第二十話

 ローゼルディア王国の中でも屈指の貿易港として栄えていた港湾都市セーヴィル。

 駐留艦隊主力が出撃した港内には四隻の砲艦しか残されておらず、留守を任された乗組員たちの間にはどこか白けた空気が漂っていた。


「あーあ。何で俺らは留守番なんだよ」

「だな。出撃した連中が羨ましいよ。王国のボロ船を沈めてから戦ってないからな」


 数ヶ月前に王国海軍の主力艦隊を壊滅させて以降、制海権は帝国海軍が完全に掌握しておりセーヴィル駐留艦隊も定時の哨戒任務しか仕事がない状態だった。


「このままじゃ船底に牡蠣がこびりついて動かなくなるぜ」

「ははっ、ちげえねぇ」

「いっそのこと陸軍に転属願い出してみるか?」

「ははは。それもいいかもな」


 砲艦「テクラ」の後部甲板で砲身の清掃をしていた数名の乗員は、互いに愚痴を言い合いながら出撃出来ない鬱憤を晴らす。

 清掃を終え舷側で一服していると、同型艦の「カリア」が哨戒任務のため出港するところだった。


「定時哨戒か。ご苦労なことだな」

「哨戒つっても何を警戒すればいいんだろうな。王国に軍艦はもうないって話だぜ」

「海鳥でも監視するんだろうよ……ん?」


 話していると、「カリア」を目で追っていた乗員の一人が何かに気が付く。


「おい、どうした?」

「何かあの黒い点、こっちに近づいてないか?」

「お前が言ってた海鳥か何かだろ」

「いや、海鳥にしては早すぎるような……」

「やめとけ、やめとけ。真面目にしてたら疲れるだけだぞ」


 タバコを吸いながら揶揄う同僚に言い返そうとしたとき、爆発音が辺りに轟く。

 何事かと音のした方向に全員が目を向けると、哨戒任務に向かおうとしていた「カリア」の艦橋が吹き飛び炎を上げていた。


「な、何だ!? 『カリア』の弾薬庫が爆発したのか!?」

「あれヤバいぜ……生存者いるのか?」

「と、とにかく救助する準備を……」


 乗員たちが燃え盛る「カリア」救助のため動き出そうとしたとき、謎の轟音に気付いた耳聡い一人が空を指差して叫んだ。


「事故じゃない! あれだ! あれが『カリア』に突っ込んだんだ!」


 そう言って指差す先には、後部から白煙を噴く円筒形の物体が砲艦「ネルツ」に向かっていた。

 物体は「ネルツ」に引き寄せられるように高速で迫ると、そのまま艦橋に突入し「カリア」と同じように艦橋を吹き飛ばし炎上させる。


「お、おい! こっちにも来るぞ!?」

「海に飛び込め! ここにいたら死んじまうぞ!」

「畜生! 出撃した主力の連中は一体何してんだよ!?」


 突然の事態に混乱する乗員たちは、左右の舷側に走りそのまま海に飛び込む。

 飛び込んだのとほぼ同時、物体は前の二隻と同じく吸い込まれるように艦橋に衝突すると大爆発を起こし艦橋にいた艦長以下操艦要員の命を奪い去った。


「さっきの爆発音は何だ!? 一体何が起こっている!?」


 セーヴィルで唯一城壁に守られた建物である領主館。

 帝国軍に占領されてからは守備隊司令部となり作戦室として使用されている領主執務室に足を踏み入れた守備隊司令官レシュケ准将は、爆発音がした直後から情報収集に努めていた幕僚に報告を求める。


「報告します。港内に停泊していた砲艦四隻が何らかの攻撃を受け撃沈しました」

「攻撃だと? 砲艦の事故ではないのか?」

「港で作業中だった兵士が砲艦に突入する謎の物体を目撃しています。また、逃げ延びた砲艦の

乗員からも同様の報告が上がっています」


 幕僚の報告は、レシュケを愕然とさせるには十分なものだった。

 敵艦隊がセーヴィルに向けて出撃したという報告はレシュケ自身も受けていたが、数ヶ月前と同じように駐留艦隊によって遥か手前で撃滅されるものと楽観視していたのである。


「こちらの警戒網を運よく潜り抜けたか……ただちに駐留艦隊に一報を入れろ。さっきの爆発が敵の攻撃だとすれば近くに敵艦隊がいるはずだ」


 レシュケが指示を出していると、遠くから断続的に砲声がした。

 音の方向からして海岸に構築された砲塁のものだとレシュケが直感したとき、息を切らした伝令兵が大広間に駆け込んできた。


「報告! 敵の艦船がセーヴィル沖合に出現。現在、海岸砲兵中隊が敵艦と交戦中。敵は海岸に上陸する動きを見せつつあり、敵部隊上陸阻止のため至急援軍を乞うとのことです」

「港ではなく防備の厚い海岸を突いて裏をかいたつもりか……? ここには一個中隊を残し、二個中隊を海岸へ向かわせろ。絶対に敵部隊を水際で食い止めるのだ」

「「「はっ」」」


 レシュケの命令を受け、司令部の前庭に集結していた守備隊の中から二個中隊が海岸に向けて移動を開始する。

 迅速な兵の展開にレシュケを含め守備隊司令部の面々は自信を持っていたが、その様子を高空から監視されていることなど誰一人として知る由もなかった。


*      *


 セーヴィル沖合に到達した第一遠征打撃群は、ミサイル・フリゲートやミサイル駆逐艦を前進させ海岸に構築された砲塁と砲撃戦を繰り広げていた。

 高度な射撃システムを持つミサイル・フリゲートやミサイル駆逐艦からすれば即製の砲塁の制圧など造作もないはずだが、各艦の砲の照準は甘く射撃速度も通常より遅いものだった。


「敵弾、来ます!」

「今度は本艦に命中しそうか?」

「いえ、弾道計算によれば近弾になります」

「とはいえ、段々と近づいてきたな……艦長、狭叉される前に一度距離を取った方がいいかと」


 砲塁に向けて砲撃を続けるミサイル駆逐艦「スタレット」のCICで報告を受けた戦術行動士官は、隣のコンソールに座る艦長のハワード・シラー中佐に進言する。


「そうだな。敵砲塁から距離を取ろう」

「この動きで敵が勝てると勘違いしてくれるといいのですが……」

「そう願いたいものだ。作戦とはいえ、こうも撃たれ続けるというのは気分のいいものではないからな」


 LSDに表示されている砲塁を忌々しく見つめたシラーは、作戦開始前に伝えられた自艦の役割を思い返す。


 ――セーヴィルに到達する数時間前。

 強襲揚陸艦「ファルージャ」の作戦センターでは、海兵隊危機行動チームが海軍の連絡将校を交え上陸に向けた打合せを開いていた。


「UAVが撮影した画像によると、セーヴィルに残る海上戦力は砲艦が四隻。あとは近郊の海岸に数門の砲を配備した砲塁が確認されています」

「一気にセーヴィルを占領するとすれば、港を奪取したいところだが……」

「問題は港湾地区と居住区の距離が近すぎる。敗走した帝国兵が逃げ込んだ場合、住民を市街戦に巻き込んでしまう可能性もある」


 ホワイトボードに貼られた写真やセーヴィルの地図を前に、参謀将校や連絡将校たち腕組や顎に手を当て険しい表情を浮かべる。


「極端なことを言えば我々は正義の味方ではない。住民を巻き込んでしまっても仕方がないと割り切ることも出来るだろう」

「だが、それでは総帥閣下の意に背いてしまうことになる。王国民に反イーダフェルト感情を抱かせるのは避けねばならん」

「となると、多少無理することになるが海岸への強襲上陸……プランBで行くしかないか」


 作戦幕僚を務めるロバーツ少佐の発言に、全員が同意の意を示す。

 作戦センター内の意見がまとまると、彼らのやり取りを見守っていた第3海兵遠征部隊指揮官のグレン・コーツ大佐が口を開いた。


「方針は決まったな。作戦幕僚、プランBの説明を頼む」

「はっ」


 指名されたロバーツは短く返事すると、ホワイトボードの前に立つ。


「プランBは主に三つのフェーズに分かれます。第一フェーズは艦艇の砲塁攻撃による敵守備隊主力の誘引。第二フェーズは敵砲塁の破壊と海兵部隊による海岸への強襲上陸。強襲上陸にはA中隊及びB中隊を投入し、誘引した敵主力を戦闘不能にします」

「質問よろしいですか」


 そう言って手を挙げたのは、海軍の連絡将校を務める浅井涼香少佐だった。


「敵守備隊の誘引に成功した場合、砲塁の制圧はどの時点で行うことになるのでしょうか」

「攻撃のタイミングは敵守備隊が海岸周辺に展開を始めてからになります。敵の動向については、海軍にも逐一共有いたします」

「よろしくお願いします」

「第三フェーズは敵司令部の制圧になります。敵司令部となっている領主館は四階建。C中隊はCH-53K及びUH-1Yにより敵司令部を空中強襲し、敵指揮官を捕縛又は殺害します。A小隊は司令部周辺の警戒と監視。B小隊は中庭、C小隊は屋上から邸内に侵入し制圧を目指します」


 ロバーツが説明を終えると、再びコーツが口を開く。


「諸君、本作戦は綿密な連携がカギとなる。浅井少佐、海軍には負担を強いてしまうがよろしく頼む」

「お任せください。敵主力を釣り上げられるよう派手に立ち回って見せましょう」


 打合せ終了後、作戦の内容は各部隊や艦長たちにも伝達され上陸に向けた準備が急ピッチで進められるのだった。


 時は戻り「スタレット」を含めた各艦艇は砲塁に対する攻撃を牽制射撃に留めながら、一定の距離を保ち形だけの攻撃を続けていた。


「艦長、MEU司令部より通信。敵守備隊主力の誘引に成功。各艦は砲塁の制圧に移行せよと!」

「ようやく来たか!」


 通信士の報告に、シラーは喜色を浮かべて叫んだ。


「戦術、聞いての通りだ。思いきり喰らわしてやれ」

「了解。これまでの鬱憤を晴らしてやります」


 そう言って戦術行動士官の命令により撃ち出された5インチ砲弾は、先程までの攻撃と違い正確に砲塁に設置された砲を破壊していく。

 MEU司令部から同様の報せを受けた各艦も砲撃を開始し、特にミサイル・フリゲートが搭載する57ミリ速射砲の弾幕は凄まじく海岸は瞬く間に黒煙に包まれた。


『艦橋よりCIC、敵砲塁の沈黙を確認!』


 艦橋からの報告を受けるまでもなく、モニターに映る巨大なキノコ雲を見れば砲塁がその機能を失ったのは明白だった。


「通信、司令部に敵砲塁の破壊に成功を伝えろ」

「了解」


 シラーが命じてから数分後、後方で待機していた強襲揚陸艦やドック型揚陸艦等に搭載されていたAAVP7 RAM/RS EAAKやLCACが発進し、横列をなして海岸へ向かていく。


『上陸まで五分!』


 完全武装した海兵隊員とL-ATV CTV三輌を搭載したLCACは、海上を疾走し眼前の海岸に乗り上げようとしていた。

 海岸に迫るLCACは合計で八隻。

 そのうち二隻に歩兵中隊が乗船し、残りの六隻にはM1A1エイブラムスや装甲車等の戦闘車輌が搭載されている。


『こちらA中隊、レッドビーチに上陸。敵の抵抗はなし。これよりCLZの確保に移る』


 先行するAAVP7に搭乗し上陸を果たしたA中隊からの通信に、PTMの中で上陸を待つB中隊の隊員たちは大いに沸いた。


『海岸まで十メートル……五……四……』


 LCAC操縦室からのアナウンスを聞きながら、隊員たちはそれぞれの小火器に初弾を装填する。

 砂浜に乗り上げたLCACの艇首側傾斜路が開くと、銃塔にM2重機関銃を搭載したL-ATV CTVが勢いよく発進した。


「走れぇ! 前の奴に遅れるなっ!」

「行け行け行け……!」


 PTMから出た隊員たちは傾斜路を駆け降りると、先に上陸したA中隊の隊員たちと海岸一帯の制圧に動き出す。

 少し離れた地点ではM1A1エイブラムスがガスタービンエンジンの咆哮を轟かせながら、前方へ駆け抜けていく。


「敵はこの砂丘の奥に陣を敷いているようです」

「偵察小隊で威力偵察を行うか――『敵襲ッ!』――どうやらあっちから来てくれたか」


 中隊長たちがドローンの撮影した映像を確認しながら今後の計画を検討していると、丘裾の辺りで幾本かの土柱が上がり警戒していた海兵隊員が敵襲を告げる。

 砂丘に視線を向けると、銃剣を付けた小銃を手に帝国兵たちが下ってくるのが見えた。


「帝国兵からダンスパーティーのお誘いだ! お前たち、丁重にお相手して差し上げろ!」

「「「了解!」」」


 中隊長の命令で伏射や膝射の姿勢を取った隊員たちや車輌に搭載された重火器の銃口が敵に向けられる。


「敵を海に追い落とせ!」

「突撃! 帝国兵の精強さを見せてやれ!」


 叫び声を上げながら突撃してくる帝国兵たちに動じることなく、隊員たちは上官からの命令をじっと待つ。


「――撃てぇ!」


 帝国兵をある程度引き付けた瞬間、並べられた銃口が一斉に火を吹いた。

 さらに一緒に上陸した海岸射撃統制班により砂丘の奥に構築された野砲陣地に対して、沖合にいる駆逐艦からの艦砲射撃が行われ瞬時に無力化される。


「お、俺の腕がああぁぁ!?」

「だ、誰かこいつを、俺の弟を助けてやってくれ!」


 攻勢からものの数分で帝国側は地獄絵図と化した。

 M1A1エイブラムスの対目的対戦車榴弾によって左腕を吹き飛ばされた帝国兵がのたうち回り、下半身を失くした兵士の遺体を担いだ兵士が衛生兵を求め駆け回る。


「――態勢を立て直す! 退けぇ!」


 その様子に帝国軍側指揮官が後退を命令すると、それまで絶望的な突撃をしていた帝国兵たちは我先にと逃げ始める。


「敵は後方で再編成するようだな」

「はい。ドローンの映像によると、この位置に集結しているようです」

「迫撃砲の用意は?」

「出来ています」

「五分後、この位置に砲撃を加えろ。その後、歩兵部隊による掃討を行う」


 そう言って部下を迫撃砲陣地に向かわせた中隊長が「ファルージャ」に視線を向けると、C中隊を乗せたCH-53KキングスタリオンやUH-1Yヴェノムがセーヴィル市内の敵司令部に向かい発艦するところだった。


『目標に一個中隊規模の戦力を確認。C中隊はヘリの援護を受けながらこれを排除。敵指揮官を捕縛もしくは殺害せよ。幸運を祈る』


 機内にいるC中隊の隊員たちは、同行する指揮管制機からの情報を聞きながら静かに降下の時を待つ。


「野郎ども、今一度任務を確認する! 我々B小隊は中庭に降下し、邸内に突入。屋上から突入するC小隊と連携して敵を追い込む。敵は我々に及ばないものの近代的な武器を装備している。敵を甘く見るなよ!」

「「「サー、イエッサー!」」」


 小隊長が部下たちに向けて作戦を確認している間に、B小隊を乗せたヘリが敵が司令部を置く領主館の中庭上空に侵入する。


『中庭付近に敵影を複数確認。バトラー2、排除せよ』

『バトラー2了解』


 突如として現れたヘリの姿に、中庭で歩哨をしていた帝国兵たちは呆気にとられる。

 そんな様子の帝国兵たちに向け、B小隊に同行していたAH-1Wスーパーコブラが機首に搭載する20ミリガトリング砲で薙ぎ倒した。


『中庭の周囲に脅威なし。B小隊、降下開始』

「ファストロープ降下! 行け行け行けーっ!」


 CH-53Kの後部ランプが開かれると、垂らされたロープを伝い隊員たちが次々と中庭に降り立ち小銃の銃口を四方に向け態勢が整うまで警戒する。


「中庭に敵襲ぅー!」

「ただちに迎え撃つぞ! 続け!」


 中庭の騒ぎに気付いた士官はそう言うと、近くにいた分隊を連れて中庭に向けて走り出す。


「中玄関より分隊規模の敵が接近中。ブルーム31、そこから援護は可能か?」

『ブルーム31了解。援護します』


 警戒していた隊員の要請により、上空でホバリングしていたブルーム31ことCH-53Kの右側面窓に搭載されたM2重機関銃が中玄関に向けられた。

 帝国兵の先頭が中玄関の扉を開けた瞬間、隊員たちの持つM27IARとM2重機関銃の射撃を受け次々と絶命していく。


「クリア!」

『こちらC小隊。これより邸内に突入する』

「了解。B小隊も邸内に突入する」


 B小隊はM2重機関銃によって粉々になった中玄関から邸内に突入すると、部屋を捜索しながら二階へと上がる。


「一階は敵に制圧されたぞ!」

「二階のバリケードで食い止めろ! これ以上先に進ませるな!」


 二階の廊下では机やベッドといった調度品を使った即製のバリケードが築かれており、帝国兵はその内側で待ち構えていた。


「クソッ。あの防備じゃこっちにも被害が出るな……」


 廊下の角から手鏡で様子を確認した小隊長は、帝国側の防備に舌打ちした。


「こちらB小隊。敵さんが歓迎パーティの用意をしていて迂闊に前進が出来ない。C中隊の状況はどうか」

『こちらC中隊。こちらは閑散としている。シャンパンの一杯でも欲しいところだ』

「了解。こちらも可能な限り早くバリケードを突破する」


 C中隊との通信を終えた小隊長は受話器を無線機に戻し、再び手鏡でバリケードに隙がないか観察する。


「さて、あれをどうするかだな……」

「外にいるヴァイパーに支援を求めましょう。こんな所でバリの突破に時間を取られたくはありません」

「そうだな。通信、上空のヴァイパーに支援要請だ」

「了解」


 通信兵が要請してから数秒後、窓の外からAH-1Wの20ミリガトリング砲の掃射によりバリケード諸共帝国兵たちは肉塊へと変わった。


「よし、行くぞ!」


 バリケードが排除されたことを確認した小隊長が叫び、小隊は一気に廊下を駆け抜けていく。

 咄嗟に伏せたことでAH-1Wの掃射を生き延びた帝国兵が反撃しようとしたが、そのような素振りを見せた瞬間に隊員の持つM27の短連射によって即座に無力化された。


『こちらC小隊。四階から三階の制圧完了。敵指揮官は見当たらない』

「B小隊了解。A小隊、邸内から出てきた人間はいるか?」

『こちらA小隊。邸内から出てきた人間はなし』

「了解。――ということは、敵指揮官はこの先の部屋だな」


 無線を聞いた小隊長は降伏した数名の帝国兵を一個分隊に任せ、残り一室となった扉の左右に隊員を待機させた。


「敵も中で待ち構えているはずだ。油断するなよ」


 隊員たちに注意を促しながら突入しようとしたとき――。


『こちらに抵抗の意思はない。普通に入ってきたまえ』


 中からかけられた思いがけない声に小隊長たちは驚きの表情を浮かべるが、意を決して部下に扉を開けるよう命じる。

 言葉の通り反撃がないことを確認し小銃を構えながら室内に入ると、胸元に勲章を下げた将校が数名の幕僚と立っていた。


「セーヴィル守備隊の指揮官とお見受けしますが、いかが?」

「いかにも。私がセーヴィル守備隊司令官ヘルベルト・レシュケ准将である」

「――閣下、勝敗は決しました。降伏なさいますか?」


 小隊長の言葉に、レシュケは数秒だけ考える素振りを見せてから静かに頷いた。


「……貴軍に降伏する」

「閣下のご英断感謝いたします。では、こちらへ」


 レシュケは腰に下げていた拳銃を小隊長に手渡すと、両側を隊員たちに固められながら幕僚と共に館の外に連れ出されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る