第11話
あれは、暑い夏の日の事だった。
母さんが夏風邪になってしまって、父さんはダンジョンに潜っていたから、僕と姉さんの二人で買い物に行った。
その帰りに突然、複数人に囲まれ、僕は頭を殴られて何処かへ連れていかれてしまった。
そして、目が覚めるとどこかの個室で椅子に両手を拘束されて座らされていた。
夏のはずなのに体がとても冷えて震えが止まらなかった。
周りには誰も居なくて、逃げ出すなら今しかないと感じた。
その瞬間、僕の次の行動が決まった。
拘束に使われていた紐は思いのほか緩く、少し時間をかければ解くことが出来そうだった。
冷える体と朦朧とする意識を無視して体に鞭を打って、拘束を解く。
もう少しで拘束が解けそうなところで、周りが騒がしくなっていた。
野太い悲鳴とコンクリートが砕ける音が聞こえてきた。
すると、慌ただしく髪の先が焦げた男が入って来る。
男は血走った眼をしながら声にならない怒号を上げながら剣を振り降ろして来る。
もう駄目だと、諦めた時だった。
「私の弟に手を出すなー!!」
毛先のみが赤かった髪を真っ赤に染めながら両手に青く、紅く燃える炎に包みながらその男をぶん殴った。
男そのまま壁に大きな音を立ててぶつかった後、大きく痙攣して倒れた。
「昇太、大丈夫?直ぐに治すからちょっと待ってね。」
すると僕の体は炎に包まれた。
冷えていた体は不思議なくらいに暖かくなって、段々と眠くなってきた。
「後はお姉ちゃんが何とかするから、安心して寝てていいよ。」
優しい笑みを浮かべながら姉さんはそう言った。
姉さんは僕にとってのヒーローだった。
姉さんさえ居ればどんな事があっても何とかなる。
そんな気がする程に、姉さんは頼りになった。
それでも、姉さんは今、眠り続けている。
姉さんの代わりに僕が頑張らなくちゃいけないんだ。
そうだ、僕は今、ダンジョンの中に居る。
眠っている場合なんかじゃない。
起きろ!…起きろ!―――起きろ…。
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目が覚めると、真っ白な天井が目に入った。
ツンとした消毒液のにおいを感じながら、ゆっくりと起き上がって周りを見回す。
突然、頭が痛くなって頭に触れると、どうやら包帯が巻かれているようだった。
辺りには誰もおらず、真っ白で簡素なベッドが幾つか置いてあった。
此処は、病院…?だろうか誰か呼ぼうと声を上げようとしたが、その前に扉がノックされた。
返事をすることなく、金髪の男性が入ってきた。
目つきはキツく、左耳にピアスを付けた、見た目がとても怖そうな男性が入ってきた。
その男性は僕が起き上がっていることに気付いたようで、声をかけて来た。
「起きたか、気分はどうだ?」
ぶっきら棒な感じがするが、言葉遣いに気遣いを感じる。
何だか優しそうな人だ。どこか教官と似ている感じがする。
「はい、特に異常はないです。…その、僕を助けてくれたのは貴方ですか?」
男性は頷いて答えた。
「ああ、俺と水無瀬が…君の教官と一緒にな。」
やっぱり、最後に見えたのは教官だったのか…
「ありがとうございます。…その名前を聞いても良いですか…?」
男性は、ちょっと考えて答えた。
「俺の名前は、
鳴宮 轟…何処かで聞いたことがあるような感じがしたが、取り合えず置いておいて僕も自分の名前を伝える。
「僕の名前は星巳 昇太です。助けていただき本当にありがとうございました。」
鳴宮さんは少し考えた後、僕にこう言った。
「…星巳………昇太、君の家族に姉や妹は居るか?」
何故そんなことをと思ったが、素直に答える。
「はい、姉と妹が一人づつ居ますけど…何かありましたか?」
それを聞いた途端、鳴宮さんは頭を抱え始めた。
僕が何か言う前に手で制される。
「否、こっちの話だから大丈夫だ。…そうか、君たちが…。」
そう言って、室内に静寂が戻る。
数分後、鳴宮さんがゆっくりと口を開いた。
「…昇太、君さえよければ、俺の弟子にならないか?」
突然の申し出に思わず思考が止まる。
「もしかして、俺の実力を心配しているのか?それなら大丈夫だ。少なくとも、あのポンコツよりかは上手く教えることが出来るだろう。」
ポンコツ?誰の事だ?
矢継ぎ早に与えられる情報、しかし、とっくに答えは決まっており、どうやって伝えるか悩んでいると突然、部屋の扉が勢いよく開かれる。
そこから現れたのは教官だった。
「それは聞き捨てならないですね。」
鳴宮さんは、顔を歪ませて呟いた。
「…出たな、ポンコツ…。」
「うるさいですよ、このコミュ障。」
何故か僕の眼には二人の間で火花が散っているように見えた。
ふと、教官が目線を切って、僕の方を向く。
「昇太君、無事で何よりです。このコミュ障になにもされませんでしたよね?」
教官から謎の圧力を感じ、僕は条件反射で頷いてしまった。
教官は「それなら良いんです。」と何処か嬉しそうに言った。
「見ましたか?轟、昇太君は私を選んだのです。貴方は諦めて帰りなさい。」
鳴宮さんは教官を一睨みした後、僕の方を見て再度確認してくる。
「すみません、折角の申し出ですが、僕は教官を師としていて、これからもそれを変える気はないんです。」
そう言うと、鳴宮さんはとても残念そうな顔をしていた。
「そうか…それなら、せめてこれを受け取ってくれ、もし何かあったらここに電話をかけてくれ。」
そう言って手渡されたのは名刺だった。
名刺を手渡された後、そのまま鳴宮さんは用事があると言って帰ってしまった。
教官も「話したいことはあるのですが仕事があるのでまた後日。」と言って部屋から出て行ってしまった。
部屋に一人、残された僕は渡された名刺を確認することにした。
そこには、〈白銀級冒険者、鳴宮 轟〉と言う文字と電話番号が書かれていた。
その瞬間、僕は考えることを辞めた。
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高層マンションの最上階で男は一人、街を眺めていた。
すると女性がその部屋に入って来る。
「鳴宮様、大手企業からボディーガードの依頼が来ています。」
男は短く答え、女性はその部屋から出ていく。
男はふと、机の上にある写真立てへと目線を向ける。
そこには自分と二人の男性と三人の女性が写っていた。
「将斗さん、貴方の息子は立派になってましたよ。」
そう言って、退出していく男、机の上には大鷲の紋章が置かれていた。
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補足コーナー&作者から皆様へ
・主人公を誘拐した人たちについて…はぐれ冒険者と呼ばれる、冒険することを諦めた冒険者たち。自分の才能に限界を感じ、その力を犯罪へと使う犯罪者。
・星巳 日葵について…主人公の姉、かなりの天才。
主人公が誘拐された当時はまだ冒険者になっておらず、ステータスも持っていなかった。それなのに特殊な魔法を行使し、銅級中位程の冒険者を複数人倒すという、とんでもない人物。当時の髪色は毛先だけが赤かったが今は全部真っ赤に染まっている。
・鳴宮 轟について…日本冒険者ランキング4位、世界冒険者ランキング8位の地位を持つ白銀級冒険者。水無瀬 藍の事をポンコツだと思っており、かなり仲は悪い。
しかし、実力自体は認めている。
この人も周りから勘違いされやすく、性格自体はかなり優しい。
・水無瀬 藍について…鳴宮 轟とは犬猿の仲で、高校の同級生だったりする。
実は一対一で戦うと4対6で鳴宮が勝つ。鳴宮の事をコミュ障だと思っておりかなり仲は悪い。
因みに、ポンコツと言うのは本当で、主人公の前でボロを出していないだけで、結構ミスが多かったりするが、それをカバーするだけの実力がある。
・大鷲の紋章…とある金級冒険者パーティーが使っていた紋章、今はそのパーティーは存在していない。
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皆様、今回も更新が遅くなり誠に申し訳ございません。
本当にもう少しで私生活の方が落ち着きそうなので、少しづつ更新頻度が戻せると思います。
皆様にはご迷惑をおかけしますが、これからもこの作品をよろしくお願いします。
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