第3話 放課後デート

柚木の学校復帰を協力することあすると決めて協定を結んだ翌日のこと。


俺は、唯依と一緒に学校に登校しようと隣の二〇八号室を訪れていた。いよいよ唯依は、引きこもりから更生する為の初めの一歩を踏み出そうとしていた。一日よく考えて。昨日の夜「明日、学校に行くから、朝迎えに来て」とMAINE《マイン》にメッセージを貰っていて朝、家を出て、唯依の家に迎えに来ていた。


インターホンを押して柚木から中に入れてもらう。

「お待たせ、柚木。準備は出来ているか?」

「あ、藤也くんおはよう」「おう、おはよう。歯は、磨いたか?ハンカチとティッシュは持ったか?ってもしかして今起きたとこか?」

「そ。藤也くんを出迎えないとと思ってさっき起きたとこ。普段ならまだ寝ているとこだけど

今日から学校なんだよね。イヤになる...」

「ス、スマン。つい......」

今まで引きこもっていた者がいきなり学校に行くものだから、心配になってつい、色々とお節介を掛けてしまう。


「それじゃあ、行くか!」「うん、お手柔らかに」学校への通学は徒歩通学で学校へ向かう途中、学校に近づくに連れて、学生が増えてきて、俺の隣を歩く、唯依に目を奪われる男子生徒も多々いた。「なに、あの子、スゴく可愛いくない?うちの学校の生徒だよね!」


「お、俺、話し掛けてみようかな」「

てゆーか、隣を歩いてる冴えない男は誰だよ!クッソ羨ましいな」

「うん、その場所、代われって感じ」

と周囲から。ねたそねみが聞こえてくる。俺ってそんなに良いポジションにいるのか。なんだか良い気分だ。


「なあ、柚木、お前って意外と人気なんだな!っておい、どうした?」

柚木は身体をプルプルと振るわせて、注目を集められるのに慣れていないようだった。「柚木、お前まさか......」「あ、ああ...もう、ダメ......」

それは、知らない人からの視線に、拒絶反応を示しているようでとても辛そうだった。

 「柚木、お前もしかして人混みが苦手なのか?」俺が心配していると柚木は、

「大丈夫だよ」

と平気な顔で強がる。

「大丈夫だ、俺が付いているからな。安心して、隣を歩いてくれ」と柚木「に言葉をおくる。陽キャだと思っていた柚木の正体は実は陰キャ気質の女の子だった。

つまりはいつもの陽キャは自分を守るための鎧で本当の自分はか弱い女の子だった。


俺は、庇護ひご欲を駆り立てられて彼女を守ってあげたくなる。


「ありがとう、藤也くん。大丈夫だから。さあ、いこう」唯依は震える足で一歩を踏み出すのだった。そうして、辿り着いた2-Bの教室の前。そこで、あと扉一枚を隔てた廊下で、唯依は立ち止まってしまった。

「よし、行こう藤也くん。でも、その前にわたしに勇気をちょうだい。」

柚木と向かい合う形になり、その手を俺の両の手で優しく包み込む。

柚木は「??」って疑問符を頭の上に浮かべたような顔をしてくる。


「いいか、柚木。俺が信じるお前を信じろ!ここから一歩を踏み出してお前は変わるんだ」それは、俺が人生の中で一度でいいから相手に言ってみたかっ某、熱血バトルアニメのセリフ。「え??なに!」柚木は自分が何を言われているか分からないようで、困惑している。俺は続けて「お前なら大丈夫だから」と優しく語りかける。

 何事も、最初って不安なことも多いだろう。月面着陸を成功させた、ルイ・アームストロングだってあの、偉大な一歩も最初は、不安だったはずだ。柚木だって、不登校からの登校は、さぞかし不安なことだっただろう。


「藤也くん...君って人は......」柚木は落ち着いたのか「うん、わかった。もう大丈夫!行くよ藤也くん」

「おう!」そして唯依はこの世で一番重い扉を開き、新たな一歩を踏み出す。


「やったな、柚木」俺は、ボソッと呟く。この一歩は普通の人から見たらこの一歩は、大したことの無いことかもしれない。だけど、引きこもりの少女にとっては偉大な一歩となったことだろう。


教室内は、ホームルーム前の自由時間を各々のグループに別れて生徒達が談笑していた。

友達と話していた涼風が柚木が教室に入ってきたことに気付いて、「やあ、柚木さん。登校してきたんだね」とよろしくと挨拶を交わす。コイツは涼風すずかぜ爽汰そうた二年からの付き合いでクラスの学級委員長でありながら実は生粋の消費型二次オタで俺とはオタクトークで話の合う奴だ。


の下條も気付いたみたいで柚木の元に掛けよってくる。「よろしくね柚木さん」とこやかに挨拶してくる。コイツも、二年からの新クラスからのクラスメイトで、アニメやラノベに詳しくて色々と話が合って気のいいクラスメイト。ただ、そのオタク知識が腐女子同人マンガ家として発揮されるのが玉にきずだが。


 涼風とはタイプの違う、俺と同じ、創作型のオタクだ。他のクラスメイト達は見知らぬ栗色のロングヘアーを揺らす美少女が教室に入って来たことで「誰だ?その子めっちゃ可愛いじゃん」

「おい!藤也の知り合いかよーいつも、お前ばっかりー」などと柚木の存在に気付いた男子生徒達が騒ぎ出す。「お前ら、静かにしろよなー!柚木が驚くだろー」

「なんだよ、お前の女かよー彼女自慢か-?」などと男子達がブーブー言う。

「そ、そんなんじゃねーよ!」

「はは、照れてやんの」

「柚木さんーこっちで一緒に話そー。馬鹿な男子達は放って置いてさ!」柚木は陽キャグループの女子に連れられて行ってしまった。


「あともう少しでゴールデンウィークだから、ちゃんと学校に慣れていくのは、休み明けからだね」

「いいなー、引きこもり開けからの長期休暇みだなんて、最高だね」

「はは、ありがとう」

「ほらー、皆~席について~」と和やかな呼びかけで担任の咲良先生が教室に入ってきた。

先生は、唯依と立花が言い合っている姿を確認すると、目を細めて、微笑む。

「良かったわ~柚木さんさんとすっかりクラスの皆と仲良しさんみたいねー」と頬に片手を添えて一安心したかのように言う。」


 「みんな~紹介するわね。長らく学校を休んでいた柚木唯依さんです。皆、仲良くしてね~柚木さん自己紹介してね」

「初めまして、柚木唯依です。アニメとマンガが好きです。あと、絵を描くのが得意ですよろしくお願いします」

「じゃあ、柚木さんは藤也くんの隣の席に座って。藤也くんは柚木さんの面倒を見てあげてね」

「はい、任せておいて、咲良ちゃん!」

「コラっ先生を付けなさい!」

いつものやり取りをして唯依の自己紹介を終えるのだった。


休み時間になると、クラスメイト達が、柚木の席の前に集まってきた。転入初日の転校生みたいだ。

「ねえ、柚木さんてなんで、今まで休んでたの?」「好きなアニメは?」などと女子と男子達から質問攻めにあって困り果てていた。

「お前ら、柚木が困っているだろ。少しは発言を自重しろ!」

とクラスメイト達の言動を抑制するのだった。


昼休み。俺は、唯依を誘って食堂に昼食を食べに来た。もう、既に食堂は人でごった返していた。食堂は特待生のA組から、優先的に使用するのが暗黙の了解で決まっていて、B組の俺たちは、やっとこさ空いている席を見つけ場所を確保する。柚木も食券を買い、うどんと交換して貰い、席へと戻ってきた。因みに、俺は味噌ラーメンを頼んだ。ここの味噌ラーメンは簡素な味付けなんだけど、実に俺好みで気に入っていた。俺と柚木が席に着いところで早速、食べ始める。

各々昼食を食べていると、周囲が異様にザワついていることに気が付く。よく聴いてみれば

それはこんなものだった。「うちの学校にあんな美少女いたか?」

「めっちゃ可愛いー」

「てか、一緒に昼食を食べてるあの男は誰だ?クッソ羨ましい。死ねばいいのに!」

「たらし野郎、地獄に落ちろ......」

学校生徒で満ちる食堂の喧噪けんそう野中、やはり、柚木は辛そうにしていた。

「大丈夫か柚木か?やっぱりコミュ障にはこういった場所は辛かったか?」

「ううん。大丈夫、だよ...」

「いや、無理してるだろ。やっぱり教室に戻るか?」

「ごめん...ありがと。そうしてもらえると助かるよ」

柚木を食堂から退避させようと食堂を出ようとしたところ、再び男子生徒のねたそねみが聞こえてくる。俺って、そんなに嫌われてるの?

               ***

そして、放課後。クラスの生徒は、各々が部活動に委員会。または生徒会へと向かう。

 「じゃあ、私たちも一緒に帰ろうか?」

「いや、柚木が俺なんかと一緒でもいいなら構わないというか、大歓迎なんだけど......」

最後の方は、声が小さくなり呟くように言う。これも、陰キャの弊害か。


帰り道はクレープ屋で買い食いして帰った。柚木は苺クレープ。俺はチョコバナナクレープを買い食いした。

「美味しいね」とクレープ二人して横に並んでクレープを食べる。放課後に女の子と買い食いするなんてまるでまるで恋人同士の放課後デートじゃないか!と心臓が跳ねた。いや、実際は恋人同士じゃないんだけど。もし、こんな彼女がいたらさぞ毎日が楽しいんだろうな。ふと、柚木の横顔を見つめていると柚木が俺の視線に気付く。「なに、見ているの?何かイヤらしいこを考えているんじゃ...防犯ブザー鳴らしますよ」と威嚇してくる。訂正しよう。こんな彼女が出来たら心臓がもたない。気が休まらないこと間違いなしだろう。そう肝を冷やすのだった。

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