第2話 まずはアズキっぽいやつを探そう。

 

 

 この世界では出どころ不明なヨソ者なもんで、特定の場所に留まってどうこうするって発想はこれっぽっちも湧かなかった。


 だから街にいる時は安宿だし、何かをしようと思い立ったら即行動。ケーヤンだけ連れてサッと出発できちゃう。準備要らずは超便利なんである。


 出入りの時に手続きがラクになるからって理由で、経歴不問で発行してもらえる冒険者カードは持ってますよ。でも最低クラスならたま~に依頼をこなしてればカードが有効なまんまだし、特に冒険者で稼いでる自覚なんてありゃしません。死ぬのはヤだし。


 とは言いつつ自分の身は自分で守れないとマトモに生きられない世界なのは確か。そこはケーヤン頼みでなんとかしております。


 じゃあ本業は何なんだろうね? 自分でも分からん。あえて言うなら自由流通業かな?


 その場で出来ることをやって日銭を稼ぎ、街で必要なものを仕入れてケーヤンにストック。いくつかの国を巡って溜め込んだモノから、その場所で貴重だったり珍重されてるブツを流してひと儲け。


 大量に売ることもザラにある。でも商業ギルドには入らない。商売は信用だから、カードを作るのにある程度の確かな身分やら誰かの後ろ盾がいるんだよね。成り上がるにもまずはってのは、どこでも同じなんだわ。


 じゃあどうすんのか。基本テキトーに鍛冶屋・武器屋・防具屋・アイテム屋みたいな店や商人個人に直で持ち込む。最悪素材として冒険者ギルドでさばいてもよし。あんまりやると目をつけられるんで、ある程度やったらそこからはオサラバだ。


 慣れてない頃は色々ヤバかったなぁ。足元見られて買い叩かれるのは甘い方。女だからって根こそぎ奪おうとしてきたり、うっかり長居し過ぎて貴族やら領主が抱え込もうとしてきたり。変わり種だと自称お忍びの第王子とやらがめかけにしたいんだかで薬盛って連れ去ろうとしたからね。


 あれはウザかった~。逆に王子の関係者全員とっ捕まえて、ガッツリ偽記憶を植え付けてやりましたよ。今頃見つかりゃしない絶世の美女とやらを必死こいて探してんじゃない? 知らんけど。


 来るなら継承争いしてない第二王子か現職の王が来やがれってんだ。……本当に来たら全力回避一択ですよ? だって正室がどうのとかメンドくさいじゃんよ。


 誰かガツンとぶん殴られるみたいに夢中になれる男でもいたら、どっかに収まったりすんのかね? よっぽど見捨てられない状況でも起こらなきゃ、んなコトありえねーと鼻で笑ってやるさ。今はね。


 アズキさがしはそれなりに難儀したって言っておこうか。とりあえず豆類が主食だったり大量に栽培されてる地域を中心に買い漁ったり聞き回ったりして、試作試作の嵐ですよ。


 半年もすると界隈でいろんな豆をそこそこの高値で買い取ってくれる謎の豆商人がいるらしいって噂が流れて多少探しやすくはなったけど、誰がマンドラゴラみたいな見た目の豆が欲しいっつったよ? 変わり種だったらなんでも買うと思うなよ! いや買ったけどさ。


 意外や意外、見た目が不気味だからって避けられていたそいつらはバイオプラスチックの原料に最適なのを発見しちゃったんだなこれが。手間もかからず無駄に大きく育って大量に採れるといい事ずくめ。


 腕はあるのに色んなしがらみで腐ってた錬金術師を捕まえて、これまたガッチガチの利権構造に叩き出されて干されてた使えそうな女商人を引き合わせ、デザイン豊富で安くて埋めたら簡単に処理できる容器ビジネスをブチ上げたりましたぜ。深く関わると面倒だから、多少の応用までを教えたらじゃあねとトンズラしておきましたが。


 風のウワサではその錬金術師と女商人がいい感じになって結婚したとかなんとか。お幸せなのは良いこっちゃ。言い出しっぺとしては末永く事業を盛り上げてくださいなとしか思うところはございません。お子が生まれたらちょっと見たいかも。カワイイもんは全力で愛でるべし。


 思わぬ副産物を生み出しながらアズキ探しは続行。インゲンっぽいのを発見して白あんは生み出せたけど、コレジャナイんだな。お上品過ぎるんだわ自分にはさ。


 これも手に入りやすい甘味を使ったアレンジにして、その豆の生産地に製法と使用例をバラ撒いときました。定着すれば儲けもん、そうじゃなきゃこの世界には合わなかったという事で。別に個人で楽しみたいだけだし、それでいいのだ!


 そうこうしてるうちに粗方探し終えちゃって、流石に無いんかしらと成分レベルでの味の合成再現という禁断の領域に手を出してやろうかと思い始めた矢先。ついにそれらしい吉報が舞い込んで来やがったのさ。


 しかしまぁ、そりゃ見つかんないワケだわ。だってねぇ……。


『こりゃすんげーな、あるじ! こんだけありゃあ食いホーダイじゃんけぇ!』


 うん。まあそうだけどさ。ケーヤンが言ってんのは、じゃなくてだよね?


『んえ? デッカくてうまそうだけんど、じゃねぇんけ?』



 \\\ ンゲェーッ! ンゲェーッ! ンゲェーッ! ///

 \\\ ンゲェーッ! ンゲェーッ! ンゲェーッ! ///

 \\\ ンゲェーッ! ンゲェーッ! ンゲェーッ! ///

 \\\ ンゲェーッ! ンゲェーッ! ンゲェーッ! ///

 \\\ ンゲェーッ! ンゲェーッ! ンゲェーッ! ///



 違う! 全くもって違う!! こんな毒々しい色したバカデカクソガエルなわきゃーねぇっ!!!


 (ねぇっ!!! ねぇっ!! ねぇっ! ねぇっ、ねぇっ……)

 

 

 

 

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