アズキ探訪記。~異世界であんこが食べたくなってしまった女子の話~
新佐名ハローズ
第1話 ケーヤンは神(のようなもん)。
あ~、あんこ食べたいな。それも直で。
なんで今の今まで忘れてたのか。まぁ環境が違い過ぎるからしゃーないんだろうけどさ。
そうと決まれば、まずはソレっぽい豆探しからか。無ければ最悪イモでも栗でもカボチャっぽいのでも可。
ちなみに煮ただけのアズキは食べると独特の苦味や渋みを含んだクセがある。それが甘さを加えたときに良い風味に化けるんだけども、ソレを知らなきゃただのマズい豆。だから、もしあったとしても進んで栽培されてないか、野生種のままどこかにひっそりと生えているだけになってるかもしんない。
こっちではテンプレよろしく甘味はやや贅沢品。主に使われるのは、アマイノっていう甘い汁が取れる植物を搾って濾して煮詰めて精製したメチャ・アマヤだ。これ、昔々に偉い龍族の誰かさんが叫んだ言葉がそのまま名前になっちゃったらしい。ぶっちゃけサトウキビもどきだわな。
後は花の蜜とか樹液とか、でっかいトウモロコシの粒がヤシの木みたいなやつにヤシの実みたいに生えてるのを毟って、なんやかんやして作ったり。それぞれハチミツ、メープルシロップ、コーンシロップみたいなもんと思ってくださいな。
『どーしたん、
ふぁさふぁさと白いウサ毛のカタマリみたいなのが空中で揺れている。こいつはケーヤン。白い毛玉が訛った言葉で喋るからケーヤン。
正体不明っちゃ不明。多分ケサランパサランの類じゃないかと。出会った頃はちょうどお手玉ぐらいの手のひらサイズで、お~フシギ生物じゃんと捕まえようとしたらバチッと電撃を喰らわされて、こっちが手を押さえてめちゃんこ痛がってる所へ
『何すんだ! 獲って食おうったってそうはいかねーかんよ!』
とプリプリ怒っていらっしゃる。そりゃもんげーたまげたっての。オマエ喋るんかいと。あと食いでが無いからそんなん思わんって。
『んなこったねーぞ? デッケぇ奴んなったら、山みたいなんもいるかんな!』
ふんぞり返って言うなし。育ったら喰ってくれって自分から売り込んでるん、気付いてます?
『……おわー! ま、マジけー!?』
ビュンビュンUFOみたいに飛び回って慌ててんのが滑稽で、あん時は腹抱えて笑ったのなんの。
で、そうこうしてるうちに懐いちゃって今に至ると。主って呼ばれてんのは、どうやら人や動物、魔物みたいな生きてる奴らの魔力を吸い取ったほうが自然に漂ってるのを取り込むよりも効率が良いらしくて、その味がすこぶる良くて気に入ったから契約してくんろ! と。
それ契約した途端に寄生されて乗っ取られん? とも思ったけど、ケーヤンが言うには『んな事やったらお天道様から天罰食らって消えちまう!』とかで。なんじゃそれ。
この世界って神様いんのか? と会ったこともない存在に疑問を呈しつつサクッと契約。いわゆる魔法陣的なやつがグルグル回ってピカ~っとしたら紙鉄砲みたいなスパァンッ! って派手な音がして契約完了。ケーヤンが破裂したらそんな音しそうだなと妄想したのは、本人にはナイショだぜ?
契約したら名前を付けろって言うもんだから、テキトーにケーヤンと命名。すると今度はケーヤンがブワッとバスケットボールぐらいの大きさになって、一気に魔力を吸われた反動でこっちがぶっ倒れるというね。先に言ってちょーだいよ、そういうのは。
命名するとその名前を元に魔力の直結ルートが構築されて、死なない程度に吸えるのはここまでじゃぞ~と神様がケーヤンに教えるまでが契約のセットだったらしく、それ以上の量を吸おうとしたら天罰が下って問答無用でケーヤンは爆散→消滅→魔力還元の三連コンボでフィニッシュだそうな。現実は妄想よりもエグかった。
こっちの魔力量が増えたら定期的に査定があって契約更新、ケーヤンはもっと進化できるしこっちにもメリットがあるだのなんだの。
なんか細かい字でビッシリ書いてある契約書兼解説書が頭ん中にインプットされちゃって。怪しい訪問販売みたいだから、もうちょっと読みやすくならんかったかね、あれは。
ともかくあれから3年とちょっと。この世界にもようやく慣れてきたし、ケーヤンはただの浮いてる毛玉から頼れる相棒に大化けしまくりまして。
拡大縮小自由自在、便利な収納にも、攻撃の要にも鉄壁の守りにもなるし、暑けりゃエアコン、寒い時にはもこもこの防寒着、はたまた翼になって空を飛んだり、休みたければ結界完備の快適な家にもなる。
もう便利過ぎてケーヤンの居ない生活なんて、カツカレー抜きのライスだけみたいなモンだよね。とりあえずゴマ塩振ったら食えなかないけどさ、そんぐらい味気なくなっちゃう。……えぇと、何聞かれたんだっけ?
『んだから、何かオモロイもんでも見っけたんけ? ってよ』
ああ、
『ほえー。そりゃ食えんのけ?』
そうそう。ここじゃない遠いトコにアズキって豆があってね……。
ハイ決定。あんこのために、アズキ探しだ。
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