24 はじめてのランクアップ

 蒼穹のような青。海原のような青。

 新しい朝のような、曇りひとつない羽撃はばたききがうまれた。


 それは、正しき者には希望の炎。

 しかし邪悪なる者にとっては、骨をも焦がす獄炎。


 キングゴブリンの前で、我が物顔ではばたいていた黒い鳥は、蚊のように小さくなって落ちた。


「ば……ばかなっ!? わ……ワシのブラックバードが!? 地獄からの使者が!? ぐわぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 俺とカナリアが放った幸せの青い鳥は、ゴブリンと名の付く異形の者たちをまとめて焼き尽くしていた。

 そばにあった棚には焦げ目ひとつ付けず、天へと舞い上がっていく。


 そしてはばたきにあわせ、青き光の鱗粉をまき散らす。

 逃げまどっていた人々は、春の木漏れ日を感じたように立ち止まる。

 『るるぽーと』の周囲を徘徊していたゾンビたちは、その光に触れただけで灰となって崩れ去っていく。

 外に出て戦っていた冒険者たちは、誰もが口をあんぐりさせたまま空を見上げていた。


『伝説の鳥を召喚したことと、キングゴブリンを倒したことにより、2レベルアップしました』



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 緊急クエストが完了したので、『月島冒険者ギルド』に戻った俺たち。

 受付嬢はすでに報告を受けていたようだが、なぜか抜け殻になっていた。


「……救出系のクエストは冒険者の被害が出やすいのに、死傷者ゼロ……。そのうえ生存者を全員救出……。それどころか月島にいたゾンビを全滅させちゃうなんて……。ナイトさん……あなたはいったい、どれだけすごければ気が済むんですか……」


 彼女はどうやら俺のしでかしたことに驚いて、放心しているようだった。


「俺はたいしたことはしてねぇよ。みんなで協力した結果だ」


「はいはい、そうですか……。もうなにもかもデタラメすぎるので、そういうことにしておきます……。クエストの報酬のほうは、あとでギルドバンドのほうに振り込んでおきますね……」


「ああ、よろしく頼む」


「あと……ナイトさんの職業は『戦士』でしたけど……他の冒険者さんたちの報告により、『魔装戦士』ということになりました……」


「魔装戦士?」


魔装置マギアを使って戦う職業のひとつですよ……。ナイトさんはクエストの際、自動車を使ってゾンビを倒したり、生存者を救出したりしたそうですね……」


「ああ。でもそれは俺の力じゃなくて、ほとんどがミッドナイトの力だ」


「いいんですよ……。竜騎士の狩るドラゴンの功績は、騎乗している騎士のものになりますから、それと同じです……」


「そっちがそれでいいなら文句はないよ。魔装戦士ってなんかカッコイイしな」


 すると、俺の一言に火が付いてしまったかのようにカッと目を見開く受付嬢。

 燃えるような瞳で「いいわけないじゃないですかっ!」と怒鳴りつけてくる。


「魔装戦士って中級職のひとつで、なりたくても簡単になれる職業じゃないんですよ!? 訓練を積んだうえに実戦で認められないといけないのに! それを、初めての実戦で認めさせちゃうなんて、どんだけすごいんですかぁーーーーっ!?」


 どれだけすごいことをしたのか自覚のない俺が歯がゆくなったのか、とうとう怒りだしてしまった。


「しかも功績まで認められて、FランクからEランクに昇格しちゃうなんて! 普通だったら1ランク昇格するのに5年はクエストをこなさないといけないんですよ!? それなのに、たった1回のクエストで昇格しちゃうなんて……間違いなく世界最速ですっ! どんだけぇぇぇぇーーーーーっ!?!?」


『ランク昇格の世界記録を塗り替えたため、レベルアップしました』

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