ロボットなふたり(後編)
朝である。快晴かといえばそれほどではないが、晴れである。
つまりはなんだろう。つまりは晴れていた。
ハカセが尊大に「おはよぉおう!!」と言った。
私はおはようごいますと言った。頭の片隅に田中くんの言っていた大事な話、が引っかかっていたがハカセとハッカ飴が気づけば目の前まで来ていたので考えるのをやめた。ハカセが朝食を作る。あの外見でハカセはシェフ並みの食事が作れるらしい。
「しかぁああも三ツ星シェフじゃ!!!」
三ツ星シェフ並みらしい。
ハッカ飴が鳴いた。ハカセも鳴いた。既に結構な仲良しらしい。
田中君が起きてきた。なんと普通に食事を始めた。
大事な話、いつするんだろうか。
大事な話、いつしますか?と聞いてみた。もちろん田中君に。
「後で。」
後でらしい。それを言うと田中君はハカセの作った朝食を食べ始めた。
ハカセはにやにやしながら田中君を見ている。あんなハカセでも孫は可愛いんだろうか。突然、田中君が赤い液体をぶわっと吹き出した。ハカセは大笑いしている。どうやら田中君がロシアンルーレットのハズレをいつ引くか見ていただけらしい。やっぱりハカセはハカセだった。
夜の間に無くなった分、バッテリーを充電しておくことにした。
活動している限り電力の消費からは逃れられない。ロボットの定めである。
そのとき、取り外したバッテリーのケースがからんと転がった。つまり落とした。
「落としたぞ。」
田中君が気づいて拾ってくれた。ありがとうと言った。やっぱり田中君は親切だ。
バッテリーケースを充電器にセットした。いつも思っているけど、本当にこんなでかい管を充電器に取り付ける必要があったのだろうか。
それはさておき、田中君が私を呼んだ。行きたいところがあるらしい。
何も言わずに手をくいっと。着いてこいということっぽい。
大人しく着いていった。着いていってみればそこは、私が拾われたというごみ捨て場の方角らしい。ぎりぎり視界に映るくらいのところにごみ山の先端が見えている。
あそこに何をしにいくんですか、と聞いた。田中君は答えなかった。
もしかして。
もしかして、捨てられるんじゃないだろうか。
10年間育ててやったんだから後は好きなように生きろって。それは嫌だ。嫌だけど、そう言われてしまったら仕方ない気もする。もしそうなったら、充電器だけは持ってきてもらおう。
田中君はペースを変えずに歩いている。
時折私を確認してはまた歩き出す。歩き方が規則正しいのだ。
私も一生懸命追いつけるよう歩くが、ポンコツロボットの私は歩くのが下手だ。
いつか慣れるよ。最初はハカセも言っていたが、それよりも田中君が私を支えるようになる方が早かった。私が転びそうになると田中君が支える。気づけば田中君は私の支え棒としての役割を定着させていた。その田中君がなぜ今それをやめたんだろう。
これではあっさり転んで壊れてしまう。やっぱりいらないロボットになっちゃったのかなぁ。ちょっと悲しかった。
田中君が後ろを見た。
私はそのとき既にだいぶ距離を離されていた。慌てて田中君が駆け寄ってきた。
「忘れてた、ごめん。」
田中君がごめんと言った。
どういう意味のごめんかは明白だったけど。私はちょっとばかし違う意味に受け取ってしまった。でも、ロボットだから泣かなかった。
私は大丈夫です、と言った。結構強がっていた。田中君はそっかと苦笑いすると。
もう一回「ごめん。」と言った。田中君はやっぱり田中君で安心した。
どういう話になっても別にいいかと思った。
ごみ捨て場に着いた。
ここに私がいたらしい。それだけはずっと前から聞いている。
でも、それ以上の話は聞いたことが無かった。もしかしてそういう話をしてくれるのだろうか。話す内容がどれだけあるかは知らないが。
たかだかロボット一台の話に。
田中君が言った。
「聞きたくないならいつでも言ってもらっていいからね。」
私は、すごく聞きたいです、と言った。
田中君はゆっくりひとつひとつ話し始めた。
とても長い話だったから簡単にまとめようと思う。
昔沢山の文明があった頃、その頃人類は自分をトップと思っていたんだけどホントは違った。人魚がいて、人魚は人類より発達した科学力を持ってた。ただ、人魚は人類より先にクリーンエネルギーを手掛けてたから実際使ってる電力はそうでも無かったらしい。ともかく人魚はいた。
人魚は科学力だけじゃなく身体能力も人類より高かった。
だから人類に勝ち目は無かった。元々人魚っていうのは温厚な種族なんだけど、一匹の人魚が捕まって色々実験されてそれで怒らせちゃった、らしい。それで人魚と人類の戦争が始まった。最初は人類優勢だったらしい。
でも、暫くして人魚が本気を出した。
最初は調子に乗らせるために程々を演出してたらしいって、当時の学者は決定付けた。ともかく人魚が本気で戦争しだした。人類は負けた。
結果的に人類は存続を許されずみんな死んだ。
残ったのはアンドロイド達。彼らは人類が遺したものでかなり高性能だった。
彼らは存続を許された。別に人類と違って害を振りまいてるってほどでは無かったから。だから、残されてる僕らは人類じゃなくてアンドロイドってわけ。
田中君は自分を指さしてそう言った。
なんと田中君はアンドロイドだったらしい。驚きで声が出ない。
田中くんもロボットだったなんて。…じゃあハカセもアンドロイド?
私の様子を見て何か感じ取ったのか田中くんが言った。
「そういうこと。」
そのまま何事も無かったように話を続ける。
アンドロイドはとりあえず生活のようなものを形だけ始めた。
食事に近いエネルギー摂取をし、毎日衛生を保つような活動をして。
本当はそれらに意味は無いんだけど。やり続けていた。
田中君はここでため息を吐く。
「それともうひとつ。ごめんなロボ、今まで騙してたけど君はロボットじゃない。」
それはどういう意味だろうか。私にはちょっとよくわからない。
田中君がある日、散歩をしていたとき。
私を見つけた。ここまでは聞いたことがある。
でも田中君がこのとき見つけたのはロボットじゃなかったらしい。
人魚の幼体だった。
「捨て子っていう文化が人魚にもあって。」
「一緒にあった手紙にはアンドロイドの仲間として育てるようにって。
結構無茶なこと言ってるよな。でも、そのときの僕はロボを育てようかなって思った。」
田中君は笑う。田中君の笑顔は洗練されていて、とても綺麗だ。
田中君は高性能のアンドロイドだから綺麗に笑えるらしい。
「とりあえずハカセのとこまで連れてって、ゆりかごを大きくしたものをベースに容器を作った。今、ロボが入ってるやつのことね。」
今の今まで私は元々こうなのかと思っていたが違ったらしい。
ハカセが作ったのか。…あれ?
私がロボットじゃないなら食事はどうするの、と田中君に聞いた。
私は今まで何か食事を摂った覚えがない。
「人魚に食事は必要ないんだ。海水があればオッケー。」
海水?
「バッテリーってことにしてる。」
バッテリーはバッテリーじゃなかったらしい。
衝撃の事実というには内容が多い気がする。次々と発覚する新事実。
「そして、今日で海水も卒業だ。」
つまりは。やっぱり捨てられるんだろうか。
「人魚は陸に上がって10年経つと空気からのエネルギー摂取ができるようになるんだ。手紙にそう書いてあった。」
えっとそれって。
どういうことでしょうか、と私は言った。
「おめでとうロボ、君は今日からヘルメット無しでも生活できる。」
田中君がロボットの私の頭を取った。
反射的に頭を庇う仕草をしてしまう。ただいつもと違って手に触れたのは金属ではなく田中君の髪の毛に似たものだった。妙に長い髪は少し濡れていた。
もしかすると、私は本当に人魚なのかもしれなかった。
まだ尻尾の存在を確認したわけではないけれど。
田中君がポケットからねじったゼリーを2本取り出した。
「ロボットふたりの明日に乾杯しようぜ。」
田中君からねじったゼリーを受け取った。
初めて食べたねじったゼリーはその外見とは裏腹に単純な味で甘かった。
それから。
特段何か変わったことは無かった。私が時々ヘルメットを外すようになったぐらいだ。私がロボットっぽい考え方について考えるのをやめたぐらいだ。
それくらいだった。ハカセは相変わらず豪快に笑っていたし、新しい仲間のハッカ飴も元気よく鳴いた。田中君も毎日どこかに散歩に行った。私もたまに着いていったりした。世界が終わったのが人魚の仕業で人魚が私だったとしても、世界を滅ぼしたのは私ではないし、滅ぼされた人類はもういない。
もう一つだけあった。
転びかけて、田中くんに支えられたとき感じていた排熱異常は恋だった。
世界最後の 白雪工房 @yukiyukitsukumo
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