第10話
夏休みも終盤、ダンジョンを自由に潜ることが出来る期間も短くなってきた。
多くの学生は真っ白な夏休みの宿題と向き合っている頃だろうが、僕は預金通帳とにらめっこをしていた。
僕はこの夏で冒険者になることは出来たが、僕のレベルは上がりにくい為、探索もあまりできておらず、貯金はそこまで増えていない。
残り夏休みも2週間、急いで稼ぐしかない…。
今日、夕夏は二条家に居る、だから今日は気にすることなく一日中ダンジョンに潜ることが出来る。
散らかった机を片付けた後、勢いよく立ち上がり、身支度を整える。
妹を迎えに来た綾から手渡されたお弁当、貴重品、その他必要なものを全てアイテムボックスに入れて家を出る。
本当にアイテムボックスは便利だ、ここに入れておけば取られることを心配する必要も無い。
改めてスキルの有能さを感じながら僕は独り、ダンジョンへと向かうのだった。
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冒険者協会に行くといつもより混んでいて、受付にも多くの人がいた。
取り敢えず専用窓口へと向かい、香取さんを呼んでもらう。
いつもだったら別に受付に行く必要も無いのだが今日は”依頼”を受けに来たのだ
依頼とは、その名の通り冒険者たちに来る依頼で、一度に受けられるのは5つまでで、銀級以上の冒険者は依頼を受けるのが義務化されていたりする。
依頼には、探索依頼、要人警護、家庭教師、素材採取など多岐にわたっていて、どれも報酬がもらえて、稼ぐには持って来いな物なのだ。
色々な装備をしている冒険者たちを見ながら、少し待っていると、香取さんが奥からやってきた。
「おはよう、昇太君。依頼を受けに来たんでしょ?少し待ってね、確かここら辺に一覧が…」
そう言って、近くにある本棚から探し始める。
取り出したのは大きなファイルで、表紙には”銅級①”と書かれていた。
手際よく香取さんはその中から付箋の付いた3枚の紙を取り出し、僕の前に差し出した。
そこには”ゴブリンの耳の採取依頼”、”小魔石の採取依頼”、”魔鉄鋼の採取依頼”、と書かれていた。
「取り合えず私が昇太君にお勧めの物を持ってきたけど…どうかな。」
香取さんは少し不安そうに見えた。
しかし、それらの依頼は報酬もかなり良く、銅級下位が出来る以来としてはかなり破格な物となっていた。
正直、僕としてはどんな依頼でも持ってきてもらえれば嬉しいのだが…
やはり、専属としての初めての仕事だから緊張しているのだろうか…。
僕は安心できるように、明るい声で答えた。
「ありがとうございます。どれも丁度いい難易度なので3つとも受けようと思います。」
そう言うと香取さんはほっとした表情を浮かべていた。
「了解!それじゃあこの書類にサインして…うん、これで大丈夫、それじゃあ頑張ってね!」
いつもの笑顔で香取さんはそう言った。
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香取さんから依頼書を受け取った後、修練場へと行き、武器と依頼の為のピッケルを借りてダンジョンへと潜っている。
取り合えず、魔鉄鋼の採取依頼から終わらせてしまおうと、依頼書に書いてある地図を頼りに壁をピッケルで削っているのだが…
「…はぁ、…はぁ、全然取れない…」
1時間かけて採れた数は二つ…依頼では5つ採ってきて欲しいと書かれている。
このままだと単純計算でも3時間程かかってしまう。
時間をかけすぎるといけない。今一度気合を入れなおし、ピッケルに力を籠め、勢いよく壁を削る。
30分ほどペースを崩さず削っていると魔鉄鋼を2つ手に入れることが出来た。
そのまま削り続けると、直ぐにもう1つ手に入れることが出来た。
どうやら鉱脈に当たったようで、奥の方にはまだ魔鉄鋼がありそうだった。
一先ず、依頼に必要な分は取れたので、休憩をとるとしよう。
壁に背中を預けながら、綾から貰ったお弁当箱を開ける。
昨日よりも綺麗に詰められたおかず達が顔をのぞかせた。
早速、昨日のにも入っていた卵焼きを食べてみる。
…うん、美味い。
それ以外のおかずも昨日よりも格段に美味くなっていた。
今度は家で昼飯を御馳走しようとお茶をに見ながらぼんやりと考えていると、背後から凄まじい寒気を感じた。
反射的にそこから離れて、武器を手に取る。
そこには真っ黒な空洞が広がっていて、中から粘性のある青い液体が流れだしていた。
段々と液体が形を成していき、中心にある赤い石から脈動するように何かが流れ始める。
僕はそれが行動する前に急いで距離を詰め赤い石を砕こうとする。
幸い、特に抵抗もされずに石を砕くことが出来た。
青色の液体は塵へと変わっていき、その場には小さな魔石が残る。
―――ふぅー…かなり焦った…まだスライムで良かった…。
魔物はあのように黒い空洞から突然ダンジョンに現れる。
魔物避けは、魔物を避けることは出来るが魔物の出現を防ぐことは出来ない。
大体の冒険者は魔物避け以外に”結界魔法”を使って、魔物の出現も防いでいるが、残念ながら僕は結界魔法を使うことも出来なければ”簡易魔法石”を買う余裕もない。
戦闘態勢を解き、荷物を片付ける。
これから他の依頼の為に3層まで行かなくてはいけない。
此処からは休憩なしで3層まで行って依頼を達成し、家に帰る。
緩んだ気を引き締め直し、僕はダンジョンの奥へと進んでいった。
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3層の魔物達はどれも2層の魔物とは段違いに強い。
スライムを例に挙げると、2層までのスライムは単調な攻撃で色の変化のパターンも分かり易かったが、3層では攻撃は複雑になり、色の変化も分かりにくくなる。
それ以外の魔物もかなり強化されており、必然的に強くなることが出来ない僕は、傷も多くなってしまうわけで…
「ーすぅ…はぁー…これで、七体目…」
隠れていたゴブリンも倒し、納品必要数まで残り3個となった。
夜半嵐の納刀して、落ちている魔石を拾う。
連戦も相まって体力が減少し、動きが鈍くなってきたのを感じる。
目立つところに傷は無いが、左腕に一度ゴブリンの棍棒が直撃してしまって骨が折れてしまった。
直ぐにポーションを飲んだので今は動かせるが、これ以上の傷を負ってしまうと流石に隠せない。
先程の一撃はギリギリで腕を差し込めたが、少しでも気を抜いていたら大けがだった。
自分の帰りを待つ人が居ることを思い、疲れを訴える体に喝を入れる。
少し先の方にゴブリンの集団が見える。
数は…3体、納品数と同じ数だ。
「…ーすぅ、…ーはぁ…」
深呼吸をしながら弓矢を引く、弓だけで二体倒すつもりで集中する。
まず一射目はゴブリンの頭へと直撃した。
続く二射目はもう一体のゴブリンの頭を捉えていたが、ギリギリで躱され、肩へと突き刺さった。
すぐさま夜半嵐を引き抜き、距離を詰める。
こちらに気付いた三体目のゴブリンが棍棒を構えるがもう遅い。
防御ごとゴブリンを切り裂き、残っているゴブリンにも斬りかかる。
「ギャ…ギャギャ!」
痛みに耐えながらこちらに棍棒を振ってくるが全て受け流し、無防備な体を叩き斬る。
ゴブリンたちが塵になっていくのを見届け、ドロップアイテムを拾い始める。
その時、極度の疲労状態と戦闘後の気の緩みで、僕は気づかなかった。
背後から迫る、4体目の影に。
気付いた時には既に詰みだった。
振り返った僕の目に映ったのは、棍棒を振り上げるゴブリンの姿で、防御をすることも出来ず、頭へと棍棒が叩き込まれた。
視界が霞み、頭からドロッとした液体が頭から流れる。
そのまま意識を手放す所を、歯を食いしばって耐える。
勝ち誇った笑みを浮かべるゴブリン。
もう一度棍棒を大きく振りかぶり、こちらへと叩きつけてくる。
それを転がることで避け、すぐさま剣を引き抜きながら立ち上がる。
焦点は合わず、頭から血が流れ続けるが、何とか目の前の敵に集中する。
奴は油断している。現に先程から笑みを浮かべ続けている。
緩慢な動きは今の僕でも見切ることが出来る。
ギリギリで奴の攻撃を避け続け、体力の消耗を抑えながら明確な隙を探す。
段々苛ついてきたのか、一撃一撃が大振りになってきた。
「ギャ!ギャ!…ギャ!!」
待っていた大振り、頬を掠める程の距離感で避け、そのまま切り上げる。
魔石ごと切り裂く感覚を感じ、集中力が切れたのか一気に体から力が抜ける。
塵になっていくゴブリンを横目にポーションを飲むが、意識が薄れていく。
何とかして体に力を入れようとするが、立ち上がれる気がしない。
薄れ行く視界の中、僕の目に映ったのは、見覚えのある瑠璃色だった。
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補足コーナー&作者から皆様へ
・魔鉄鋼…いろんな装備に使いやすく、安くて加工がしやすい。優秀な鉱石。
銅級下位~銅級上位ダンジョンで採ることが出来る。
・簡易魔法石…魔法が込められた石で使うと、込められた魔法を使うことが出来る。
簡単な魔法であれば魔鉄鋼にも籠めることが出来る。
より複雑な魔法となると銀級、もしくは金級ダンジョンの鉱石が必要。
どんな簡単な魔法の魔法石でも10万以上の値段がする。
・結界魔法…かなり高度な魔法。いろんな種類の結界を張ることが出来る。
例・結界…シンプルな結界。外部からの攻撃を防ぐ。
・魔法結界…魔法からの攻撃に特化した結界。
・~禁止結界…~の部分が結界内部では禁止になる。魔法禁止結界の場合、内部で使うと魔法が消えてしまう。
・依頼…冒険者たちが受ける依頼の事。ダンジョンの内外どちらの依頼もすることが出来る。
銀級以上は月に5個以上の依頼を受けることが義務付けされていて、金級になると10個にまで増える。
現在の主人公ステータス
星巳 昇太 lv1 NEXT10100pt 14歳
力 20 敏捷 21 耐久 16 器用 17 魔力 13 知力 19
〈スキル〉
【大器晩成】
・レベルアップに必要なpt量を増加。
〈ユニークスキル〉
【無窮】
・レベルアップに必要なpt量を超増加。
【アイテムボックス・中】
・1000㎥程の空間にアイテムを保管することが可能。
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皆様へ、一応近況ノートの方でもご報告させていただきましたが今一度ご報告を。
この度は、私情で更新頻度を減らしてしまい申し訳ありませんでした。
まだ私生活がかなり忙しく、更新頻度を戻すことが出来ない状況にあります。
もうしばらく首を長くしてこの作品の更新を待っていただけると幸いです。
そして、記念投稿についてです。
この度、この小説は星100を超えることが出来ました。(現在は200を超えましたが…)
本当にありがとうございます。
記念に何か特別ストーリーを書こうと思っています。
近況ノートの方でアンケートを採っているので、お待ちしています。
これからもこの小説を楽しんで読んでいただければ幸いです。
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