無いんだから」


 スマホのマイクの部分を抑えて強く言う


「嫌だよ。出るまで騒ぐもん。あたしそれ見たいし」

「はぁっ!?」


「ちょっとちょっと聞こえてる? お願いだから出てくんないかなー?」

「ほら出ようよー出よう出よう出よう出よう出よう出よう!!!」


 スマホから聞こえる会長の声と隣で駄々っ子のように騒ぎ立てる幽霊に板場ばさみにされ俺はもうどうしたらいいんだかがわからなくなった。


 マンガで言うなら目がぐるぐるになってる状態に近い


「あーーうるさいなぁ! わかった出ますよ! 出ればいいんだろ!!」

「お、やりぃ! じゃあ荒戸くんにも伝えるし手続きもしておくね! やっぱ物分かりいいなぁ少年! それじゃあねー」


 ぷつっとそう言い残し会長から通話は切られてしまった。

 俺は言質を取られてしまったのかもしれない。


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