21 はじめての戦闘スキル

『先ほどマスターが行なった体当たりは「パワーチャージ」。マスターが身に付けた、戦士のスキルのひとつです』


「戦士のスキルだって? あ、冒険者ギルドに戦士で登録したから……?」


『そうではありません。トレーラーハウスで冒険者たちを運搬している際、「タクシーメーター」のスキルで得たものです』


「なに? タクシーメーターって、魔力だけじゃなくてスキルも吸収するのかよ?」


『はい。しかしスキルの場合は、吸収という表現は正しくありません。元の持ち主のスキルは無くなりませんから、厳密には複製というべきでしょう』


「そ、そうなのか……。他にはどんなスキルがあるんだ?」


『戦士のスキルでいえば、「パワースラッシュ」があります。これは剣を振り払い、全方位の敵を攻撃するというものです』


 スキルというのはミッドナイトが覚醒させていたので知っていたが、自分には縁のないものだと思っていた。

 しかしこの俺もついに、スキルが使えるようになったなんて……!


 また一歩、異世界に近づいたような気がして、さっきまであった恐怖心などどこかに消し飛んでいた。

 呻き声とともに立ち上がってくるゾンビたちのただ中に躍り込んでいく。


「……パワースラッシュ!」


 その決めゼリフだけで、腕の筋肉が数倍に膨れ上がった気がした。

 剣舞のようにクルリと一回転、するとそれだけでゾンビたちがなぎ倒されていく。

 俺は本来の目的などすっかり忘れ、ゾンビを斬り刻むのに夢中になっていた。

 気づくと、公衆電話の上にいた親子連れがポカーンと俺を見ている。


「す……すごい……!」


「あれだけのゾンビを、ひとりで相手にするなんて……!」


「か……かっこいい! お兄ちゃん、冒険者だよね!?


 少年の声で我に返った俺は、羨望のまなざしに向かって手を差し伸べた。


「……そうだ、俺は冒険者だ。お前たちを助けに来たんだ」


『いまのマスターの武器ではゾンビたちは倒せても、殺すことはできません。早く戻ってきてください』


 なんだかハラハラしている感じのキッズの声に急かされ、俺は親子連れをトレーラーハウスまで誘導する。

 途中でゾンビに襲われたが、パワースラッシュのおかげで簡単に蹴散らすことができた。


『冒険者としての尊敬を初めて得たことにより、レベルアップしました』


 その後、キッズの勧めで新たに『サーマルセンサー』のスキルを獲得。

 これはミッドナイトに熱探知の機能を持たせるものだった。

 目視の距離の熱源がわかるのだが、壁の向こうでも察知できるというスグレモノ。

 死体であるゾンビには体温が無いので、体温ほどの熱があり動いているものは生存者という判別ができるわけだ。


 このスキルにより、生存者捜索はさらにはかどる。

 表に出て助けを求めていた者たちだけでなく、ゾンビから隠れて息を潜めている者や、バックヤードに立てこもっている者まで救出することができた。

 ショッピングモール内にある人とおぼしき熱源をすべて回収したあとで、キッズがさらなる発見をする。


『屋上に巨大な熱源を感知しました。発火によるものだと思われます』


「そこに人はいるのか?」


『距離が離れているため人間の熱源は感知できません。近づいてみればわかるはずです』


 『るるぽーと』の屋上は駐車場になっている。

 施設内からはエレベーターで行けるようになっているが、さすがにミッドナイトで乗り込むわけにはいかないだろう。

 しょうがなくいったん施設の外に出て、駐車場までの道のりである坂を登って屋上まで向かう。


 屋上にはバリケードが敷かれていて、その上にはクロスボウで武装した黒服の男たちがいた。

 『サウンドセンサー』のスキルで、「助けに来た!」と呼びかけると、トラックで作られたゲートが開く。

 トラックはガソリンが切れているようで、人々が押して動かしていた。


 その人たちは首輪に下着姿で、黒服から鞭で打たれこき使われている。

 いままでとは違う状況に、俺は嫌な予感がした。

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