10話 合流
僕が真治と通話した翌日のこと。僕たちは再び、国蒔駅のロータリーに集合していた。
「いやぁ~、それにしても風ちゃんはホント可愛くなったような~。彼氏とか居ないの?」
「ええっと、そういうのは……」
「えー! 可愛いのに勿体無い! それじゃあ、今度遊び行こうよ。ほら、学校の女の子の友達とか誘ってもいいしさ」
「高校あんまり行けてないので、友達とかもちょっと……」
合流するなり健太が風ちゃんに絡み始めて、僕は居心地の悪さを感じつつ、迎えを待っていた。ただでさえ軽薄そうな格好だというのに、鼻の下を伸ばして風ちゃんに迫る様は、なかなかに堪えるものがある。
「でも驚いたよ。健太がこんなに早く帰って来るなんてさ」
いくら幼馴染同士とはいえ、明らかに風ちゃんが嫌がっている。何とか彼女から引き剥がさなければと、僕は声をかける。
「自由な人間の特権だぜ。お前らが面白そうなことやってるから、一日も早く帰ってきてやったんだ」
「健太が面白がりそうなネタじゃなくない? 郷土資料館とか、ぶっちゃけ興味ないでしょ?」
「大切なのは何をやるかじゃなくて、誰とやるのが面白そうか、だよ。ほら、俺ってバンドやってるだろ? 何かと理由を付けて集まって、皆で何かやるのが好きなんだよ」
「……柄にもなく良いこと言いやがって。風ちゃんの前だからってカッコつけんな!」
僕は健太の背中を叩く。
「おいおい、本人の前でソレを言われちゃ、俺の立つ瀬がないぞ!」
「でも、その考え方は良いですね。私はいつも誰かと一緒は息が詰まりますが、こうして皆と出掛けるのはいいなって思います!」
「風ちゃんさぁ……あんまりコイツが調子に乗ること言うなよ」
風ちゃんの警戒心の無さには少し不安を覚える。優子が風ちゃんを庇護したくなる気持ちが、今ならよく理解できた。
そんな話をしていると、一台のワゴン車が僕らの前に停車する。そして、助手席から優子が顔を覗かせて手招きした。
「お待たせー。ほら、乗って乗って!」
招きに応じて僕らは乗り込む。僕はさり気なく風ちゃんを後ろの席に誘導し、中列には僕と健太が座った。
「よし、みんな乗ったな? 出すぞ」
「よろしくねー」
運転席の太一がアクセル踏み込み、車は動き始める。
以前であれば、車の中という環境は必ず誰かしらの親が介在する環境であった。しかし、家弓夫妻が車を購入した今、そこは僕ら子供だけの世界にもなりえるのだ。
いや、もう僕らは子供ではない。少なくとも、働いて自立している優子と太一は。
「いやぁ、健太が早めに帰って来てくれて助かったぜ。お盆の時期だと、陰祭の準備と被るからなぁ」
「おう。どうせ向こう居ても、退屈なバイトばっかだしな。ところで、ちょいちょい聞いてたけど陰祭って何なのさ?」
「ああ、それはねぇ……」
優子が以前語った陰祭の概要を要点だけ伝える。しかし、健太には退屈な話だったらしく、五分もしないうちに寝息を立て始めてしまった。
「……優子、もういいよ。健太寝ちゃった」
「何よもう……本当に健太って子供よね」
「まぁまぁ……きっと疲れてたんですよ」
風ちゃんがフォローを入れるが、あながちその指摘は間違いではないかもしれない。というのも、テスト終わりに教えてもらった健太の動画サイトのチャンネルで、昨日の夜に新しい曲がアップロードされていたのだ。きっと帰りには皆に視聴するように促すだろうと辟易しつつ、その反面では彼の努力には感心してしまう。
「そういえば、英司君は真治と連絡着いたんだっけ?」
「ああ。ハラサシについて知ってるか聞いたら、すぐに向こうから折り返しで電話が来たよ」
「へぇ、珍しいわね」
「やっぱりハラサシって、真治のご先祖様の事だったらしいよ。領主みたいな立ち位置だった指原家が、口減らしに子供を殺してた事に不満を抱いて、皆が陰で妖怪扱いしてたってさ。それで聞きたいんだけど……」
僕は後ろの座席を向いて、羽廣家の娘である風ちゃんに尋ねる。
「羽廣家ってハラサシを退治する家だったんでしょ? どういう事か分かったりするかな? 真治は三家同士でも対立があったんじゃないかって。それか三家が国蒔を統治するためのマッチポンプかもしれないって言ってけど……」
「それが……私がお父さんに聞いた話には、ハラサシと指原家の関係は全然出てくなくって……羽廣家の中ではハラサシは山からやって来る妖怪という事になっていました」
風ちゃんは困ったように顔をしかめて言う。しかし、その言葉をそのまま真実だと受け取る事はできない。風ちゃんのお父さんは、指原家に配慮して娘にその事を伏せている可能性がある。いや、そもそも羽廣家では指原家との関係を過去の事として、歴史から葬っていることも考えられる。
「そっか……それで、家弓家には何かハラサシについての情報は無かったの?」
「え~……知らないわよ。たぶんお爺ちゃんなら詳しいかもだけど、話聞いてないし」
「おいおい、お前も調べるって言ってたのにサボってたのかよ?」
太一が助手席に向けて毒づく。
「私が調べるって言ったのは、ネットで検索ぐらいはするって話でしょう? 検索したけど、関係なさそうなページしかヒットしませんでした。はい、私の話は終わり!」
悪びれる様子の無い優子に呆れつつ、太一の運転する車は国蒔の郊外へ向けて走り続けていった。
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