第4話
いよいよ今日、僕はダンジョンに潜る。
講習開始の1時間前、午後1時に修練場に来ていた。
中心には瑠璃色の髪の女性が立っていた。
「来ましたね、星巳君。」
「こんにちは教官。」
「はい、こんにちは。今日からダンジョンに潜りますけど、体調は崩していませんよね?」
「もちろんです。今日はよろしくお願いします。」
「ええ、それじゃあ早速始めましょうか。」
二言三言話し、教官から木刀を手渡され、鍛錬が始まる。
「星巳君には最低限の護身術と戦い方を学んでもらいます。」
先程までとは打って変わって空気が一気に張りつめたものへと変化する。
「手加減は要りません…どこからでもどうぞ。」
木刀を構え、目の前を見据える。どこにどう打ち込んでも意味がない。そう思ってしまう程教官の構えに隙が無い。
「……ふっ!」
小さく息を吐いて木刀を振る。その瞬間、視界が二転三転する。
木刀は手から消え、僕の眼には天井しか映らなくなる。
即座に立ち上がりも一度構え治すと、木刀は教官の手の中にあり、ようやく自分が投げ飛ばされたのだと気づいた。
「確かに、独学の割には形にはなっています。しかし、それ止まり。より洗練された技術の前には成す術もありません。」
「いいですか星巳君、現代の戦闘において重要なのは3点あると私は考えています。1つ、ステータス。2つ、スキル。最後に技術です。最初の二つが拮抗もしくは多少負けていようとも技術さえあれば巻き返すことは可能です。その為、今日から講習が終わるまでの12日間、君に戦闘技術を仕込みます。きっと辛いこともあるでしょう、それでも…それでもやりますか?」
回答に迷うことなどない、答えは一つしかないのだから。
「はい!よろしくお願いします!」
返事を聞いた教官は満足そうに頷いた。
「それでは、私もその期待に応えられるよう精一杯、君を鍛えましょう。」
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午後二時、僕は東京ダンジョン12番の前に来ていた。
昨日買ったばかりの装備を身につけ、腰には直剣とナイフを入れておく為の小さなポーチを、アイテムボックス内には槍、大剣、弓の三種類の武器を入れておいた。
「それでは、最後の確認です。星巳君、これから行くのはダンジョンです。以前の講習でも言った通り、未だ未解明な部分が多いダンジョン内では命の危険が伴います。覚悟は、決めてきましたか?」
怖気づきそうになる心を抑え込み、大きな洞窟の形をしたダンジョンへ体を向ける。
「はい!もちろんです!」
腹から声を出して空元気でも良いから自分を鼓舞する
「…そうですか、それじゃあダンジョンへと入ります。ついてきてください。」
先へ行く教官の後を追って僕はダンジョンへと入っていった。
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中は日光が届いていないにも関わらず、とても明るく、ダンジョン内に群生している植物が原因とされていると、先日教官から聞いたのを思い出した。
「これ以降、基本的に私は手を出しません。自分一人の力で魔物を倒していってください。」
一応、教官がいるとは言え直ぐに試験が来るため気を抜くことは出来ない。
一回一回を大切に、経験を積んでいかなければ…。
数分間歩いていると、水っぽい何かを引きずる音が聞こえる。
即座に武器を構えて戦闘態勢をとる。
通路の奥から現れたのは青色の液体、中心には赤色の石がある謎の生物”スライム”だ。
奴も僕を認識したのか、体の色を青色から緑色へと変化させる。
スライムは多くの人には最弱の魔物だと認識されているが、実はそうでもない。
スライムは冒険者にとって最も利益の少ない魔物なのだ。
奴の体が緑色になっている間、奴の体は強い酸性となっていて、初心者用の武器だと直ぐに溶かされてしまうという点。
スライムが緑色の液体を飛ばして来るがしっかりと反応して避けていく。
奴の攻撃が止まると緑色だった体は青色へと戻っていく。
その瞬間に奴との距離を詰め赤色の石を剣で切り裂く。
スライムの液体は石を斬った途端塵となって消えていき、その場に残ったのは斬られた赤い石のみとなった。
これがスライムは最も利益の少ない魔物だと呼ばれる最たる理由だ。
大体の魔物は心臓となる赤い石、通称魔石を砕くとその体を塵へと変えて消えていき、その場にドロップアイテムと魔石を残すのだが、スライムはドロップアイテムを落とさないのだ。
実際は、ドロップアイテムを落とすそうなのだが、極めて稀で手に入れることは殆どないと言われる程だ。
しかも、ドロップアイテムはそこそこな値段で取引されるのだが魔石は小さい上、質が低いため売っても大した金額にはならない。
取り合えず魔石をアイテムボックスにしまうとするか。
すると途中で教官に声を掛けられた。
「星巳君、先程の戦闘素晴らしかったですよ。しっかり変化のタイミングも見分けられていましたし、少し不安でしたが大丈夫そうですね。」
「ありがとうございます。教官の指導のおかげですよ、次からも頑張ります。」
教官は嬉しそうな表情をしながら頷いて、後ろへ下がっていった。
また気合を入れなおし奥へと進んでいく。
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道中、何体かスライムを倒したが思いのほか体力が残っている。
しかし、無理は禁物だそろそろ引き返そうと出口を目指すが複数の足音が聞こえてくる。
冒険者か?そう思ったが現れたのは人ではなく灰色の体毛の狼だった。
奴らはグレーウルフ、通称”灰狼”と言う魔物で、銅級ダンジョンに出てくる。
数は5体で、まだそこまで距離を詰められていない。
そう考えた僕はアイテムボックスから弓矢を取り出して灰狼たちへと射っていく。
5体の内、3体を弓矢で仕留め直剣に切り替えて近接戦闘へと移行する。
片方の爪を剣で受け止めるともう片方が後ろへと回り込んで、噛みついて来た。
急いで距離を取り包囲されないように立ち回る。
間合いに踏み込もうとすると即座に片方がカバーしてくるため非常に攻撃しずらい。
―――賭けに出るしかないか
片方の灰狼へと近づき2体を引きはがす。
慌てたように爪を振ってくるがもう遅い。
それらを全て受け流し、灰狼の首を切り上げる。
その瞬間、直剣を手放し、後ろを振り返る。
残った灰狼は既に口を大きく開き、その牙で僕の首を嚙み千切ろうとしていた。
その攻撃をすんでの所で回避し、アイテムボックスを開く。
取り出したのは大剣、回避で体制は崩れているが、重心は灰狼の方へと向いている。
そのまま体を捻り、大きく横に切り裂く。
重い手ごたえと気持ちの悪い感触を感じながらそのまま振りぬく。
その一撃が致命傷となり灰狼は塵となって行った。
―――勝った…のか
大きく深呼吸をして武器をアイテムボックスにしまう。
体から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。
教官が急いでこちらへと向かってくる。
「星巳君!けがは、怪我はないですよね?痛い所とかありますか?」
あたふたする教官を見ているとこちらが落ち着いてきてしまった。
「大丈夫ですよ。この通り無事、倒すことが出来ました。」
すると教官はほっとした表情を浮かべた。
「良かったです。それじゃあ、星巳君は少し待っていてください。私は魔石とドロップアイテムの回収に行ってきますので。」
「え…大丈夫ですよ、自分でやります。」
しかし、教官は首を横に振って
「駄目です。初日だというのに無茶のし過ぎですから、休んでいなさい。」
最後の方はかなりの圧を感じたため、ここはおとなしく休んでおこう。
これにて、僕の初ダンジョンと初戦闘は終わるのだった。
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「微小魔石が8点、小魔石が5点、グレーウルフの毛皮が5点、以上で4800円となります。」
今日、3時間とちょっとダンジョンに潜った成果だ。
初めてにしては上々じゃないだろうか。
受け取ったお金を財布にしまって、小さな声で「ステータス」と呟く。
すると目の前にステータスが表示される。
星巳 昇太 lv1 NEXT11770pt 14歳
力 20 敏捷 21 耐久 16 器用 17 魔力 13 知力 19
〈スキル〉
【大器晩成】
・レベルアップに必要なpt量を増加。
〈ユニークスキル〉
【無窮】
・レベルアップに必要なpt量を超増加。
【アイテムボックス・中】
・1000㎥程の空間にアイテムを保管することが可能。
今日だけで230pt稼ぐことが出来た。
…普通なら1レベル上がっているはずなのに…
―――はぁ…
思わずため息をついてしまう。
前途多難なダンジョン攻略、一体いつになったらレベルアップ出来るのだろう。
陽が傾きが始めて、人々が帰路へと着く街の中を肩を落としながら歩くのだった。
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補足コーナー
・スライム…戦闘になると体の色を変化させると共に魔石を覆っている液体が強酸性へと変化するかなり凶悪な魔物。武器も破壊して、ドロップアイテムは無くて、魔石は安いと言う最悪な魔物。
・魔石…魔物心臓部位で基本的には5段階の評価に分かれている。微小魔石、小魔石、中魔石、大魔石、極大魔石、これらは大きければ大きい程それを心臓としている魔物は強力で、売るととても高く売れる。
たまに魔石のサイズは小さいが強力な魔物もおり、それらは小さくてもとても質が高いので高価買取されている。
・グレーウルフ…全長50㎝で灰色の体毛基本的に群れで行動しており、銀級ダンジョンで出るホワイトウルフの劣化版。通称、灰狼。
因みにホワイトウルフは通称”白狼”である。
・pt…魔物を倒す際にもらえる経験値のような物。スライムは10ptグレーウルフは30ptである。
東京ダンジョン12番…東京には幾つもダンジョンがあり、全てまとめて東京ダンジョンと呼ばれているがそれだと区別がつかない為、強さの順番に番号が振られている。この東京ダンジョン12番は最も弱く、初心者にうってつけである。
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