22 宿敵との遭遇
ゲートの中にトレーラーハウスごと乗り込むと、そこには驚愕の光景が広がっていた。
駐車場には車が無く、かわりに家電製品や衣服、水や食料品が棚に整然と、そしてずらりと並べられている。
まるで大型通販サイトの倉庫のような有様だった。
モールじゅうがスッカラカンだったのは、たぶんここに集められていたからだろう。
そしてその最深部には、アクセサリーや現金の山に囲まれ、革張りのソファにふんぞり返るひとりの中年男がいた。
中年男はダイヤモンドのサングラスをかけて黄金の杖を持ち、財宝を全身にまとっている。
葉巻を何本も咥え、高級そうなワインをひとりでがぶ飲み。
目の前でキャンプファイヤーのような火を焚いて、人々に裸踊りをさせていた。
「もっと踊れ! 踊れぇ! この動画を配信すれば、また助けが来て、またワシが儲かる! それにいい酒のツマミになって、一石二鳥だ! デキる男というのはこういうものなのだ! がはははは!」
中年男のまわりにはクロスボウで武装した黒服の男たちがいる。
どうやら力ずくで、避難してきた人たちを従わせているようだ。
黒服からなにかをささやきかけられた中年男は、ハッと俺のほうを見やる。
「つ……ついに助けが来おったか! このワシをここまで待たせるとは、役立たずめが!」
同時に裸踊りをさせられていた人たちも気づいて、ミッドナイトに押し寄せてきた。
「た……助けが、助けがきたぞぉ!」
「助けて! 私たちはあの人たちに脅されて、働かされているの!」
「やった! これで自由になれる!」
ゾンビのように車体に取り憑く人々。
遅れて中年男がドスドスとやって来て、杖で人々を叩きまくっていた。
「どけ、どけ、どけぇ! ワシがいちばん最初に乗るのだ! 貧乏人はあとあと! お前らは、金目の物を後ろのトラックに積むのだ! ほら、さっさとせんか!」
「そ……そんな!? 助けが来たんだから、もういいだろう!?」
「やかましい! 殺されたいか!」
中年男は黄金の杖をゴルフクラブのように振りかざし、反論してきた男の頭を殴りつける。
男が倒れても、容赦なく打ち据えていた。
「このっ! このっ! このっ! 貧乏人がこのワシに口答えすることは許さんっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ!」
「お……おい、やめろ!」
俺は助手席の窓を開けて制止したが、中年男はギロリと睨んでくる。
「ほう、いい車ではないか……! その車、このワシがもらってやろう……!」
中年男は助手席のドアをガチャガチャやる。しかし開かないとわかるや窓から顔と手を突っ込んできて、カナリヤの胸倉を掴んだ。
腕を掴んで止めようとしたが、ヤツは何のためらいもなく杖の石突きで俺の鼻を突いてきやがった。
俺は痛みにのけぞり鼻を押える。鼻血があふれて止まらなくなっていた。
「お前らのような若造とメスガキが、無断でワシの車に乗っていいと思っているのか! さっさと出ていけ! 出ていかぬのなら、力ずくで引きずり出してやるっ!」
カナリアは弱々しく抵抗している。
「や……やめて、放して……!」
「このワシに口答えするのは許さんといっただろう! ワシはなぁ、お前のような者の足元にも及ばぬ偉人なのだ! これから異世界を制する、大日本重工! その心臓部ともいえる宣伝部の部長、ご……!」
その、ゲロみてぇな名前の一文字目が鼓膜を揺らしたコンマ1秒後、俺の額に稲妻が走る。
腕の筋肉が膨れ上がり、己の骨を砕くのもいとわぬパンチをソイツの顔面にめり込ませていた。
「ごぶぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
中年男の顔面は陥没。
サングラスの破片と前歯をまき散らしながらブッ飛んでいく。
まわりの人々は海が割れるようにサッと身をかわす。
中年男は背中から棚に突っ込み、崩れてきた棚の下敷きになった。
ズズン! と振動が届く。
助手席のカナリアが、不安そうな顔で俺を見ていた。
「……な……ナイト、さん……?」
カナリアはすっかり怯えている。
ミッドナイトのまわりに集まっていた人たちも、俺の顔を見るなり「ひいっ!?」と後ずさっていた。
俺はどうやら、他人様が直視できないほどの恐ろしい形相をしているらしい。
そりゃそうさ。だってついに見つけたんだからな。
1匹目の、ターゲットを……!
大日本重工、宣伝部部長『
俺をさんざん轢いてくれたヤツを……!
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