第5話

戦闘時特有のピリッとした空気感も、3度目ともなるとだいぶ慣れてくるようで以前の様な危険な感じも無く、今回も無事ダンジョンから帰ってくることが出来た。

「お疲れ様です。それでは、予定通り三日後に試験を行います。…それでですね…星巳君、明日の特別講習なのですがいつも通り1時からという事で良いでしょうか?」

あの日以降、毎日教官によって特別講習と言う名の鍛錬が行われている。

あの鍛錬のおかげで僕の実力はかなり上がったと思う。

今ならあの時、受付嬢の香取さんに暴行を働いていた冒険者を完封する自信がある。

…まあ、これだけ豪語しておきながらレベルの方はあったく上がっていないのだけれど…。



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「微小魔石が10点、小魔石が8点、グレーウルフの毛皮が6点で合計5600円となります。」

香取さんがニコニコしながらトレーを差し出して来る。

二回目のダンジョン以降は毎回香取さんが対応してくれている。

お金を受け取って、財布にしまっていると香取さんが声をかけて来た。

「星巳君、今時間とか大丈夫?もしよかったら、少し話がしたいから相談室の方まで来てくれる?」

僕に話?一体何だろう。今日は時間があるし大丈夫か。

「今日は特に用事が無いので大丈夫ですよ。」

香取さんはほっとした表情を浮かべていた。

「良かった、それじゃあ3番室で話そっか。」



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「それで話って何ですか?」

香取さんと向かい合って座るとそう切り出した。

香取さんは何やら覚悟を決めたようだった

「星巳君、もし星巳君が冒険者になれたら私を君の専属にさせてもらえないかな?」

専属って…何だろう?

「香取さん、専属って何ですか?」

すると香取さんは、少し呆けていたが直後はっとした表情をして僕に専属についての説明を始めた。

「専属って言うのはね、冒険者お抱えの受付嬢って意味で、最近高い値段で取引されている素材とかを教えたり、クエストを斡旋したり、お勧めのダンジョンを教えたりとか…他にも色々あるよ。」

成程…でも確かに専属が居ると居ないとだとかなり楽になるかもしれないけど…

「けど…香取さんは、僕のスキルを知っているでしょう、僕で良いんですか?それに、香取さんって確かアルバイトだった気がするんですけど、大丈夫なんですか?」

香取さんは眩しいくらいの笑顔を浮かべながら答えた。

「ふっふっふ、それに関しては問題なし!ほら、見てごらん。」

そう言ってこちらに名札を差し出して来る。…えー、何々…

「……!アルバイトの文字が消えてる。」

「そう、この時期は中学生の冒険者講習もあるけど受付嬢の試験もあるの、そして今回の試験で私はアルバイトを卒業して一人前の受付嬢になることが出来たの、だから…。」

香取さんは深呼吸をしてはっきりとした声で言った。

「私を君の専属にして欲しいの。誰でもいい訳じゃない、あの時、私を助けてくれた君のサポートがしたいの。」

此処まで言われて答えないわけにはいかない。

「…僕は冒険者になれるか分からない上、まだまだ子供です。それでも良いなら…是非お願いしたいです。」

そう答えると香取さんは今日一番の笑顔を浮かべていた。



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その後、家に帰ってきた僕は妹と晩御飯を食べて、銭湯に行き、今は布団に入っている。

妹は既に寝ていて幸せそうな表情で寝言を呟いている。

僕はと言うと、とある動画をスマホで視聴していた。

昔に撮られたダンジョン攻略の動画だ。

投稿されたのは…今から12年前、冒険者協会が投稿している。

この動画はとあるパーティーが金級ダンジョンを攻略するというものだ。

金級ダンジョン攻略は基本的に”ギルド”みたいな大勢の冒険者で行うものだが、この動画に出てきているパーティーは世界で初めて自分たちのパーティーだけで金級ダンジョンを攻略を攻略しているのだ。

そのパーティーの名前は”アルタイル”構成員は6名、リーダーの名前は二条 玄哉、副リーダーの名前は”星巳ほしみ 将斗まさと” 

流れるような連携、このダンジョンの王である”灰燼龍”と呼ばれている魔物は凄まじい熱量のブレスを放ってくるがそれらを簡単に避け戦い続ける。

戦闘自体は30分ほどで終了して、アルタイルのメンバーがカメラに少しコメントしてこの動画は終わる。



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父さんは金級冒険者だった。

冒険者協会の中でも屈指の実力者で、そう簡単に死なないはずだった。

4年前のあの日は寒い寒い冬だった。

東京では珍しい雪が降っていて、皆で大きな雪だるまを作って父さんを驚かせようとしていた。

父さんは出かける前、ちょっと調査に行って来るだけだと言って、突然できた謎のダンジョンへと向かった。

調査隊は3つの金級パーティー2つ銀級と大手ギルドから金級冒険者が6人派遣されていた。

しかし、ダンジョン内で部隊の3分の1が行方不明になった。

その中に父さんも居た。

雪だるまを作っていたら玄関から話し声が聞こえた。小さな声だったけど、妙にはっきり聞こえてしまった。

「将斗は…行方不明になってしまった。」

玄哉さんは泣いていた。

母さんは膝を着いて泣いていた。

母さんはいつも笑顔だった。そんな母さんが泣く所を見るのは初めてだった。

二人の話が遠くの事のように感じた。

まるで夢の様な、現実だと思わなかった…否、思いたくなかったんだ。

気が付いたら涙が止まらなかった。

仕方のない事だと分かっていた。危険な職業だなんて百も承知だった。

それでも、それでも…。

それから半年後、調査で行方不明になった彼らは死亡扱いとなり、多くの行方不明者を出したダンジョンは金級を超える白銀級として分類されるようになった。



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…今でも、父さんは生きていると信じている。

こんなに強かったんだ。だから…きっと…。

父さんを見つける為にも、母さんと姉さんを治すためにも、夕夏に幸せな生活を送ってもらうためにも…ダンジョンに潜るしかない。

僕は…戦うのが怖い。ダンジョンに潜るのが怖い。死ぬのが…怖い。

けど…けど!それ以上に、家族が、死ぬの方が、辛い思いをする方が、僕は怖い。

だから…逃げ出すわけにはいかない。諦めることなんて許さない。

覚悟なんて父さんが行方不明になった時に決めた。

それなら…後は全身全霊で走り続けるだけだ。




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補足コーナー


・香取さんについて…本名”香取 結奈ゆな”冒険者協会の受付嬢で主人公の専属(予定)アルバイト時代から優秀で人当たりが良いことから人気だった。

ある日、冒険者に絡まれてしまい。そこを主人公に助けられ恩を返そうと彼の専属になった。


・専属…秘書のような物でパーティーや個人の冒険者に着くことが出来る。

色んなサポートをしてくれるが一度契約すると簡単には解除することは出来ないので考えて決めよう。


・ダンジョンの王…各ダンジョンの最奥に居るそのダンジョン最強の魔物。

因みに銀級までのダンジョンは5層で構成されているが金級以降は数が増えて5層ごとに階層の王と呼ばれる魔物が居る。


・灰燼龍…とある金級ダンジョンの王、名の通り辺りを焦土に帰る程強力なブレスを吐くことから灰燼龍と呼ばれている。実際の名前は別なのかもしれない。


白銀級ダンジョン…4年前突然、生まれたダンジョン現在世界には7つの白銀級ダンジョンがあるがその内のたった2つしか攻略されていない。


・アルタイル…昔存在していた金級パーティーで4年前の事件で解散し、残された5人のメンバーはそれぞれ冒険者として現在も活動している。


・二条 玄哉について…金級パーティ―アルタイルのリーダーで現在も冒険者として活動している。4年前の雪の日から星巳家をずっと気にしている。


・星巳 将斗について…元金級冒険者にして主人公の父、その時代で最強と名高いアルタイルの副リーダーを務めていて、かなりの実力者だった。

当時はかなり有名だったが4年が経った今は覚えている人も少なくなってしまった。

主人公は今でも父親が生きていると信じている。


・主人公のステータス


星巳  昇太  lv1 NEXT11130pt  14歳


力 20 敏捷 21 耐久 16 器用 17 魔力 13 知力 19


〈スキル〉

【大器晩成】

・レベルアップに必要なpt量を増加。 


〈ユニークスキル〉

【無窮】

・レベルアップに必要なpt量を超増加。


【アイテムボックス・中】

・1000㎥程の空間にアイテムを保管することが可能。


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