番外編 IFストーリー 自壊する大器
夏、容赦なく照りつける日差しを存分に浴びながら、俺は一人、ダンジョンへ向かっていった。
道行く人々は楽しそうな笑みを浮かべて、夏休みを友人と、家族と、大切な人と過ごしている。
世間では夏休みと言うこともあって、皆何処か浮足立っているようだった。
俺は少しだけ彼等を見て、少しだけ羨ましいと思ってしまった。
大切な人なんて、俺にはもう…。
思考を切り上げ、ダンジョンの前に立つ。
油断も、躊躇も、余計な思考も、全てダンジョンでは必要ない。
今はただ…
「勝つ。」
勝って、それで…また。
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ダンジョンの底にある大きな空洞、そこには大きな二体の竜が鎮座していた。
片方は紅く、もう片方は蒼い魔力を帯び、侵入者を待ち構える。
扉が開き、侵入者が一歩踏み出した瞬間、蒼い竜の首が落ちる。
「……思ったより脆いな。相性か?」
目の前の人間が何か喋っているが紅い竜にとってはどうでも良かった。
紅い竜は咆哮し、その口に凄まじい量の熱を貯める。
少し離れた場所にいた侵入者……昇太は特に影響を受かることなくそのまま距離を詰める。
竜は大きく息を吸い込み、ブレスを放とうとするが、昇太は意にも介さずさらに速度を上げる。
先程まであった距離がどんどん詰められ、両者の距離が一気に埋まっていく。
竜は少しだけ怯んだ様子を見せたが、構わずブレスを放つ。
昇太は剣を突き出し、襲いかかる炎を利用する。
凄まじい熱量のブレス、辺に広がっていたそれら昇太はを一点に集約し、剣に纏わせる。
『魁星』
そう小さく呟き、竜の首めがけて剣を振う。
振った剣は、鱗を簡単に切り裂き、その首を刎ね飛ばした。
「――攻略完了。」
4時間32分、それが昇太が京都ダンジョン3番を攻略するのにかかった時間だった。
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「―――っふぅ…流石に疲れたな。」
額ににじむ汗を手で拭いながら、そう呟いた。
スマホ画面に映る時間を見ると21:19と表示されていた。
取り敢えず、今日の寝床と…夕食、決めなきゃな……。
そんな事を考えていると、何処か胡散臭そうな笑みを浮かべた男が話しかけてくる。
「初めまして、星巳君。私の名は「三条。」……流石ですね。」
男は一瞬能面の様な表情を浮かべたかと思うと、すぐさま先程の笑顔に戻った。
「当たり前だ。あれだけ不躾に視られればな…。」
男は更に笑みを深める。
まるで狐の様だなと俺は思った。
まぁ、やってること狸親父のそれだが…。
「流石です!星巳君、いや、やはり君の事は、い「黙れ、それ以上口を開くな。」」
男は顔を青白く染め、一歩後ろに下がる。
「ふ、ふふ…はははははっ!」
「何がおかしい?」
少し脅かしすぎたか?否、目の前にいる彼はその程度の人間には思えない。
「あんた…何者だ?三条の末端…手訳じゃないだろ?もしかして、お前は…」
男の纏う雰囲気が変貌する。
先程まで纏っていた食えない狸親父と言う雰囲気は消え失せた。
「ああ、すまないね。私の名前は三条
「良い話?」
思わずそう聞き返す。
「そう、例えば…君が求めて止まない…人を蘇らせるアイテム…とか。」
俺はその言葉に大きく反応してしまった。
「立ち話をするのも何だ、どうだい?続きは車に乗りながらでも。」
そう言って開けられた車に俺は何も言わず乗り込んだのだった。
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補足コーナー&皆様へ
・この世界線について…主人公の姉である日葵の凍結処理が間に合わず彼女を殺す事しか出来なくなってしまった場合の世界。
昇太は日葵のステータスを何故か受け継いでいる。しかし、印刷されたステータスは黒く塗りつぶされており、唯一読めるのは【今際の星】と言う名前のスキルだけである。
・星巳 昇太について…一人称が俺に変わり、大分性格がすさんでいる。
二条家に迷惑をかけぬように、夕夏に預金通帳を持たせて二条家に任せ、自分は家を出てその日暮らしをしている。
定期的に夕夏の通帳にお金を入れており、現在はとあるアイテムを探している。
実力的には金級中位から上位クラスである。
・三条 御影について…三条家の当主にして、よくわかんない人。
性格、ステータス、経歴、等々かなり謎に包まれている。
しかし、その手腕は相当なもので、三条家を先代よりかなり大きくした。
・京都ダンジョン3番…京都で3番目に強いダンジョン、ボスの名前は灼熱竜と凍結竜と言う安直な名前。
・【今際の星】…星は死ぬ瞬間、一際強く輝く、少年は自らを燃やし、輝き続ける。例え身の丈に合わないとしても、例えその先にハッピーエンドが待っていなかったとしても…少年はもう止まれない。
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皆様、長らくお待たせいたしました。
今話は、第一章完結記念として書かせていただきました。
もし今話が好評であれば、次章や何処か切りのいい所で書かせていただこうと思います。
それでは皆様、また二章で会いましょう。
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