第6話
講習最終日の前日、今日の分の特別講習を終え現在は家にいるのだが…
僕は非常に困っていた。
明日の試験に持っていく武器を決められないからだ。
全部入れちゃえば良くない?…と思うかも知らないが以前全部の武器を入れてみたのだが、アイテムボックスから武器を取り出した際、全く別の武器も出てきて凄く大変だったのだ。
そんな事があったので、どのくらいまで武器を入れても大丈夫か実験してみると、どんな武器でも5種類までなら大丈夫だった。
今の所、確実に入れる武器は槍、大剣、弓、盾、の4種類は確定している。
最初の時に盾を入れなかった為、まともに防御をすることが出来なかったから2回目以降からは毎回採用している。
残り1枠を争っているのは、戦斧、太刀、ガントレット、の3種類だ。
戦斧は小さいながらに火力が高いから、太刀は切れ味が良く、一対一においてかなり強いから、ガントレットは単純に使いやすく取り回しも良いから、と言った風にどれも凄く魅力的なのだ。
…本当にどうしよう、明日は恐らく今までより深い階層に行くと思う。だから、最大限準備をしてから行かないといけない…。
ううん、悩みどころだ。
その後、10数分悩んだ後、僕の出した答えは……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夕方の5時、辺りに5時のチャイムが鳴り響き、子供たちが家へと帰る時間。
僕はまた
辺りは殺伐とした空気が流れていて、周りの主婦たちの纏う空気はまるで歴戦の猛者の様だ。
今日は夏休みも終わりに近づいているという事でかなり大規模なセールが行われる。目標は卵、醤油、豚ロースの確保だ。
多くの主婦は夏の旬、スイカ、きゅうり、ナス、そして夏の代名詞とも言える素麺。
それらを狙いとしているだろう。
だから今回はかなり気を抜いていても戦いには確定で勝利することが出来る。
数分後、辺りに開戦の鐘の音が響き渡る。
前回は敗北してしまったが今回はポジショニングも完璧、全部を難なく回収し、悠々と帰路に就く。
―――今日は少し奮発してしまったな…。
エコバックの中には今日のセール品ではない桃が入っていた。
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今日の晩御飯は明日の試験に向け、試験にカツと言う意味を込めてかつ丼を作ろうと思っていたのだけれど…
今、僕は二条家のキッチンに百合さんと一緒に立っている。
―――何故こんなことになってしまったのだろう?
それは20分ほど前まで遡る。
僕は家に帰って、早速調理の準備をしようと材料の確認をしたのだが、油が…カツを揚げるための油が、無かったのだ。
我が家にあったのは僕がケチりにケチった少量の油のみ。
急いで買ってこようと思ったけれど、今日は奮発して桃を買ってきてしまったのもあり、1日に使っていい許容額を超えていたため、偶には良いかと思い二条家に油を貰いに行ったのだ。
二条家に着くと丁度百合さんもご飯の支度をしていたようでエプロン姿で僕を迎えてくれた。
事情を話し、油を分けてもらえないかと言った所。
「それなら一緒にご飯を食べない?丁度今日はカツにしようと思っていたところなの。」
と言われ最初は断わっていたのだが、百合さんの勢いに流され気が付いたら夕夏と一緒に二条家に居た。
まあ、取り合えず調理をするとしよう。
百合さんも今日の特売に来ていたのだろうか…そう思っていると、何やら高そうな箱が出て来た。
中から出て来たのは綺麗な差しの入った豚肉が、見ただけでわかる高い奴だ。
思考が停止し、錆びた機械の様な動作で百合さんの顔を見ると凄い笑顔だった。
もう、凄く。
「昇太君、ちゃんとした物、偶には食べたいよね?」
凄い、笑顔なのに怖い。
何でバレた…確かに最近のご飯はもやしだけとか、栄養剤だけで済ませることもあったけど百合さんにバレる要素なんてどこにも…。
瞬間、弾かれたようにリビングを見る。
居る、僕の私生活も知りながら二条家に頻繁に出入りする存在が。
今、綾の膝の上で笑顔を浮かべながらテレビを楽しんでいる僕の妹、夕夏だ。
思いもよらぬ所からの情報漏洩、思わず僕が戦慄していると、百合さんが更に優しい声で僕に声をかけてくる。
「それじゃあ、一緒に料理作ろっか。」
台所にはいつも食べている物より3ランクほど上の食材ばかり。
ああ、いつも優しいはずの百合さんが、今日は何故だかとても恐ろしく感じた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はカツカレーを作るらしく、百合さんは笑顔でカレーの入った鍋をかき混ぜていた。
一方で、僕はあの高そうなカツを揚げており、かなり集中していた。
普段あんなに高い物を調理したことも、ましてや食べたことも無い為、本当に緊張している。
揚げ物はタイミングが命、遅ければべちゃべちゃ、早ければ生と言う最悪な結末になることもある。
非情に集中力が必要な作業となっており、何を思ったのか百合さんは僕にこの役目を託してきたのだ。
このカツの命運は僕に委ねられたと言っても過言ではない。
油から引き上げるタイミングを今か今かと待ち、一切の雑念を思考から排除する。
――――――……ここだ!
カツを油から引き上げ、油を落としたら完成だ。
…ただカツを作っただけなのにひどく疲れた。
体から力が抜け、大きく溜息をつく。
「昇太君、お疲れ様。後は私がやっておくから綾と一緒にテレビでも見てて。」
何時もであればまだ手伝っていたが、今回は疲れてしまった。
お言葉に甘えて、二人が座っているソファへと向かう。
「ショウ、あんた料理してるとき凄い表情してたわよって、大丈夫?顔色悪いわよ?」
「大丈夫。ちょっと事情があって…」
そう言っても綾は心配そうな表情を浮かべていたが取り合えず納得してくれたようだ。
「そう…無理は駄目よ、約束だからね。」
「ありがとう…心配かけて悪かったな。」
「…別に、大丈夫ならいいわ」
そう言うと綾はそっぽを向いてしまった。
その後も他愛のない話をしていると、キッチンの方からカレーのいい匂いがしてきた。
「みんなー、そろそろご飯が出来るから、手を洗ってきてー。」
「はーい!」
百合さんがそう言うと夕夏が元気に返事をした。
こういう光景を見ると何だか微笑ましくなる。
手を洗った後、配膳の手伝いをして席に着く。
「それじゃあ、手を合わせて…いただきます。」
「「「いただきます」」」
スプーンでうまい具合にカツを切って、カレーと一緒に口に運ぶ。
―――美味すぎる…。
思わず口角が上がってしまう程には美味い。
「美味しいー!」
夕夏も嬉しそうだ。
「百合さんとても美味しいです。」
「あら、ありがとうね。」
百合さんはそう言って微笑んだ。
「このカツ…いつもよりサクサクしてる気がする…。」
綾がそうボソッと呟いていた。
「ああ、それは僕が揚げたんだ。」
綾は驚いた表情をして、少し考えて。
「美味しいわよ、流石ねショウ。」
そう言った。
「ありがとう、そう言ってもらえると頑張った甲斐があるよ。」
すると、また綾はさっきと同じようにそっぽを向いてしまった。
それを見て百合さんはさらに微笑むのだった。
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「百合さん、晩御飯だけじゃなくてお風呂まで…今日はありがとうございました。」
晩御飯を食べた後、何と風呂まで頂いたしまった。
「別に毎日来てもらってもいいのに…。」
「はは…流石にそれは…。」
そんなに頼るわけにはいかない。
前と同じように夕夏はもう寝てしまっていて、今は寝ぼけながら綾に歯を磨いてもらっている。
「そうだ昇太君、明日は試験なんでしょう?頑張ってね、昇太君ならきっと合格できるわ。」
「ありがとうございます。絶対に合格して見せます。」
百合さんは優しく微笑んでいた。
前と同じように夕夏を背負い、二条家を後にしようとすると綾から声をかけられる。
「ショウ…絶対に無事で帰ってくるのよ。」
綾は、不安そうな顔だった。
「もちろん、約束するよ。」
そう言うと、綾は不安そうだったがゆっくりと頷いた。
もう一回、夕夏を背負いなおして二条家を後にする。
満天の星空の下、明日の試験の合格を願って、ゆっくり家に向かった。
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補足コーナー
・二条 綾について…二条家の長女、主人公の幼馴染で気の強い少女。
主人公一家とは仲が良く、昔はよく遊んでいた。
実は既に冒険者資格を持っており、結構強い。
・二条 百合について…二条 玄哉の妻で二条 綾の母、何時もニコニコしていて優しいが怒るとかなり怖い。
・主人公の食生活…不摂生、妹には良い物を食べさせているくせに自分は余りものなどで我慢している。
・試験…講習の最終日に行われる受ける試験。中学生で冒険者になるにはこの試験を合格する必要があり、合格はかなり難しい。
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