お前を成仏させてやる(意訳:お前を○してやる)
その日は割と散々だった。
現国の畑のかつらをずっと指差して笑ったり、勝手に校庭散策したり、新歓の準備で班が一緒になって喜んでいるところに青葉や陸奥にちょっかいだそうとしたり 現国の畑のずらを指差したり……
「なんでお前はそんなめちゃくちゃするんだ!」
一緒に帰ろうと誘ってきた荒戸を断って一人、いや幽霊ともいるから二人で裏道の通学路を通り、幽霊を問い詰める。
荒戸に関してはどっちにしろ会長に誘拐されていたからいいんだが
「いやーだってさー高校初めてなんだもん! テンション上がっちゃってさ」
「……お前高校行ってなかったのか?」
「うん。君の学校の近くの白咲学園に入学するだったんだけど入学式終わってさ、テンション上がって自転車こいでたら電車きてるの気づかなくて……」
えへへ〜とポリポリ頭を掻いて照れるそぶりを見せるがすごい間抜けな理由だった。事故の原因についてはイマイチよくわかってなくて自殺とも他殺とも言えなく事故扱いだったらしいが、ただの不注意だったとは思わなかった。
ただそんな間抜けな理由で死んだしまったのに妙に明るいせいか俺の心にその子のことを憂う気持ちがすこし湧いてきた。
「……ま、まぁそういうことならしゃあない……かもな」
というかよく考えたらこの子は死んでるんだよな。
この明るさに忘れそうになるけど決してそれは軽んじていい部分ではない。
自転車の二人乗りを警察に注意されたわ〜みたいなノリで受け止めていいものではないんだよな。
「でしょ? でも高校って面白いね、中学と違って大きいし何より自由!」
それを受け止めきって昇華してることは素直に尊敬する。
伝えたらウザそうだから直接は言わないし、そういう線引きもなしだ。
「まぁそりゃよかったよ……んで思ったんだけどさ、普通幽霊って未練があるもんだろ? 地縛霊とかはその土地から離れたくないっていう思念の集合体だったりするっていうし、幽霊といえば未練みたいなとこがあるけどお前のは、よくわかんないな」
この幽霊には手っ取り早く成仏していただけた方が俺のためにもこいつのためになる。
とかなんとかどっかの主人公が言ってそうな言葉を頭に思い浮かべるがそこまでは口にしない。モブだし俺
「いやいや、高校生活でしょ。夢の学園生活って楽しそう!」
「お前にもわかんねえの?」
確証はない、こいつも認識が曖昧なのだからなんともいえない
正直曖昧なのは存在だけにしてほしい
「わかんないけど、恋愛とか青春とかあたしは無縁のままだからそれでしょ」
「じゃあ青春っぽいことをすればお前も成仏できるのか?」
「いやそれは言い切れないけど」
曖昧すぎる。
存在感も認識もどっちもが曖昧で俺はだんだんそう返すこいつがちょっと前からめんどくさくなってきた。
「じゃあなんなんだよ。お前は成仏したくないの?」
「まぁそりゃ成仏はした方がいいでしょ。現世に長くいすぎた霊は悪霊になるっていうし」
「なんでそんな他人事なんだよ。幽霊ならなんかあんだろ」
「だって幽霊になったの初めてだしそれにあんまり人と話さないし幽霊になってから人と話したのも昨日が初めてなんだよ? わかるわけなくない?」
二十歳のくせしてこの屁理屈。
「……あーーーーもうっ! わかんないわかんないってなんでお前のことなのに受け身なんだよ! もういいわ!」
なんか反抗期の娘を相手にしてるみたいだ。ああ言えばこう言う。俺に娘ができるかは知らないけど
「あ、投げ出した」
「違う! お前を成仏させる。いやお前が成仏できるよう協力する。夢の学園生活でも希望あふれるスクールライフでもなんでもいいけど、お前が成仏できるように付き合ってやる」
俺は指差しそう幽霊に告げると幽霊を透けて見たその先に、なぜか俺の人差し指の先で明がどん引いた顔でこちらを向いていた。
「え……は……?」
「……あ、あはは……すいませんでしたあああああああああ」
一目散で全速力で逃げ出した。
やばいやばい痛いやつじゃん俺。最初にこの幽霊にあったときと同じようなことを明も思ってるだろう。
全速力で走って疲れ膝に手をつき、近所のスーパーの自動ドアから漏れる涼しい空気を浴びながら息を整えていたら幽霊が俺の前に立ち
「そんなにあたしとが嫌なわけ? まぁ不思議と悪くない気分だからいいけど。そいじゃ! よろしくね〜」
すこし笑みを浮かべて俺の額を人差し指で軽く小突く。
存在が曖昧なのに小突かれた感覚はしっかりある。
『協力してやる』『付き合ってやる』『お前を◯◯させてやる』まるでどこぞの恋愛ものの漫画の主人公やなんか言いそうな言葉を俺の口から無理やり引っ張り出した。
まぁ『お前を成仏させてやる』は幽霊的な意味合いだと『お前を◯してやる』に近いんだろうがダークヒーローとかなら言うだろう。
イタコのアニメくらいなら俺も主人公できるんじゃないだろうか
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