体育館 裏口
「ふぅここならいいだろ。普通にしていいぞ」
体育館裏に弁当を持っていき裏口のちょうど上靴を履き替えるところに座る。俺が高校に上がって最初に見つけたベストプレイス。
人も来ないから静かで俺はモブという存在を超えて一つの背景になれる気がして結構お気に入りの場所だ。?
「は〜ぁつかれた。息を殺すってしんどいねー息はもうしてないけど」
「そういうブラックジョークハマってんの?」
「披露したことないからね! 思いつくのさ!」
こちらにVサインを突きつけて彼女は満面のドヤ顔を見せつける
「はぁ……それで? お前青葉のとこでなにしてた」
「う〜んなんとなくだけど、君の好きな人をチェックかな」
鋭い、まぁ陸奥とあんな話してたらそうなるわな
「はぁ、まぁそうだよ。だから昨日自殺しようとしたわけ」
ニヤついた顔でこちらを見てくる。
「ふっふっふーそうかーあの子のことが好きなんだね〜」
押し殺してるようで口角が両方つり上がってる。完全にいじる気満々の悪い表情だった。
「うるさいな、いいんだよ。もう関係も元に戻ったし、どうしようとも思わないし」
「え? 付き合いたいとかないの?」
今度は一転してキョトンとする。まぁ普通はそうなるだろうな。
好きなら告白して付き合ってみたいなそんな流れになるけど、あんな反応をされて脈なしってわかったらもうどうしようとも思えない。
結局俺は一介のモブでありその辺に落ちてる石ころとなんら変わりないものだとあの日改めて実感させられたからだ。
「ねぇよ。俺みたいな舞台装置に過ぎない地味な脇役にはそんな幸せも許されないみたいだからな」
「へーーーめんどくさい性格だね」
彼女は腕組みそう言う
「まぁそんなことはさておき、お前をここに連れてきたのは意味がある。その意味とはまず俺は昨日からお前のことが全くわからない」
そうだ、こいつは幽霊というところまではいいが生前どんなやつだったのか、まずだれだったのかを聞き出さねばならない
「あーそういうことね、でもなんでこんなとこで弁当食べながら?」
「あんな教室で幽霊相手にインタビューしながら飯が食えるか、はたから見たら独り言でやばいこと言ってるやつだぞ」
「あーなるほど」
幽霊は隣にそうやって腰かける
「そいで? 何を聞きたいの?」
「名前、職業、年齢etcだな」
まるで職務質問のようなことを聞く
「名前はなんども言ってるじゃん! 岩清水怜(いわしみずれい)、職業……は幽霊? 享年は十五歳だけど五年前だから今は二十歳かな」
「幽霊で二十歳ね……って! 年上じゃないか!」?
「そうだよ! だから君はあたしを敬うべき」
俺にそう指をさす。
「なんで二十歳でこんな子供みたいな……」
「精神的には死んじゃったときのまんまだしね〜十五歳だけど実質二十歳!」
死者は時間が止まるのか、死後硬直で筋肉も固まる時にきっとそいつの中での時間も一緒に止まったままなんだろうか。
「あれ、光お前なにやってんの」
そんな感じで話していると、なにか木の板のようなものを持った荒戸が会長に連れられてきた。朝のお礼の雑用の一つだろう。そんなことを思ってるうちに会長もやってきた。
「お、光くんじゃない! やっほー元気? 昨日はごめんね? まぁ仲直りできたみたいでよかったね」
そんな風に会長が話しかけてくるとスッと光は俺の陰に隠れた。まるで出来る大人の女性みたいに
「なんで会長がそれを知ってるんです?」
「生徒会長たるもの学校の生徒の交友関係くらいはね〜」
「いや、さっきこの板と塗料を運んでたら青葉が一緒に話してるの見えたし」
あー見てたのか。まぁ別にこれで会長から罪悪感みたいなのが消えたならよかったのかもとか思ってた
「それでさ、カプコン、出る?」
申し訳程度の謝罪からインド人もびっくりな切り返しの一言飛び出してきた。まさかあんなことをしておいて驚きの胆力だ。
「あの……出ると思います?」
出る出ない以前に勘違いとはいえごめんなさいと言われてるんだが
「あ、やっぱり」
「ほら言ったじゃないですか」
荒戸も呆れ顔で会長を嗜める。ただ会長は全くと言っていいほど効いても懲りてもいないようだった。
ワンチャン踏切にはじめの一歩案件だというのに
「はぁ、会長……まじで言ってるんですか……」
「いやぁあの……ほら! 関係を元に戻す勢いで一歩踏み出したり……」
「出すわけないでしょ。いくら会長のお願いでもそれは無理です。全く、凹んでると思ったら……」
「凹むわけないだろ会長が」
隣でケタケタ笑いながら荒戸が俺に言ってくる。
「失敬な、あたしだって凹むことくらいはある。それで本当に出れない?」
「はい出ませんよ。いくら会長のお願いといえども」
「いやでも……好きなんでしょ?」
「どうかしようとも思ってないですよ。好きって思ってるだけで十分です」
そうだ主体的になってはいけない。学んだんだ。
するとしても受動的に主体的に……俺は地味で舞台装置に過ぎないのから。
「うーん……まぁ考えておこう」
ぼそりといいながら会長は荒戸と共に裏の用具置き場に二人で歩いていった。
考えておこうの前に俺は拒否ってるんですが、ただそれは聞いてないことにされてるっぽい
そうやってこちらの意図を聞かずにまたねと言い残す会長を見送り俺は弁当に舌鼓を打った。
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