第5話 期待
***
結局、自分のクラスに戻ってきたのは、休み時間が終わる直前のことだった。
授業開始を告げるチャイムが鳴ると同時に、担任の先生が教室に入ってくる。
「本日のこの時間は学級ごとの活動になります。やる事は決まっているので、それじゃあ早速静川さん、お願いね」
先生がそう言うと、静川が「はい!」と元気な声で返事をして黒板の前に立った。
「それでは、今日はみんなお待ちかね、文化祭についての話し合いをしたいと思います!」
『おおー!』
それを聞いてクラスメイト達から歓声が湧いた。
そういえば、去年は全く関わることができなかったが、この学校の文化祭はこのぐらいの時期だったか。今年は俺も、準備から本番まで関わることができるのでかなり楽しみだ。
「まずは文化祭の実行委員を決めるんだけど、各クラス男女一人ずつ必要で、女子は委員長の私がやるとして男子で誰かやってくれる人はいませんか?」
さっきまであんなに盛り上がっていたと言うのに、みんな急に大人しくなってしまった。確かに、実行委員となると上級生や教師と関わる機会が多いだろうから、萎縮してしまう気持ちもわかる。
当然俺も、後から加わってきた人間が前に出るのも角が立つだろうからやりたいとは思わない。
「えーっと、私から提案なんだけど、男子の実行委員を新庄くんにやってもらうのはどうかな?」
そんな俺の考えをよそに、静川の口から思いがけない発言が飛び出した。俺は慌てて椅子から転げ落ちそうになる。
「理由を聞いてもいいかな?」
「新庄くんは人と話すのが上手だと思ったからかな。あとは、新庄くんは二年生とも仲がいいって聞いたからね」
どうやら担任の先生は、クラス委員長の静川には俺の事情を話しているようだ。まあ、俺にとっても一人くらい事情を知っている人間がいた方が楽なのでそれは別にいいのだが……。
俺に実行委員をやれというのは、流石に突拍子もない提案と言わざるを得ない。
「提案はありがたいけど、新参者の俺が実行委員なんて大役を任せられるわけにはいかないよ」
「そうかなー。ね、みんなはどう思う?」
静川はクラスメイト達に向けてそう問いかけた。すると、俺の予想とは大きく違い、俺を実行委員に選ぶことに肯定的な意見が多く寄せられた。
中でも、クラスの男子の中でも人望が厚く、人気者といった印象の男子の発言が決め手となった。
「このクラスに馴染みたいなら、遠慮するよりクラスに貢献するつもりで実行委員になってくれた方がいいと思うぜ。……って事で、頼りにさせて貰うぜ、実行委員さん」
このセリフは、俺が最初に静川に言ったものと似ている。どうやらこいつは、俺が静川に言ったセリフを聞いていてこの場でそれを真似したという事だ。
中々面白いことをしてくれる。こういうやつこそ人を引っ張ることに向いているのではないかと一瞬考えたが、すでにクラスの意見は俺を実行委員に選ぶという流れになっている。
「わかった。じゃあ改めて、実行委員を務めさせていただくことになりました。よろしくお願いします」
俺がそう言うと、クラスメイト達は拍手をしてくれた。先ほど俺に実行委員になるように言った男子は、俺と一瞬目が合うとニヤリと笑った。
少し腹が立つ憎たらしい顔をされたが、先ほどのシニカルな発言は面白かった。後でぜひとも名前を聞きたいところだ。なんだか仲良くなれそうな気がする。
「はーい、じゃあ実行委員は私と新庄くんが務めるということに決まりました。そしてもう一つ、文化祭の出し物を決めます!」
クラスメイト達からは今日一番の歓声が湧き起こる。他のクラスもそれなりに盛り上がっているとは言え、これは流石に迷惑な気がする。先生もまずいと思ったのか、慌てて盛り上がる生徒達を静止させていた。
「それでは、どんどん提案していってください!」
「はい!メイド喫茶がいいと思います!」
クラスメイトの一人が発言した。文化祭といえば定番中の定番である「メイド喫茶」。やはり早速出てきたか。これはかなり人気があるのではないだろうか?
そんな俺の予想とは違い、クラスメイト達の多くはメイド喫茶という言葉に飛びつきもしない様子だ。それに何やら、若干の呆れを感じる。
「ごめんねー。メイド喫茶は、やるクラスが決まってるからうちのクラスではできないんだ」
なるほど……。しかし、それで他のクラスの生徒達は納得するのだろうか。気になったので俺はその場で静川に質問してみることにした。
「本当にいいのか?」
「いいも何も、そのクラスには学年一の美少女って呼ばれてる子がいるからね――って、今は関係ない話だった」
学年一の美少女ね……。静川もかなりの美少女だと思うのだが、それ以上となると想像もつかないな。
そういえば朝、俺を職員室まで案内してくれた人も確か……。いや、朝は急いでいたのと周りの目を気にしていてちゃんと覚えていないな。
「……くん!新庄くん!」
「あ、ごめん。少しぼーっとしてたみたいだ」
「そっか。じゃあ早速だけど、みんなの案を黒板にまとめていってくれるかな?」
「わかった」
――その後、俺たちのクラスの出し物は「演劇」に無事決定し、新学期初日ということで昼には放課となった。
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